ダイナミクス的恋愛論とその顛末について

正しいダイナミクス的恋愛のススメ
     

9217文字

「紹介したい人がいるんだ」

 そう言われて長谷部は鮭の幽庵焼きに伸ばしていた箸を止めた。
「僕の学生時代の先輩なんだけどね、僕達のことも色々相談に乗って貰ったりしてたから、一度君にも会ってみてほしくて」
「俺は別に構わんぞ」
 答えてから、止めていた箸を再び動かす。皮から外した鮭を一口分口に放り込み咀嚼する。脂の乗った香ばしい鮭に柚子の香りが爽やかだ。
「そういう意味なら俺もおまえに会わせなきゃならん奴がいるな」
 桃色頭の友人の姿を脳裏に浮かべながら白米を口に放り込む。そういえば「そろそろ例のパートナーに会わせなさい」と言われていたことをすっかり忘れていた。
「そうなの? じゃあその人とも会おうよ」
「わかった。予定を聞いてみる」
「僕も彼に予定聞いてみるね」
 そんなことを話したのが二週間前。各自の予定を確認してみると直近で全員の予定が一致した日が一日しかなく、じゃあいっそ四人で会おうと話が纏まったのがついこの間のこと。
 そうして、今現在に至る。

「「「「乾杯」」」」
 カチンとグラスが合わさり、それぞれが頼んだ酒に口をつける。
「いやぁ、どんな相手が来るかと思ったら江雪の弟だったとはなぁ! 驚いたぜ!」
「僕も鶴丸が来るとは思いませんでしたよ」
 宗三の隣で笑いながらグラスを傾けているのは、光忠の先輩で宗三の兄の友人だという鶴丸国永という男だ。長谷部はビールを呷りながら改めて鶴丸の姿を見る。きらきらと輝く白髪に整った顔、全身白のコーディネート。長谷部は個室を予約した自分の選択が正しかったことを思い知った。ただでさえ衆目を集めやすい光忠と宗三がいるのに、これ以上目立つ男が来るとは完全に予想外だった。傍目から見て確実に堅気の集団には見えないだろう。
「長谷部くんの友達と鶴さんが知り合いだとは驚いたなぁ。世間って案外狭いね、長谷部くん」
 ハイボールを飲みながら光忠が楽しげに言う。そうだな、とその隣で頷く長谷部に、宗三が口を挟んだ。
「特にダイナミクスのコミュニティなんて結構狭いですからね。僕は鶴丸と長谷部のパートナーが知り合いって聞いても特に驚きませんでしたよ」
「そうなのか?」
 宗三に向かって長谷部が問いかけると、宗三はお通しの肉じゃがに箸をつけながら頷いた。
「だって、鶴丸ってSwitchですからね。この近辺に住んでてSwitch同士なら知り合いでもおかしくないかなと」
「そうなのか?」
 今度は鶴丸に向かって尋ねる。白い親指がびっと立てられて、「そうさ。驚いたかい?」とウィンクが返ってくる。
「そうそう。そういうこともあって、鶴さんには学生時代からお世話になってるんだよ」
「へえ……」
 このいかにも飄々とした男がSwitchと聞いて、長谷部が真っ先に思ったのは「光忠の側に同じ悩みを共有できる相手がいて良かった」ということだった。あれから長谷部も自分なりに勉強をして、Switchの複雑な立場や生態についてある程度は理解しているつもりだ。ただでさえ絶対数の少ないSwitch同士、長谷部には百パーセント理解できない悩みをお互いに相談し合える仲間が身近にいることは、きっといいことなのだろう。心底そう思う。それなのに。
 胸の中をうずまくこのモヤモヤは一体なんなのだろう。
 ――Switch同士でくっつくのが本当は一番いいんでしょうけど。
 いつか宗三から聞いた言葉をふと思い出して、なんとなくテーブルの下で光忠の服の裾を摘まむ。すると弾かれたように光忠が長谷部に顔を向け、慌てて付け加えた。
「あのね、長谷部くん。言っておくけど鶴さんとは全くなんでもないからね」
