正しいダイナミクス的恋愛のススメ・5

正しいダイナミクス的恋愛のススメ
     

14780文字

 その日長谷部は朝から散々だった。

 朝食の目玉焼きは焦がすし、洗濯ではうっかり色物と白のワイシャツを一緒に洗って台無しにしてしまうし、資源ごみの日だということに気づいた時には既にごみ収集車はマンションの前を走り去っていたし、そうこうしているうちに昼食のカップラーメンは伸びていた。

 数々の失敗をしたにも関わらず、気分はなんとなくふわふわと浮き足立って落ち着かない。落ち着かないからこそ失敗ばかりしたとも言える。
 今日は光忠と約束した日だ。光忠は今日はランチミーティングがあるとかで、会うのは夕方からの予定だ。

 今夜、長谷部は光忠と一線を越える。

 もうキスもペッティングもフェラチオも済ませている仲で一線も何もない気もするが、そこはそれ。穴に棒が入るか入らないかということは大きな一線であると長谷部は思いたい。処女を捨てることに特に感慨はなかった筈なのだが、いざその時を迎えてしまうとこうしておろおろと狼狽えてしまう。自分で自分が情けなくなる。

 しかも、己の気持ちにある程度の自覚をしてから初めてのプレイだ。最中に一体どんな風に転ぶのか想像もできず、恐れおののくやら恥ずかしいやら。
 この一週間はあまり仕事が手につかず、昨日など上司から「帰った方がいいんじゃないか」と声をかけられる始末だった。厚意に甘えていつもより早く帰宅し、今日に備えて睡眠をたっぷり取ることにした。ただし業務量が減るわけではないので、残してきた仕事は週明けの自分が頑張るしかない。
 落ち着いて座っていられず、意味もなく家の中を上から下まではたきがけをし、フローリングワイパーを隅から隅までかける。キッチンの五徳からユニットバスの洗面台まで磨き上げたあたりですっかり掃除するところもなくなってしまったので、諦めた長谷部はすこし早いが諦めて出かけることにした。


 光忠と約束したのは午後五時、今は午後四時だから、まだ一時間ほど時間がある。最寄り駅前の駅ビルのあたりをうろつこうとふらりと中に入る。まだ十月に入ったばかりだというのに、店内は既にハロウィンの装飾でいっぱいで、一階に入っているパン屋にはジャック・オ・ランタンを模したらしいパンプキンパイ、ケーキ屋にはおばけケーキなるものが並んでいる。これからまる一ヶ月以上の間ハロウィンだけで保たせるのは無理がないか、と思ったが、某有名テーマパークなどもこの時期からハロウィンイベントをやっているらしいので今更だろう。長谷部が小さい頃には馴染みの薄かった海外のイベントが、こうして各企業の涙ぐましい努力で根づいてきているのを見るのはなんだか複雑な思いだ。

 紫とオレンジの毒々しい装飾を横目で眺めながら、エスカレーターで上の階へと上る。レディスのファッションフロアは飛ばして、メンズの階で降りて適当にぶらついていると、フロアの一角で足が止まった。
 そこにはSub用の首輪がガラスケースの中に並べられていた。
 正式な契約を結んだダイナミクスのパートナーの場合、DomからSubへと首輪を贈るのが習わしとなっている。首輪を着けているSubに対してパートナー以外のDomがコマンドを出したりすることは暗黙の了解で禁じられているので、Domからの支配を望まないフリーのSubがフェイクでつけている場合もあるが、多くはパートナー同士の信頼の証である。当然ながら、長谷部は一度も贈った経験がない。
 ガラスケースの中には見るからに首輪だとわかる形状のものから、ファッション性の高いチョーカータイプのものまで様々な首輪が並んでいた。
 その中でも長谷部の目を引いたのはペアの首輪だった。形状は金属製のタグの下げられるペンダントタイプのもので、どうやらタグの部分にメッセージやイニシャルが入れられるようだった。

「何かお探しですか?」

 じっとショーケースの中を眺めていると、真横から声をかけられてびくりとした。三つ揃えのスーツをびしりと着こなした店員がそこに立っていた。

「あ、いや、ええと、ペアの首輪は珍しいと思って」
「ああ、最近はSubの方からもDomの方に何か贈りたいということで、ペアのものも出てきているんですよ。まだ数は少ないんですが」
「へえ」
「特にSwitchの方なんかはこういうタイプのものを選ばれる方が多いですね」
「そう、なんですか」

 そう言われて、まじまじとケースの中に視線を向ける。それをどう取ったのか、店員はさらに言葉を重ねた。

「他のペア製品もございますよ。よろしければお手にとってご覧になりますか?」
「いえ、あの、大丈夫です」

 買う気もないのにこれ以上この場にいるのがいたたまれなくなってきてそそくさとその場を立ち去る。足早に下りのエスカレーターに向かい、フロアから完全に降りてからようやく長谷部は長い溜め息をついた。

