ダイナミクス的恋愛模様・1

正しいダイナミクス的恋愛のススメ
      5601文字

「長谷部くん、ただいまぁ」

 ふわふわとした声で玄関が開く音がして、振り返ると顔を赤くした光忠が立っていた。
「おかえり。飲み会お疲れ」
「ありがと。あれ、長谷部くんは仕事?」
 ダイニングテーブルでノートパソコンを開いている長谷部を見て光忠が目を丸くする。
「少しな。あとはメールチェックしたら終わりだ」
 ふうん、と呟いて光忠が長谷部の足下にぺたんと座ったのを見て、おや、と長谷部は片眉を上げた。

 どうやら今日の光忠は甘えたい気分らしい。ぽすん、と長谷部の太股に顎を置いて、くふくふと笑っている。
「酔ってるな。何杯飲んだんだ?」
「んー、日本酒一合くらい?」
「飲み過ぎだな。とっととシャワー浴びて来い」
 軽く光忠を足で払うふりをしたが、光忠はさっと開いた足の間に体を滑り込ませた。

「えー、構ってよ」
「このメールチェック終わったらな」
 カチカチとマウスを操作していると、不意に足の内側を撫でられてびくりとする。
「おいこら酔っ払い」
「なあに?」
「なあに、じゃない。仕事してるんだからちょっとは我慢しろ」
「えー」
「……光忠、”Stay”」

 少々卑怯かと思いつつもコマンドを使うと、光忠は渋々と長谷部の太股に顔を埋めたまま大人しくなった。これでよし、と長谷部は再びノートパソコンに視線を戻し、キーボードに文章を入力していく。

 カタカタカタ。

「ねえ、終わった?」
「まだだ」

 カタカタカタカタ。

「終わった?」
「まだ」

 カタカタ、タン。
 エンターキーを押してざっと内容を読み返してから、マウスのカーソルを操作して送信ボタンを押す。ふう、と息を吐くと、そっと指先で股間をなぞられたので慌てて視線を落とす。
「おい」
「もう終わったでしょ」
 そのままやわやわと性器を揉みしだかれる。思わず熱い息を吐くと、にやりと得意げな笑みが返ってくる。

「……今日は随分甘えただな」
 そういえば最近お互い仕事が忙しくてあまりスキンシップの時間が取れていなかった。その反動だろうか。
「駄目?」
「駄目じゃないが……あんまり聞き分けがないとお仕置きするからな」
 わしわしと光忠の頭を撫でる。こうすると普段は髪型が崩れるとあまりいい顔をしないが、今は気持ちよさそうに目を細めているから、これは本当に珍しいなと長谷部は思った。

「いいよ。たまにはさ」
 人差し指で長谷部の太股をつうっとなぞって光忠はうっそりと笑った。蜂蜜色の瞳がとろんと潤んでいる。唇から覗く赤い舌がやけにセクシーに見えて、長谷部はごくりと唾を飲んだ。パートナーのいつになくしおらしい様子にDomとしてのスイッチが入るのを感じる。明日の予定が何も入ってないことを確認してから、パタンとノートパソコンを閉じる。

「…………言ったな?」
 光忠の顎を掴んでくいっと上向かせて、長谷部は口の端を上げた。
「お仕置きだ、光忠。ベッドに行くぞ」


 まだふわふわとしているらしい光忠をベッドに連れていき、長谷部は寝室のクローゼットの奥底から封印していた段ボールを取り出した。
「それ何?」
「俺の秘密道具」
 まさか光忠と暮らしてから使う日が来るとは思わなかったけれど。
 長谷部は段ボールからいくつかの道具を見繕い、それらを抱えてベッドへと戻った。
 何をされるのかと不安半分、期待半分の顔で見つめてくる光忠だったが、長谷部が抱えているものに気づくと目を丸くした。
「長谷部くん、それ」
「光忠、”Strip”」