「俺も光坊もお互い驚くほどタイプじゃないんだよなぁ」
「そうなんだよ」
「学生時代ふざけて一回だけコマンド出し合ったことあったが、相性最悪だったもんな」
「鶴さん」
 目だけは笑っていない笑顔を向ける光忠に、「おいおい、君達が付き合う前のKneelくらいは許してくれよ」と鶴丸が両手を挙げて降参する。
「長谷部くんは繊細なんだから、そういういらぬ誤解を生むのはやめてほしいんだよ。……長谷部くん、本当に、鶴さんとコマンド出し合ったのはそれっきりだからね?」
 誤解をしないでほしいと肩を掴んできて訴える瞳が切羽詰まったものだったので、長谷部も思わずその勢いに頷いてしまった。
「……わ、わかった」
「僕が愛してるのは今も昔もこれからも君だけだから!」
「光忠……」
「すみません、僕たこわさ食べたいです」
 そう言って空気を読まずに宗三が店員呼び出し用のボタンを押した。
「おっ、いいねえ、たこわさ。俺はチャンジャも食べたいな」
「エイヒレの炙り焼きありますよ。この時期ならヒレ酒もいいですね。こっちの店長おすすめ海鮮盛り合わせとやらも食べたいです。今月のおすすめ魚はコハダだとか」
「よし、全部頼もう」
 光忠と長谷部を半ば無視して、二人はメニューを覗きこみながら注文する品を次々と決めていく。その勢いにとうとう長谷部が溜め息をついた。
「宗三。おまえな、ちょっとは遠慮しろ」
 あまりに自由に振る舞う宗三に長谷部が注意すると、その向かいで宗三はテーブルに頬杖をして溜め息をついた。
「遠慮で腹が膨れるんですか? 目の前で堂々と惚気られてこっちは今にも砂糖吐きそうなんですよ。なにか美味しいもの食べなきゃやってられません」
「おいおい。とは言っても、この面子で惚気話が出ないわけがないだろう?」
 鶴丸が驚いたように口を挟む。
「それもそうなんですけどね。限度ってものがあります」
 まあでも、と細くしなやかな指先がひょいと枝豆を摘まんだ。
「もうそこの男の色恋沙汰に巻き込まれるのは勘弁なので、しっかり捕まえておいていてくださいよ」
 摘まんだ枝豆の鞘の先で長谷部を示して、念押しするように光忠に向けて言われる。宗三の忠告めいた言葉に光忠は一瞬目を見開いたが、すぐににっこりと微笑んだ。
「そうするよ。ありがとう」
「……人を猛獣か何かのように言うんじゃない」
「似たようなものじゃないですか」
「違う」
「長谷部くんは動物で例えるなら猛獣って言うより柴犬タイプだよね」
「猛獣って言うなら光坊の方だよな。聞いてくれ、こいつこう見えて学生時代は――」
「鶴さん?」
「ゴメンナサイ」
「待て、何があったんだ教えろ」
「貴方藪蛇つつくの好きですねぇ」
 四人の夜はそうして更けていった。

「今日は楽しかったね。宗三さんもいい人で良かったよ」
 帰宅して互いにシャワーを浴びて、ダブルサイズのベッドに並んで座る。今度は宗三さんのパートナーも呼ぼう、お店はどこそこがいいかななどと楽しげに今後の予定を語りながら光忠はサイドボードの引き出しに手を伸ばす。取り出したのはDom性の抑制剤だ。
 いくら長谷部が光忠のDom性を受け止めるべく努力したとしても、Subではない長谷部には完全には光忠の渇きを癒やすことはできない。光忠に言わせればこれでも長谷部のおかげで今はごく軽い抑制剤で済んでいるのだと言う。
 以前よりもグラム数の減った抑制剤を毎晩毎朝ペットボトルの水で飲み下しながら、光忠は長谷部といるためならこんなことなんでもないのだと笑う。それが嬉しくて、でも同時に申し訳なさも感じてしまう。
 一度だけ、Subのいる風俗に行く気はないのかと尋ねたことがある。その時光忠はひどく傷ついた顔でこう言ったのだった。