 首輪は、ダイナミクスのパートナー間において信頼の証である。
 たしかに、DomからSubへの信頼の証があるなら、SubからDomへの信頼の証があってもおかしくない。結婚で指輪を交わすようなものだと思えばそれほど違和感がないのは、長谷部があまり支配欲の強いタイプのDomではないからかもしれなかった。

 光忠は、ああいうものについてどう考えているのだろう。長谷部はふと思った。同じダイナミクス性を持つ者同士と言っても、Switchは絶対数が少ないので、一般的なSwitchの生態や好みというものが長谷部にはまるっきりわからなかった。Switchの光忠は、パートナーから首輪を贈られたら喜ぶのだろうか。

 そこまで考えてからぶるぶると首を横に振る。まだ正式にパートナーになったわけでもないのに、何を考えているのだ。気が早すぎる。
 きっと長谷部が一言申し出れば、光忠はパートナー契約に快諾してくれるだろう。その程度の自覚と自信はあった。長谷部だって光忠とパートナー契約を結びたいと思っている。けれど、光忠からの告白にきちんと答えを返す前に契約のことを持ち出すのは、どうしても卑怯な気がする。光忠は「そんなこと気にしないよ」と言ってくれるかもしれないが、長谷部がその方法を自分に許すことができない。これまで真摯に長谷部へ向き合ってくれた光忠には、やはりできる限り誠実な対応を返したい。それが礼儀だと長谷部は思う。

 しかし、先週自覚したばかりの自分の執着心や情をさらりと光忠に示せるほど器用でもない。もういっそすべてぶちまけることにして、「この間気づいたんだが、俺はおまえのことを憎からず思っているらしい」と正直に打ち明ければいいのだろうか。いや無理だ。だが告白に返事をする前に一線を越えるのもそれはそれでどうなのだ。体目当てと思われたらどうしよう。
 告白とセックスとパートナー契約。それらを一体どういった順番でこなすのがいいのかわからずにぐるぐる考えながらうろうろと歩いていると、突如ポケットがぶるると震える。スマートフォンを取り出して画面を見ると、光忠だった。『長谷部くん、こんにちは。今駅に着いたよ』と表示されたメッセージアプリの通知を見て、まとまらない考えをとりあえず横に置くことにした。

 慌てて駅ビルを出て改札前に向かうと、壁際に見慣れた長身が立っているのが見えた。長谷部の姿を見つけると、ひらひらと片手を振ってこちらに近寄ってくる。

「お待たせ」
「いや、俺こそ待たせてすまなかった」

 気にしないで、と笑う光忠はこの間持っていた仕事用らしき鞄ではなく、大きめのリュックを背負っていた。おそらく泊まりの荷物が入っているのだろう。なんだか気恥ずかしくなってきて、長谷部は無理矢理に話題を変えることにした。

「そうだ、夕飯はどうする? この辺だと駅前の中華屋か、ちょっと奥にある定食屋が――」
「それなんだけどさ、長谷部くん」
「なんだ」
「僕に作らせてくれないかな」

 ぱちり、と瞬く長谷部に、光忠は照れくさそうに笑う。

「あのね、実は僕料理が趣味なんだ。腕だってそんなに悪くないと思うし、もしキッチンを貸して貰えるなら泊めて貰うお礼に何か作るよ」

 今朝キッチン掃除をしておいて良かった。長谷部はそんなことを思いながら頷いた。

「……なら、お言葉に甘えて」
「やった。じゃあスーパー寄ろうか」
「ああ、こっちだ」


 駅前のスーパーで簡単に買い物を済ませ、長谷部の住む単身者用のマンションに着くと、光忠はてきぱきとツナサラダと豚肉ときのこのパエリアを作り上げた。一口コンロと肩幅ほどしかない狭いシンクで作ったとは思えない見事な出来栄えだった。長谷部の家にパエリア鍋などという洒落た代物はないので、大きめのフライパンで代用はしてあるものの、ローテーブルの上にでんと置かれたパエリアとサラダは彩りも豊かで、それだけでなんだかとても豪華に見えた。

「どうぞ、召し上がれ」
「……いただきます」

 フライパンから取り分け用のスプーンで焦げた部分をこそげ取りながらパエリアを自分用の小皿によそう。豚肉ときのこ、パプリカも適宜乗せて皿に盛り、ぱくりと一口食べる。
「!」
 にんにくとオリーブオイルで炒められた豚肉ときのこ、その旨味が滲み出たスープをたっぷりと吸った米は香ばしく、火の通りもちょうどいい。後味が爽やかなのは入っているトマトの水煮のおかげだろうか。
 一口食べたまま固まっている長谷部を見て、光忠は不安げに眉を下げた。