 投げられたコマンドに光忠は口を閉じ、渋々といった様子で服を一枚ずつ脱いでいく。はだけたシャツから覗く、よく鍛えられた体をじっと見つめながら、長谷部はにいっと笑って見せた。
「なんだ。不満そうだな」
「……まあ、ね」
「ああ、そこまででいいぞ。”Stop”」

 ぴたりと動きを止めた光忠ににじり寄り、下着の上からそっとふくらみを撫でる。
「期待してるくせに」
「っ……ん、」
 はあと熱い息を漏らす唇を舌でぞろりと舐めながら、下着の合わせ部分から兆し始めた光忠の性器を取り出し、軽く上下に扱く。ぴくんと手の中で反応する熱がいとおしい。

「は、ぁ、はせ、」
「……まだ、使ったことなかったよな」

 そう言って長谷部は手にしていたオナホールを光忠の切っ先にゆるく被せた。
「長谷部くん、」
「それで扱くところを見せてみろ。うまくできたらご褒美をやる」
 きゅ、と引き結ばれた形のいい唇を親指でなぞる。
「光忠、返事は?」
「……わ、かった」

 眉を下げて溜め息をつくと、光忠は膝立ちになってオナホールを掴んで陰茎に被せていった。
「……っく、……ん、」
 低い呻き声を上げながら眉間に皺を寄せる姿がセクシーだ。使い捨てのオナホールは中にローションが仕込んであって、前に長谷部も同じタイプのものを使ったことがあるのでなんとなく感覚はわかる。びっしりと埋められたつぶつぶに包みこまれて我慢できない筈だ。

「は、ぅ、んん」
 じゅこ、と光忠の手が動く。ぐちゅ、じゅぽ、と水音を立てながらオナホールが上下に動かされる。よく見ると腰もゆるゆると振られている。
 誰よりうつくしい男が自分の命令に従って、服も半端に脱いだ姿で自慰をしている様子に胸が高鳴る。長谷部の唇からはふ、と熱い息が漏れる。ああ、たまらない。

「っ……はせべくん、ぁ、駄目、出る……っ!」
「”Stop”」
 長谷部のコマンドに光忠の手がびくりと動きを止める。
「な、んで」
「言っただろう、お仕置きだって」
 いまにも精液を吐き出そうときゅうとせり上がった陰嚢を下着の上から撫でながら長谷部は笑った。

「本当に嫌なら使ってもいいぞ、セーフワード」

 助け船を出したつもりだったが、しかしこう見えて意外に負けず嫌いなところのある光忠は、長谷部の言葉にぐうと唇を曲げた。
「……まだ、これくらいは」
「そうか。なら、そのままだ。”Stay”、できるな?」
 こくりと頷いたのを確認して、長谷部はソックスガーターと靴下以外の服をさっさと取り払い、背中をベッドヘッドに預けて光忠に見せつけるように両足をM字の形に開いた。

 光忠の媚態を見て前はとっくに兆している。左手でそっと陰茎を握ってゆるゆると上下に動かした。
「はぁ、んっ」
 光忠のギラギラとした視線が注がれていることに気を良くしながら、長谷部は右手で後ろの窄まりをくるくるとなぞった。何度となく光忠に可愛がられたそこは、既にくぱくぱといやらしく開閉して侵入者を待っている。浅い入り口でちゅぽちゅぽと抜き差しすると、腰の奥から焦れったい快感が立ち上る。
「ん……」

 長谷部は持って来ていたもうひとつの道具にとろとろとローションをふりかけて馴染ませていく。光忠が何か言おうと口を開いたのを察して、「”Stay”」と声をかけながら道具――アナルバイブを自分の入り口に押し当てた。
「く、うっ……」
 ちゅぽん、と一粒目が入り、腹の中で圧迫感とじわりとした快感を覚える。
「ん、んんっ」
 首をゆるく振りながら二粒、三粒と中へ埋めていく。しばらく使っていなかったからか、久々の感触にぶるりと体が震える。は、は、と浅い息を吐きながら全て入れ終わり、そこでようやく長谷部は光忠に視線を戻した。