「君と僕が今と反対の立場だったとして、そう言われたらどんな気持ちになる?」
 その場ですぐに自分の失言を悟り謝罪して、それ以来なんとなくその話には触れてこなかった。それなのに、今日Switchの鶴丸と会ったことでどうしても思ってしまう。
 乾く唇を舐めながら、長谷部は重い口を開いた。
「俺はDomだ」
「うん、そうだね」
 こくりと頷く光忠の首元には、長谷部の贈った首輪が寝室の薄暗い照明を反射して鈍く光っている。それと揃いの首輪が自分にもかけられていることが誇らしいと、愛しいと思う。それは変わらない。それなのに。
「……俺が、Switchだったら良かったのにな」
「長谷部くん、」
「そうしたら、おまえのDom性もSub性も、きちんと満足させてやれたのに」
 言った。言ってしまった。
 長谷部の心臓がどくどくと嫌な音を立てて軋む。また自分の不安のあまり光忠を傷つけるような発言をしてしまったことに内心後悔したがもう遅い。隣に座る恋人の顔が見られずに長谷部はぎゅっと拳を握りしめ、俯いた。
 二人の間にひたりと落ちた重い沈黙を、先に破ったのは光忠だった。
「……君がたとえSubだろうとSwitchだろうと、それこそNormalだったとしても好きになってた自信はあるけど、でもやっぱり僕が今愛してるのはDomの君だよ。僕は長谷部国重というDomを、その性すべてを引っくるめて愛しいと、そう思ってる」
「……だが、なんだかおまえにばかり苦労をかけているような気がする」
「それを言ったら僕だって、君に負担をかけてるだろう。Domの君をSubみたいに扱ってる」
「俺は納得ずくだからいいんだ」
「そんなの僕もだよ」
 どちらも主張を譲らずにじっとりと睨み合い、やがてどちらからともなく苦笑が漏れた。
「似たもの同士だね、僕達」
「……そうだな」
 長谷部の手の甲にそっと光忠のてのひらが重ねられた。そのままするりと指をなぞられて絡められる。
「君が好きだよ」
 さらりと告げられる愛の言葉に顔が熱くなる。
「……知って、る」
「いいや知らないね。君は君が思うよりももっとずっと僕に愛されているってことを思い知って、胸を張るべきだ」
 絡められた指先からも、重ねられたてのひらからも熱が上ってくる。思わずはぁと息を吐くと、光忠が長谷部の耳元で囁いた。
「……ねえ、シない? 君にいつもより恥ずかしいこと沢山させて、いっぱい鳴かせて気持ちよくしてあげたい」
「い、いつもよりか」
「そう、いつもより。君が僕に心底愛されてるんだってきちんと自覚できるまで」
「……それは、」
 キャパシティオーバーで駄目になってしまわないだろうか。そんなことを思って唇を引き結ぶと、光忠がふふと笑った。吐息が耳朶をくすぐる。
「……Domはね、SubやSwitchと違って、恥ずかしいことをさせられたりお仕置きされたりしても、性的興奮を得にくいんだ。けど、」
 そこで光忠は一旦言葉を切り、長谷部の顔を両手で包むとゆっくりと上向かせた。
「考え方次第では、Domだって苛められても感じることができる」
「そう、なのか」
 苛められて感じるDomなんて聞いたことがない。長谷部から困惑混じりの視線を向けられて、蜜色の瞳がやわらかく弧を描いた。
「……たとえばね、こんな風に」
 光忠が長谷部の肩を掴んでゆっくりとシーツの上に押し倒す。倒れたはずみに二人で一緒に選んだ柔軟剤の香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
 目を白黒させる長谷部にのしかかり、光忠は長谷部の引き締まった両足を持って前に倒した。そうして「そのまま足を持ってみて」とお願いされたので、長谷部は言われるがままに自らの両足をそれぞれ両手で抱えた。いわゆるまんぐり返しの体勢である。