「……ええと、どう、かな」
「美味い」

 即答して、そのままサラダも食べる。ドレッシングも何やら手作りしていたらしく、市販品のものとは違って甘めでどこかほっとする味がする。セロリなど料理の為にわざわざ買ったこともなかったが、ツナサラダに入ったそれはドレッシングのおかげかあまり癖もなくて食べやすく、今度自分でも買って作ってみようかと思うくらいだった。

「サラダも美味い。店の味がする」
「それはちょっと大げさじゃないかな」
「いや、本気だ」

 真顔で答えると、光忠はふにゃりと笑った。
「よかった」
 光忠を意識している今となっては、その笑顔にまでどぎまぎしてしまう。

「……冷めるぞ、早く食え」
「あ、うん」

 そうしてお互いに無言でパエリアとサラダをつつき始める。男二人が揃えばそれなりに量のあった料理達もあっという間になくなり、フライパンから最後の焦げまで削り取ってから二人で「ごちそうさまでした」と手を合わせた。

「……皿は俺が洗う」
「え? いや、いいよ。一緒に洗おう」
「あのキッチンに二人並んだら邪魔でしょうがないだろ。いい。客なんだから座っていてくれ」

 立ち上がろうとする光忠を制して、長谷部は食器を重ねてまとめてキッチンに持っていった。レバーを倒して水を出し、先にフライパンを水に漬けてこびりついた焦げをふやかしておくことにする。サラダの皿とパエリア用の取り皿は普通に洗剤をつけたスポンジでじゃぶじゃぶと洗っていき、シンクの壁側に設置してあるラックに立てていく。その頃にはフライパンの汚れも若干ふやけているのでそちらも洗う。洗い終わったら布巾でさっと水気を拭いて収納していく。
 タオルで濡れた手を拭き終わって、長谷部はどうしようと思った。やることがなくなってしまった。いや、やることは勿論決まっているのだが、それ以外のやることがない。もう残されている道はひとつなく、しかし長谷部はそのひとつに対してどう出るかまったく決まっていないのである。
 長谷部はDomで、しかも光忠よりは年上だ。抱かれる側とはいえ何かしらリードをしなければならない立場というのはわかっているものの、長谷部には悲しいくらい経験がなかった。告白もまだ、パートナー契約をするのもまだの段階でセックスに踏み切るのが正しいことなのかも未だによくわからない。どうしよう。どうするべきなんだろう。

「長谷部くん?」
「ひっ」

 後ろからぽんと肩を叩かれて思わず情けない悲鳴が出た。

「大丈夫?」
「だ、だだ大丈夫だ」
「うん、大丈夫じゃないね!」

 そのまま両肩を掴まれてぐるりと体を反転させられる。目の前にはにっこり笑んだ華やかな美貌。
「ほら、座って座って。落ち着いて、リラックス」
 そうして有無を言わさずベッドに無理矢理座らされる。がちがちに固まった体を解すように背中をゆっくりと撫でられて、その優しい動きにほっと息が漏れる。

「………………怖い?」

 穏やかに問われた言葉を咀嚼して、ゆっくりと首を横に振る。
「怖くは、ない。ただ、どうしたらいいかわからない」
「何が?」
 咄嗟に言葉が出なかった。自分の胸中に渦巻く感情へひとつずつ名前をつけていくような心地で、長谷部はぽつぽつと口を開いた。
「その、俺はおまえの気持ちにきちんと答えを返していないし、」
「うん」
 光忠がそっと長谷部の手を取ってやわらかく握る。伝わってくる手の温度が強張った舌の動きをゆるゆると溶かしていくようだった。
「……こんな状態のままなし崩し的にセックスをしていいものか、悩んでいる。それに、」
「それに?」
「俺は一応、年上でDomだし、おまえをリードしなければ、と」
 握られた手の上にさらにてのひらを重ねられる。長谷部くん、と名前を呼ばれる。