「……いいぞ、動いて。”OK”」
「それって」
「俺をオカズにシコってみろ」
 了承の返事代わりに光忠の手がゆっくりと動き出した。それを確認してから長谷部はアナルバイブの電源を入れた。低いモーター音と共に内部で細かく振動する玩具の感触に長谷部は細い悲鳴を上げた。

「ぁ、っ、んーっ、は、ぁあ、あ、」
「っ、長谷部くん、長谷部くんっ」
 光忠が長谷部の名前を呼びながらじゅこじゅことオナホールを上下させる様子を見て、長谷部はハハ、と笑い声をあげた。
「っはは、んっ、随分と、ぁ、かわいい、なァ、光忠?」
「くっ、ぅ、あ、出る、イくっ」
「”Stop”」

 二度目のStopに光忠もお仕置きの意図を悟ったようだった。動きを止めた光忠の陰茎を足先で撫でてやると、ぴくんと太股が震えた。
「ん、俺がイくまで、っふ、射精はおあずけだ。は……いいな?」
 長谷部の手がアナルバイブの取っ手を掴んでずるずると引きずり出す。排泄感にも似た快楽が背筋を駆け上り、目の前がちかちかする。また奥まで挿入し、今度は軽く回す。幾つ目かの玉が前立腺に押し当てられたままぶるぶると震えてたまらない。

「長谷部くんっ……」
「いいぞ、ぁん、っ……”OK”」
 待ちきれないとばかりに光忠の手がオナホールにかかり、三度動き出す。
「ぁ、う、んんっ、は、あ、ぁ、光忠、みつただぁ……」
 甘い声で呼んでやると光忠の手の動きが目に見えて速くなった。長谷部も空いている左手で陰茎をゆっくりと上下に扱き始める。前と後ろからの刺激と、光忠の自慰。五感で感じ取れる全てが快感に結びついて頭がスパークしそうだ。そろそろ果ても近い。瞼を下ろし下半身の感覚に集中する。

「ぁ――ッ、みつ、んん、みつただ、っ、や、ぁ、あんっ、イくっ」
「っ、れ、”RED”!!!」

 絶頂に向かってひた走っていた長谷部は、そのセーフワードを聞いてぴたりと動きを止めた。慌てて瞼を上げれば、そこには歯を食いしばってぼろぼろと涙を零す光忠の姿があった。
「おい、」
「嫌だ……長谷部くんが僕以外でイくの、やだよ……」

 はせべくん、と泣き声混じりに名前を呼ばれて、胸がきゅうと締めつけられた。アナルバイブを抜き、光忠に近寄ってよしよしと頭を撫でる。見た目に反して案外柔らかい髪が長谷部の手のひらに触れた。当の光忠は長谷部の肩に顔を埋めてされるがままになっている。

「オナホもやだ……君がいい、君じゃなきゃやだ……」
 ぐすぐすと鼻を鳴らす光忠に苦笑しながら、長谷部はもう片方の手でとんとんと背中を叩いた。

「俺が悪かった。やりすぎた」
「長谷部くん……」
「よくセーフワードが言えたな。偉いぞ。”Good boy”」
「ん……」
「今夜のおまえは本当に甘えただなぁ。ほら、機嫌直せ」

 かわいい。そう囁いて涙の滲む目尻にキスをすると少し塩辛かった。そのままちゅ、ちゅ、と顔中にキスを降らす。むずがるように顔を背ける光忠の顔を両手で押さえつけて、最後にとびっきり甘いキスをくれてやると、ようやく光忠の機嫌は少し治まったようだった。
「……機嫌、直ったか?」
 こつん、と額を当てる。涙に濡れた蜂蜜色がじっと長谷部を見つめている。
「お詫びに、したいことさせてやる。ほら、おねだりしてみろ」
「…………みに、」
「うん」
「君に、挿れたい」