「ふふ、君のかわいいところ全部見えちゃうね」
「っ……馬鹿、」
「僕は君の恥ずかしいところを見ると興奮するよ」
 言いながらごり、と太股に硬いものが当てられ、長谷部の頬にさっと朱色が乗った。
「Domの君がその矜持を曲げて僕に体を委ねてくれるのが嬉しい。君に甘やかされているようで、甘えられているようで、すごく、嬉しい」
 蜂蜜色の瞳がとろとろととろけるような甘さでもって長谷部を見つめてくる。
「……どう?」
 親指で唇を撫でられながら問われ、長谷部の喉仏がこくりと上下する。
 他ならぬ光忠が、自分の媚態に反応して、感じてくれている。
 パートナーに頼られ、甘えられることで満足感を得るDom性が、潤うように満たされていくのがわかる。
「…………い、い」
「うん?」
「おまえが気持ちいいなら、俺も、その、嬉しいし、」
 感じる、と小さく呟くと瞼にやわらかく唇を落とされた。
「長谷部くん、すきだよ」
「泣くなよ?」
「泣いてないってば」
 以前最中に感極まって泣いてしまったことを思い出したのか、光忠が形のいい唇を尖らせた。いつも大人びた風情の年下の恋人の、その子供じみた様子がなんだかかわいくて、長谷部は笑ってよしよしと頭を撫でてやった。
「子供扱いしないでくれよ」
「心外だな。子供と寝る趣味はないぞ」
 そう言って光忠の顎を掴んで引き寄せ、ちゅっと唇を重ねる。途端にへにゃりと相好を崩すのだから、やはりかわいいと思う。
 いとけない子供を見るような長谷部の視線に光忠はくそ、と珍しく悪態をついて、長谷部の顔の両側に手をついた。
「……すぐにそんな余裕なくなるくらいどろどろにしてあげるよ」
 ぎらぎらと獣めいた光を宿した金色の目と、長谷部の花のような藤色の目がかちりと合った。燃え上がった光忠のDom性に煽られるように、自分の中の負けん気にも火がつくのがわかった。
「やってみろ」
 そう言って噛みつくようにキスをすると、すぐに同じくらいの激しさでもって舌を吸われた。

「っ……、ぁ、っふ、んんっ」
 ぴちゃりぴちゃりと長谷部の股間から水音が立ち上ってくる。
 焦れったくなるくらいゆったりとした愛撫だった。体中を指と舌と唇で撫でられ、でも肝心なところには触れて来ない。とうとう長谷部が音を上げても光忠は甘やかな責めを早めることはなかった。あらかじめ決められた手順をなぞるように丹念に丹念に触れてくる。やっとのことで舌先が乳首に触れ、じゅうと吸われた時にはあっという間に射精してしまったほどだった。
 腹の上に散った白濁を舐めとられてから、ようやく局部に快感が訪れる。長谷部の瞳から思わずぼろりと涙が零れた。
「ん、あ、そこ、もっと」
 もどかしげに腰を揺らしてイイところに当てようとすると、すぐにするりと指と唇を離される。
 咎めるような長谷部の視線に、光忠はふっと蜜の滴るような甘い笑みを零した。
「長谷部くん、気持ちいい?」
「いい……っ、いいから、もっと」
「どうされたい?」
 Dom性が活性化している時の光忠はこうして長谷部に恥ずかしいことを言わせようとすることが多い。長谷部も最初は死ぬほど恥ずかしかったものの、回数を重ねるうちに光忠の好む言い回しがわかってきたので、躊躇わずに思いつく淫語を口にする。恥ずかしいと思う理性は既に焼き切れかけている。
「おれの、おちんちんじゅぽじゅぽって、して……!」
「じゅぽじゅぽだけでいいの? 竿のところれろーって舐められたり、くぱくぱしてるおしっこ穴のとこぐりぐりってして欲しくない?」
「して、してほしい。ぜんぶ、して。みつただ、おねがい」
「……かわいいなぁ、もう」