「『するべき』とか、『しなければ』とか抜きにして、君はどうしたい?」
「……俺、」
「そう。僕は君のしたいことが知りたい」

 したいこと。言われて考える。自分がしたいこととはなんだろう。己に問いかけて真っ先に出た答えをぽつりと口にする。

「俺は、おまえとこれからも一緒にいたい」

 口から溢れた言葉を聞いて、ああそうか、と改めて思う。今まで光忠と過ごして来た時間を思い出す。

「一緒に美味いもの食べて、一緒に馬鹿な話をして、一緒にプレイをしたい。おまえのことを甘やかして、支配して、喜ばせたい。喜んでほしい。光忠、俺は、」

 そこで一度言葉を切る。重ねられたてのひらにさらに自分の左手を乗せて、隣に座る光忠の目をまっすぐに見返した。

「おまえに、俺と正式にパートナーになってほしい」

 蜜色の瞳がまるく開かれる。一瞬遅れてかあ、と色の白い顔に朱が灯った。

「は、せべくん」
「駄目か?」
「そんなことあるもんか! ……すごく嬉しい。これは本当。でも」

 すこしだけ困ったように眉を下げて、光忠が笑う。

「僕まだ君をきちんと満足させられてない気がするから、いいのかなって」
「満足?」
「僕はまだ君との直接のプレイでSub spaceに入ってないだろう」

 金色の優しい眼差しが長谷部に注がれる。

「僕はあの夜、君に『Domとしての悦びを教えてあげる』と約束した。だから、その約束を果たす前に契約に応じるのはフェアじゃないかなって」

 長谷部くん、と温度のある声に名前を呼ばれる。うつくしい顔が近づいてくる。意図を察して目を閉じると、あたたかくやわらかなものが唇を塞いだ。

「ねえ、僕を甘やかして。支配して。喜ばせて」

 吐息の触れる距離で囁かれる。

「そして、君のものにしてくれ」

 とろりと蕩けるような声でそう乞われて、とうとう長谷部は心を決めた。今まで迷っていたのが嘘のように言葉がするりと出てくる。

「”Present”、だ。光忠」
 続く命令を待つ光忠に、伝わるようにしっかりと声を出す。
「キスがしたい」
 降ってくる唇は熱く湿っていた。


「っ、あ、」
 “Lick”と命令すると、一瞬も躊躇わずに足先を舐められて思わず声が出た。命令したのは己である筈なのに恥ずかしい。
「今日はちゃんと着けてるんだね」
 何のことかと思ったらふくらはぎにかかる革ベルトを指で弾かれた。ソックスガーター。以前光忠がまた履いてほしいと言っていたのを思い出して今朝着けたそれを、光忠は見逃さなかったらしい。
「……好きなんだろう」
「大好き」
 ちゅう、とソックスガーターと靴下の間の肌に口づけられる。そのままベルトの下に舌を押し込まれ、肌をぞろりと舐められて肌が粟立った。身動ぎした拍子に脱がされた服がベッドの下に落ちる。
「これ、着けたままシてもいい?」
「……勝手にしろ」
 照れ隠しにぷいと横を向くとくすくすと笑われた。

「長谷部くん、かわいい」
「……前々から思ってたんだが、大の男にかわいいはないだろ」
「ええ? かわいいよ」
「かわいくない」
「かわいい」
「うるさい。”Strip”だ。おまえもさっさと服を脱げ」

 コマンドを出すと、光忠はにこりと笑ってシャツのボタンを上からひとつずつ外していく。一番下のボタンまで外し終わると袖を抜き、焦れったそうにインナーシャツを頭から脱いでいくその様子はなんだかたまらなく色気があった。
 下半身から靴下とジーンズを抜き去り、下着に手がかけられたあたりで”Stop”と声をかけた。

「そのまま、横になれ」
「? うん」

 戸惑い顔の光忠がベッドに体を横たえたのを確認して、長谷部は先程と体勢を入れ替えて光忠の上に覆いかぶさる。
「長谷部く、」
 名前が呼び終わる前に深く口づける。薄く開かれた唇の隙間に舌をねじ込んでぐるりと口内を舐め上げると、光忠は「っん」と鼻にかかった声を上げた。気を良くして歯列をなぞろうと舌を動かしたあたりでかり、と舌に軽く歯を立てられる。思わず逃げを打とうとした体を引き寄せられて、じうじうと舌を吸われながら舌先でくすぐられる。目を開けると、悪戯っぽい光を宿した瞳とぶつかる。長谷部の負けず嫌いに火がついた。
 吸って、舐めて、噛んで。持てる技巧のすべてを使って光忠の口を侵略する。腰に絡む腕の力が緩んだ隙にいったん唇を離し、目の前の喉仏に噛みついた。
「っ」
 急所を噛まれて条件反射的に強張る体を安心させるよう噛み跡を舌でなぞり、薄い皮膚一枚隔てた向こうにある突起をぐりぐりと舌で押す。そのまま首筋にも唇をつけ、つうと舌で舐め上げて胸元へ。薄く色づく小さな突起にそっと口づけると、光忠は明らかに狼狽えたようだった。

「長谷部くん」
「……俺も、おまえに気持ちよくなってほしい」

 さわ、と空いていた手で脇腹を撫で上げると、数秒の間を置いて期待に濡れた瞳を宿した頷きが返ってきた。

「…………いいよ。君の好きにしてくれ」

 ほっと安堵の息を吐いて、長谷部は乳輪を指でゆっくりとなぞった。自分が今までされて気持ちよかった動きを思い出しながら丁寧に指と舌で愛撫する。
 しばらく乳輪やその縁だけを舐めたり触ったりしていると、焦れたようにぴくりと腹筋が動いた。そのタイミングを見計らってちゅうと突起を吸い上げると、明らかな喘ぎが光忠の唇から漏れた。
「ぁ、あ」
 膝が立てられてもどかしげに足先がシーツを蹴る。下腹部に押し当てられた股間からは硬い感触が伝わってきて、ちらりと視線をやるとそこは既に立ち上がり張り詰めていた。