 光忠の手がオナホを外してベッドの下に投げ捨てる。ぼてっと音がしてシリコン製の筒が床を何度かバウンドして沈黙した。
「あんなオモチャじゃなくて、君のナカに僕の精液いっぱい出したいっ……」
「……いいぞ」
 長谷部はゆっくりと横たわり、先程までアナルバイブの埋まっていた後孔をくぱあと指で開いてみせた。

「おいで、光忠」

 あえてコマンドを使わずに呼べば、光忠はごくりと唾を飲んでふらふらと長谷部の脚に手をかけた。
「はせべくん」
「いいぞ。俺はおまえのだからな」
 そう言い切るのと同時、ずぷぷっと体内に屹立が埋め込まれて息が詰まる。

「っっ! あぁっ、ん、は……みつただ、いい子だ。”Good boy”」
 結合部をそっと指でなぞると、光忠がくっと眉間に皺を寄せた。
「みつただ?」
「……すぐ出そうだから、ちょっと、待って」
「そんなの、何回でも出せばいいだろ。若いんだから」
 長谷部は光忠の首に腕を回してぐいと引き寄せて囁いた。

「いくらでも受け止めてやる。だから、”Come”だ」

「っ! ああ! もう!」
 光忠が長谷部の脚を抱え上げる。
「どうなっても知らないからね」
「お手並み拝見といこうか」
 にやりと笑った唇に噛みつくような口づけが降ってきて、光忠はやはりこうでないと、と長谷部は心の中で充足感を覚えるのだった。

◆ ◆ ◆ ◆

「……しにたい」
 翌朝長谷部が目にしたのは、ベッドの隅で頭を抱えて丸くなっている光忠の姿だった。

「あんな無様を晒すなんてかっこわるい……もうしばらく深酒はしない……」

 どうやら昨日の記憶はきちんと残っているらしい。そして、この様子からするに、光忠的にはあの言動は「無様」ということになるらしい。
「俺はおまえの意外な一面を知れて楽しかったけどな」
「忘れてくれ……」
「嫌だ」

 長谷部は光忠の丸くなった背中側から腕を回して抱きしめる。

「かっこ悪いおまえも、かっこいいおまえも、全部俺のだよ。諦めろ」
 赤くなった耳に息を吹きかけると、光忠は小さく溜め息をついた。
「……君には敵わないなぁ」

 そうして振り返った光忠からキスを返される。唇のやわらかさとぬくもりにうっとりと瞳を閉じてその感触を堪能していると、光忠が「そういえば」と口を離した。
「……セーフワード使っちゃったけど、その、大丈夫だった……?」
 藤色の瞳がきょとんと丸く見開かれた。

「セーフワード使ったからって僕は君を嫌ったりしてないよ。むしろ逆で――」
「あのな、昔おまえが言ったんだろうが。『今後も長く付き合っていく為の、お互いの限界を知る練習』だって。『怖がらずにどんどん挑戦していこう』って偉そうに言ったのはどこのどいつだ」

 言っているうちに長谷部の顔まで赤くなってくる。
「……末永く付き合っていくための、準備のひとつだろ」
「……うん」
「…………おまえの気持ちは、ちゃんと、わかってるから」
「うん」
 そうしてようやく光忠は長谷部を正面から抱きしめ返した。
「……おい、腰に当たってるんだが」
「この流れで勃つなって方が無理じゃない?」
「俺は先にシャワーを浴びたい」
「もうちょっと待って。今ちょっとDomのスイッチ入ってるから。すごく君のことめちゃめちゃにしたい」
「便利な体質だな!」

 この駄犬、と長谷部が笑うと、光忠は目を細めてわんと小さく鳴いてみせたのだった。

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