 潤む視界で光忠がべろりと唇を舐めるのが見えた。光忠が興奮している時の癖だ。長谷部の痴態に興奮してくれているらしい。じんわりとした充足感が胸を満たす。嬉しい。
 そうして光忠は先端に軽く唇を落とし、この期に及んでさらに焦らすようにゆっくりと陰茎を舐め、口の中に少しずつ収めていった。
「ふぁ、あ……」
 思わず声が漏れる。急所をあたたかなもので包まれている安心感と快感が同時にやってくる。脳が蕩けて耳からとろとろとこぼれ落ちるんじゃないかと思った。
「ぁう、だめ、みつただ、でる、でちゃう……っ」
 再び射精感がこみ上げて来て、光忠の顔を掴んで離そうとすると反対に手を押さえつけられた。
「イっていいよ」
 そう言って今度はじゅるると音を立てて激しく吸われ、長谷部は声もなくびくびくと体を跳ねさせ、光忠の口の中へ欲をぶちまけた。
「っっっ……!」
 短距離を全力疾走した時のようにはあはあと荒い息を吐いていると、ぽんぽんと頭を撫でられた。
「よく出せたね。”Good boy”」
 そう言って軽くキスをされる。苦い。思わず顔をしかめると、光忠はそれを見て愉快そうに肩を揺らした。なんだか面白くなくて力の入らない脚でげしげしと光忠を蹴る。何が面白いのか、光忠は蹴られてますます笑みを深くした。
「……かわいい、長谷部くん。君のそんな姿を見られるのが、世界中で僕だけなんだと思うと本当に嬉しい」
「大袈裟だな」
「大袈裟なもんか。君だって、僕のかっこわるいところを見られるのは自分だけって思うと、嬉しくない?」
 少し考える。光忠のかっこいいところも、かっこわるいところも、全部知っているのは、世界でたったひとり自分だけなのだと。答えはすぐに出た。
「…………嬉しい」
「だろう?」
 額同士をくっつけてくすくすと笑う。そのままじゃれあうようにキスをしているうちに、落ち着いていた性感に再び火が灯り出す。
 くちゅりと後ろに指が押し当てられる。
「あれ、ローション入れてた?」
「……風呂、入った時に」
「へえ、期待してたんだ?」
 いたぶるような視線を投げかけられながら穴の入り口をくちゅくちゅと軽く出し入れされる。
「っは、ぁ、んん、して、た……!」
「…………かわいいなぁ」
 光忠は飽きもせずに何度だって長谷部をそう褒める。大の男にかわいいも何もあるか、と思うけれど、長谷部だって光忠をかわいいと思うのだからそういうものかとも思う。いわゆる恋は盲目というものなのだろう、多分。
「何考えてるの?」
「ぅあ、ああっ」
 気がそれたのが伝わったらしく、光忠は面白くなさそうにそう言うと、腹側のしこりを中からぐうっと押した。快感にびくびくと体を跳ねさせる長谷部の耳元で、光忠が囁く。
「ねえ、今何考えてたの?」
「ぁ、あっ、み、ただ、みつただの、ことっ」
「本当?」
 がくがくと頷くと、満足したのかちゅぽんと指を抜かれる。
「ぁ……」
 秘所から引き抜かれた指先を思わず物欲しげに見つめてしまう。きゅんきゅんと下腹が疼いている。後孔がさらなる刺激を求めてくぱくぱと開閉するのが自分でもわかった。そんな長谷部の様子にくすりと笑われる。
「欲しい?」
「ほしい……っ、みつただの、おっきいので、は、はせべの、おまんこ、孕ませて……!」
「……ふふ、”Good boy”」
 そう言うと光忠は下着を脱ぎ去ってすぐに長谷部の秘蕾にぴとりと己のいきり立ったモノを押し当てた。
 挿れるよ、と告げられると同時に一気に貫かれる。ずん、と奥まで届いた衝撃に目の前が白く弾ける。ばちばちと火花のような快楽を消化するよりも早く、光忠が腰を動かした。
「ふあっ、あ、や、らめ、みつ、みつただっ」