 ああ、これはたしかに、かわいいかもしれない。

 高揚感を覚えながら反対側の乳首も同じように吸って、噛んでやる。長谷部が動く度に、押し上げられた布地越しにぴく、ぴく、と動いて反応を示す男の象徴に興奮する。
 いったん体を離して臍に口づけ、わずかに色の変わった下着の上から膨らみの輪郭を指でつつとなぞった。期待にこくりと上下する喉仏が目に入って思わず唇を舐める。

「…………どうしてほしい?」
 胸の奥から湧き上がってくる獰猛な衝動に縄をかけながら告げる。
「おまえのしてほしいことを、してやる」

 期待と不安に揺れていた瞳が、とろとろと蕩けていく。支配の手綱がきちんとかかったような、確かな手応えを感じる。

「……、て」
「ちゃんと、俺に聞こえるように言え」
「……脱がせて、直接触って。しゃぶってほしい」

 ああ、と長谷部は心の中で溜め息をついた。たまらない。

「よく言えたな……いい子だ。”Good boy”」

 褒めながら頭を撫でてやると、光忠は気持ちよさそうに目を細めた。前髪をかき分けてその額に軽く口づけ、黒のボクサーパンツの縁に手をかけて脱がせていく。
 邪魔な布地をすっかり取り払ってしまうと、そこは硬く立ち上がって先端から蜜を零していた。
 おもむろに指で根本から先端へ裏筋を辿ると、竿全体がぴくんと震え、その拍子に透明な液体がとろりと流れ落ちる。

「……は、ぁ……」
「気持ちいい、か?」
「きもち、いい……」

 低く掠れた声でそう告げられると、長谷部の奥まった部分がきゅんと疼いた。
「……もっと、気持ちよくしてやる」
 開かれた脚の間に顔を寄せる。竿の舌に揺れる玉に唇を寄せ、根本にぐるりと舌を這わせる。先端を軽く握ってくちゅくちゅと動かしながら、浮き出た血管に沿うように舌で舐める。
 張り詰めた亀頭の下、皮がたるんで寄せ集まっている辺りに吸いつきながら、ちろちろと亀頭と竿の境目をくすぐる。鈴口の辺りにぐりぐりと指を押しつけて先走りを塗りつけるようにすると、はあ、と熱い溜め息が聞こえた。視線を上にやると、光忠は軽く目を伏せていた。眉を軽く寄せて唇を引き結んでいるその様子は苦悶の表情にも似ていたが、そうでないことは手の中のものが萎えていないことで明白だ。

「っ、う、あ」

 水音を立てて先端を口内に引きずりこむと、耐えきれないといったような声が漏れる。もっとその声が聞きたくて、何度か軽く抜き差しした後、竿全体を口に含んだ。はせべくん、と掠れた声に名前を呼ばれる。
 喉の奥のやわらかい部分に先端が当たってえずきそうになるのを堪えながら、それでもできるだけ深く咥えこんでじゅうと吸った。口の中でどくりどくりと脈打つ肉塊に言いようのない情と興奮を同時に覚える。
 最初は歯を立てないように慎重に、次第に激しくストロークしていく。部屋の中に水音とくぐもった喘ぎが響いている。ぐ、と口内のものが膨らんだ気がして、さらに動きを早めようとした長谷部の頭に光忠の手がかかる。

「ま、って」
「……なんだ」

 口を離して顔を上げると、目元を赤くした光忠が上半身を起こしてこちらをじっと見つめていた。

「…………君の、中に出したい」
「いいぞ、ほら」

 あ、と口を開けると、そうじゃなくて、と焦れったそうに首を横に振られる。

「君の、お腹の中に出したい」

 胸を満たすのは、ただの興奮なんだろうか。否。パートナーが、他ならぬ光忠が、己の体を求めてくれていることに幸福を感じる。
 余裕ぶっているけれど、長谷部の下腹部だって硬くそそり立っている。
 長谷部は後ろに片手をついて体を倒し、両膝を立てて開いてその間の奥まった部分まで空いた手で広げて見せる。

「……長谷部くん」
「なあ、今度は俺も気持ちよくしてくれ」

 光忠、と誘うように名前を呼ぶ。”Lick”とコマンドを出すのは簡単だ。たった一語を舌に乗せればいい。けれど長谷部は光忠の意思で求めてほしかった。光忠。もう一度名前を呼んでその瞳を見つめると、熱情を溶かし込んだ金色の視線が長谷部を絡め取った。

「……なめ、たい。君のかわいいおちんちんもアナルも、全部愛してあげたい。長谷部くん、お願い」

 激しい炎をぎらぎらと瞳に燃やしながら、それでも口調だけはしおらしく請われる。そのアンバランスさにくらくらする。

「いいぞ。来い」

 長い手足をベッドの上で窮屈そうに曲げて体勢を変えると、光忠はゆっくりと長谷部の脚の間に唇を寄せてきた。太腿に左手をかけて開かせ、張り詰めた長谷部自身を大きな手で撫でる。
「熱い、ね」
 ちゅ、と先端にキスをし、輪の形にした手で緩やかに竿全体を上下させる。じんわりとした快感が腰から背中を伝い頭まで包んでいくようだった。

「ぁ、う、んん」

 先端を口に含まれてちろちろと舐められる。手の動きに合わせて、時折亀頭の縁を唇で強く締めつけられて腰が揺れる。宥めるように太腿の内側が撫でられる動きにすら快感を拾う。
 ひた、と奥の窄まりに指を押し当てられる。前に体を重ねた時と違って乾いた感触に、「今日は慣らして来てないの?」と問われて頷いた。昼に軽くシャワーを浴びて洗浄はしておいたけれど、ローションを中に仕込むことまではしてなかった。

「……前に、自分が慣らしたいと言ってただろう」

 そう言うと、ぱちぱちと光忠の長い睫毛が瞬いて、ふわりと目元が緩んだ。
「覚えててくれたんだ。嬉しいな」
 ローションはあるかと聞かれたので、ベッド脇のサイドボードの引き出しから先日買ったばかりの新品の潤滑剤のチューブを渡した。
 チューブの封を開けて光忠が手にゼリー状のローションを絞り出し、粘着質な音を立てながら指の先まで塗り広げて温める。
 触るね、という声と共に濡れた指が再び奥に指を当てられる。最初は縁に潤滑剤を馴染ませるように、時折チューブの中身を足しながら指を動かされる。
「っん、ふ、ぁ」
 どうしても後ろに意識が行きそうになるのを、前をゆるゆると扱かれて咎められる。

「そのまま力抜いててね」
 つぷ、と指が中に侵入してきて息が詰まる。自分で後ろを弄ることに慣れているとはいえ、最初のこの瞬間はどうしたって違和感がある。
「ふ、あ、ぁ、や、」
 一度抜かれて、滑りを足してもう一度突き入れられる。
「あぁ、や、っう、んん」
 初めの異物感をやり過ごしてしまえば、中の刺激に慣れた体は容易く快感を拾い始める。内部の感触を確かめるようにぐるりと指を回された拍子に、中のイイところまで掠められて爪先がぴんと伸びる。
 絶え間なく刺激されている性器は既にひっきりなしに先走りを零し、ちゅこちゅこと光忠の手の中で音を立てている。反対の指先は潤滑剤を塗り込めるように何度も抜き差しとかき混ぜられるのを繰り返され、次第にはしたない音が上がり始める。
 前からも後ろからも水音を上げながら、長谷部は快感を逃がすようにぱたぱたと首を横に振った。前髪がシーツをやわらかく打つ。

「ふあっ、あ――、ん、は、ぁ、あ、ひああっ」

 二本目の指が差し込まれたと同時、今まで中を慣らすだけだった動きの指が、明らかに快感を引き出すような動きに変わる。先日暴かれた中のしこりをぐぐ、と押されて、目の前がちかちかと瞬く。
 人差し指と中指を僅かに開かれ、膨らんだそこを挟まれて刺激されて悲鳴にも似た高い声が唇から漏れる。

「んっ、ん、ぁ、あ、ああ、っひ、」

 いつの間にか中の指は三本に増やされていた。下半身から電撃にも似たびりびりとした快感が上ってくる。爪先を何度も曲げ伸ばしして、シーツを皺になるほど強く掴んで、長谷部はぎゅうと目を閉じた。出る。
 しかし予想していた絶頂はその寸前で取り上げられた。
「…………ぁ、?」
 そろそろと目を開けると、すぐ目の前に光忠の顔があった。そのまますり、と甘えるように頬を寄せられる。

「君と一緒にイきたい」

 はせべくん、はせべくん。ねえ、おねがい。きみのなかにいれさせて。

 光忠の懇願が鼓膜を震わせて長谷部の脳内で弾ける。その言葉達の意味を噛みしめて、噛み砕いて、長谷部はふっと笑みを零した。
 夜色の髪に手を伸ばす。きちんとセットされた髪に指を差し込んで、指先とてのひらに力を込めて優しく引き寄せる。

「……ああ、来てくれ。おまえとひとつになりたい」

 ぐう、と低く唸りながら後ろに熱いものが充てがわれる。反射で強張りそうになる体を叱咤して、息を吐いてできるだけ力を抜くように努める。顔の脇に置かれた腕の下から背中に両腕を回すと、その肌は汗で濡れて軽く湿っていた。