 小刻みに揺らされたかと思うと、ずるると抜け落ちそうなほど引き抜かれて、また奥まで突き入れられる。襲い来る快感の荒波に対して長谷部には為す術もなく、あうあうと喘ぎながら目の前の背中に腕を回し爪を立てた。
「や、ぁ、あ、ああっ、あああ、ん、ぁ、っ」
 汗で湿った肌同士がぶつかってぱんぱんと音が鳴る。結合部からぐちゅぐちゅと水音が立っている。
「っふ、は、せべ、くん、きもちいい……」
 耳元で囁かれた言葉に得も言われぬ充足感を覚える。光忠が感じてくれている。他ならぬ自分の体で。大きな幸福感と快楽がぐるぐると体中を渦巻いて頭がおかしくなりそうだった。
「――ッあ、あ、んんっ!!」
 中に入っているモノの形がわかるくらいにぎゅうと締め付ける。イッたと思ったのに、腹に濡れた感触はない。
「あ……?」
「もしかして、ドライでイッた?」
 絶頂の快感に荒い息を吐きぼんやりと瞬きをしている長谷部に、光忠が掠れた声で告げる。
「わ、かんな、んんっ」
 いつも射精した後に訪れるすっきりとした感覚はなく、未だに快感の海の中を漂っているような心地がする。時折びくびくと震えて中の剛直を締めつけると、光忠がたまらないといったように眉を寄せて吐息を漏らした。
「は、ぁ、僕も、イきそ……」
 動くね、と一方的に宣言されて待てと言う間もなくすぐに法悦の渦に叩き落とされる。
「待っ、あ、ああ、ん、ふあぁっ、あ!」
 逞しい背中に縋りつこうにも既に手に力が入らない。汗で滑ってぱたりと両手がシーツに落ちると、すかさず光忠に指を絡め取られた。
「はせべくん、かわいい、ん、すき、だいすき……っ」
 長谷部にキスを送りながら何度も何度も愛を囁かれる。溺れそうだ、と痺れる頭で思う。いや、もう溺れているのかもしれない。光忠に与えられる愛と快感で窒息しそうだ。それなのにちっとも嫌じゃない。もっと、とキスの合間に囁くと、ごくりと唾を飲む音が聞こえた。蕩けてぐずぐずになってしまうくらい、もっと光忠が欲しい。自分から目の前の光忠の唇に吸いつき、腰を揺らす。脚を絡めて引き寄せて。もっと奥まで。
 そう思ったら、自然と口にしていた。
「……光忠、出せ。”Come”」
「!? っく、……ぁ、ッ!」
 長谷部の中で光忠が膨らんで弾けるのがわかった。熱い飛沫をびしゃびしゃと中に注ぎ込まれながら長谷部は満足げに息を吐き、自らの腹をゆるりと撫でた。思わず笑みが漏れる。
「っはは、上手に出せたな? ”Good boy”」
 光忠は長谷部からずるりと己のモノを抜くと、そのままどさりと長谷部の上に倒れ込み、くそ、と小さく悪態をついた。
「っ……反則だろう、今のは」
「使えるものを使って何が悪い。それに、」
 気持ちよかっただろう、とするりと頬を撫でてやると、光忠はぐうと低く呻いて長谷部の首元に鼻を擦り寄せた。
「……ずるい。反則だ。かっこいい。かわいい」
「おまえも、かっこよくてかわいいぞ」
 そう言って光忠の額にキスを落とす。光忠は嬉しさと悔しさがないまぜになった複雑な表情で長谷部を見つめ、やがて仕方ないといったように苦笑を零した。
「……君には敵わないなぁ」
 そうして長谷部に口づけを返す。やがて深くなる口づけに、再び奥が疼くのがわかった。
「っん、なあ、光忠、もっと」
「うん、僕も、まだ足りない」
 射精して力を失っていた筈の光忠が再び硬く頭をもたげている。ローションと精液で泡だったものが滴る入り口に、再びひたりと剛直が押し当てられる。

「ね、挿れていい?」
「ああ。なあ、光忠」
「なぁに」
「愛してるぞ」

 今の自分にできる精一杯の告白を贈り、長谷部は光忠の首にぐいと腕を回した。

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