「――――ア、」

 めりめりと中を拓かれる圧迫感に押し出されるようにして声が漏れる。あ、う、とほとんど呻き声に近い喘ぎが出る。
 挿入は焦れったくなるくらいにゆっくりだった。長谷部の呼吸に合わせて、慎重に慎重に奥へと割り広げられていく。どこまでも奥――玩具でさえも届いたことのない奥だ――へ進んでいく感触に恐ろしささえ感じて来た頃、ようやく下生えが肌に触れる感触がした。

「……全部、入ったよ」

 そう囁かれて、長谷部は深く深く息を吐いた。じっと瞳を見つめて顔を寄せると、意図を察したように唇が重ねられる。

「…………みつただ、」
「長谷部くん、すきだよ」

 すきだ、ともう一度言われる。その言葉に答えようと口を開くと、すぐに口を塞がれた。
「っん、ぅ、ふ」
 キスをされたままゆるゆると腰を動かされて思わず鼻から声が抜ける。息継ぎの合間に愛を囁かれる。ぱちゅぱちゅと下肢から上るはしたない水音に混じって何度も何度も。
 快感と酸欠で思考力が落ちていく脳に、光忠の言葉が染み込んでいくようだった。
 けれど、胸の中を占めるこの気持ちは、長谷部だけのものだとそう思う。まだうまく名前のつけられないそれを胸いっぱいに持て余しながら、長谷部は汗で滑る背中を掻き抱いた。

「はっ、ぁ、みつただ、みつただ」

 初めこそ長谷部の体を思いやる動きだった律動が、段々と自らの快楽を追う動きに変わっていく。そのことがたまらなく嬉しかった。光忠が、自分の体で気持ちよくなっているのだと思うと、体だけでなく精神に充足感を覚える。
 そうして長谷部が喘ぎ声しか上げられなくなってきた頃に、ようやく唇が離された。腰をがしりと掴まれて一際強く穿たれて喉が反る。

「っあ、」

 がつがつとした腰使いで責められて、もう悲鳴のような声しか出せない。

「ひ、あ、ぁ、やっ、あ、んんっ、あ、あ――!」

 ちか、と眼前が白く弾けるのと同時に、奥の奥でびくびくと熱の塊も弾ける。中に己のものを塗り込めるように何度か抜き差しすると、はあ、と息を吐きながら光忠が長谷部に倒れこんできた。
「……きもちよかった?」
 さわさわと腹を撫でながらそう尋ねられる。腹の上には長谷部が出したものが広がっていて、それを見れば一目瞭然だろうにそんなことを聞くのだから、この男は存外に察しが悪いのだろうか、と長谷部は思った。それとも意地が悪いのだろうか。

「……すごかった。おまえは?」
「すごく良かった」

 そう言って光忠は長谷部の首筋に鼻を擦りつける。息が当たって少々くすぐったい。その動物めいた動きに昔実家で飼っていた大型犬を思い出して、長谷部はくふ、と笑った。

「…………上手に出せたな。”Good boy”」

 そう褒めて頭を撫でると、光忠が長谷部の肩に顔を埋めたまま沈黙した。

「光忠?」
「……まって、それは、ちょっと、卑怯だ……」
「何が」

 光忠はのしかかっていた体をさらに脱力させた。肺が圧迫されて息が苦しい。「おい、ふざけるなよ」と体を押しのけようとしたところで、続く言葉に動きを止めた。

「…………Sub spaceに、入っちゃった」
「は?」

 初めてパートナーを直接Sub spaceに入れられたことに喜びを感じるよりも先に、長谷部が抱いたのは危機感だった。

「待て、なんで大きくしてるんだ。抜け」
「長谷部くん、もう一回」
「無理だ。腰が死ぬ」
「終わったら僕が全部面倒見るから。ね、お願い」

 最近気づいてきたが、自分は光忠に「お願い」と眉を下げて甘えられるのにどうにも弱いらしい。
 自分の腰の安否と、光忠を甘やかしてやりたい気持ちがぐらぐらと天秤の上で揺れる。

「長谷部くん」

 甘い声で名前を呼ばれて、長谷部はとうとう観念することにした。首に両腕を回して引き寄せて、大切なパートナーの名前を呼び返してやる。キスと一緒に再開された律動に、長谷場は「ん」と小さく声を上げた。


 気づけば朝になっていた。体は全身拭き清められているようで、危惧していたべたつきはほとんど感じなかった。シーツだけはおそらく新品がどこにあるかわからなかったのだろう、乾いてぱりぱりとした嫌な感触がしたけれど、昨夜ゴーサインを出したのは自分なのだから仕方がない。諦めよう。
 ちらり、とベッドの脇を見ると、そこには服を着て土下座をしている光忠がいた。

「…………ごめんなさい」
「反省はしてるんだな?」
「悪かったと思ってます……」
「…………そうか」

 素直な謝罪に息を吐く。意図していなかったとは言え、あのタイミングでSub spaceに入れてしまったのは長谷部なのだから、長谷部にまったく責任がないとは言えない。ほぼ同罪というか、どちらにせよお互い不可抗力だった。
 改めてベッドの上で寝転んだまま光忠を見下ろす。長谷部が生まれて初めて体を繋げて、Sub spaceに連れて行くことができたSwitchのパートナー。
 昨日はどたばたして流されてしまったものの、そう意識するとじわじわと喜びが胸の奥から湧き上がってくる。

「……光忠、もういい。ベッドに上がれ。”Come”」

 ちょいちょいと手招きをすると、おずおずとでかい図体をこころなしか丸めて光忠がベッドに上がってくる。安物のパイプベッドが二人分の体重に悲鳴を上げるのを聞いて、これも近々買い換えなければな、とそんなことを思う。
「寒い。しばらく隣で寝てろ」
 自分の隣のスペースを開けてぽんぽんと叩いて示す。シングルベッドに男二人が寝る為にはしっかりと身を寄せ合わなければ無理だ。光忠は僅かに空いたスペースと長谷部を見比べて、結局長谷部に抱きつきながら横になった。
 背中から伝わるぬくもりに力が抜ける。その体温と匂いになんだか笑いだしたいような泣き出したいような気分になって、長谷部は「光忠」と名前を呼んだ。

「……それで、どうなんだ」
「何が?」
「これで、俺の正式なパートナーになってくれるのか?」

 腹に回された腕がぴくりと動いた。
「おまえがSubなら迷わず首輪を贈るところなんだが、Switchの場合はどうすればいいんだ? 何か別の習慣があったり、」
 するのか、と言い切る前にぐるりと器用に体を反転させられ、ぎゅうぎゅうときつく抱きしめられた。

「長谷部くん。すき。すきだよ。君がいい。他の誰でもない、君だけの正式なパートナーになりたい」

 何度も何度も「だいすき」「愛してる」と愛の言葉を囁きながら、光忠は長谷部の顔中にキスを降らせた。飽きることがないのか、長谷部が「”Stop”」とコマンドを使うまでそれは続いた。
 コマンドを使われて動きを止めた光忠は、今度は長谷部の手をそっと握り、そのまま自分の頬に擦り寄せるように動かした。切なげに細められた蜜色の瞳がきらきらと光っている。

「お願い。僕をあげるから、僕だけの長谷部くんになって」

 その言葉がただのパートナー以上の関係も含んでいることは明白だった。
 何度も長谷部の初めてを優しく、時に強引に導いて支えてくれた光忠。親友のように笑い合い、パートナーとして寄り添って力を貸してくれた光忠。

 もう、いいじゃないか。長谷部は思った。そこに恋人の席がひとつ加わったって、いいじゃないか。だって、長谷部はこれから光忠以外と体を重ねたいとは思わない。

 この一ヶ月散々に悩んでようやく辿り着いた答えは呆気ないくらいに単純で明快だった。
 なんだか無性に笑えてきて、それなのに溢れたのは涙だった。長谷部くん、と慌てたように名前を呼ぶ光忠を片手でとんと叩いて押し止める。そうして震える声で、それでも精一杯に伝えるべきことを伝える。

「光忠、俺もおまえがすきだ」

 一度口に出すとそれが呼び水となり、胸いっぱいにいとおしさが湧いてきた。ようやく名前のついた感情が後から後から湧き出てきて、思いの丈を吐き出さずにはいられない。

「今までありがとう。どうかこれからも、俺の隣にいてほしい」

 掴まれているのと反対の手を光忠の空いていた右頬に触れさせ、ゆっくりと顔を近づける。光忠がすっと瞼を伏せる。瞼を縁取る睫毛の長さに改めて感心しながら、長谷部も静かに目を閉じた。
 唇が触れる。
 互いの熱を与え合うような穏やかな時間の後、どちらからともなく唇を離して互いの背中に腕を回した。

「…………誓いのキスだな」
「もう二度と離さないよ、ダーリン」
「ああ、そうしてくれ」

 長谷部は光忠の腕の中でごそごそと体を動かし、やがて落ち着く位置を見つけてほっと息をついた。分厚い胸板に顔を寄せ、とくとくと急ぎ足で脈を打つ心臓の音を聞く。この鼓動がいとおしいと思えることが幸福だった。それゆえに、思う。

「…………俺はまだまだいたらないDomだが、絶対におまえにふさわしいパートナーになってみせるから。待っていてほしい」
「んー……その辺は認識の不一致かなぁ」
「また小難しい心理学用語かなにかか」
「小難しいのは長谷部くんの思考の方。……まあ、これから死ぬまで時間はたっぷりあるんだし、気長に行くよ」

 光忠はそう言って一度長谷部から身を離すと、真正面から瞳を覗き込み、にっこり笑った。

「これからも末永くよろしくお願いします」

 その笑顔があんまり幸せそうだったから、長谷部もなんだか胸が熱くなって、顔を赤くして「うん」と小さく頷いたのだった。

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