Lovebirds

Trust my love and kiss me.
     

3874文字

『年上 恋人 プレゼント おすすめ』
『四十代 男性 もらって嬉しいもの』
『年上 彼氏 デート 場所』

 自分のスマホの検索履歴を見て、長谷部は頭を抱えた。こんなもの、とても人には見せられない。
 長谷部は光忠の秘書である。秘書であるからには上司たる光忠のおおまかなプロフィールは把握しており、その中には当然光忠の誕生日も含まれている。
 四月二十日。上司兼パートナー兼恋人の誕生日であるその日に何を贈るべきか、未だ長谷部は考えあぐねていた。

 考えてもみてほしい。相手は四十五歳で独身で大企業の社長だ。既に富も地位も名声も自力で揃えているのである。検索結果に出てきたブランド物の腕時計や香水やスーツなんてウォークインクローゼットにいくつも所持しているのを長谷部は知っている。試しにこっそりそれらのブランドの価格帯をネットで調べてみて、長谷部はそっとブラウザバックした。とても長谷部が気軽に買えるような値段ではなかった。かといって、尊敬する上司であり愛するパートナーに安物を渡すのは気が引ける。長谷部があげた物なら光忠はなんだって喜んで身につけそうだから、余計に。
 そう、光忠ならきっと「長谷部くんがくれるものならなんでも嬉しいよ」と言ってくれるのだと、経験上わかってはいるのだ。しかし、この「なんでも嬉しい」というのが一番困る。せっかくプレゼントするのなら、光忠に一番喜んでもらえるものを贈りたいのである。

 先日の長谷部の誕生日には、光忠は長谷部に「君もこういうの、ひとつくらい持っていてもいいだろうと思って」と光忠のものと色違いの高級腕時計をプレゼントし、そのまま光忠行きつけのホテルのレストランに食事に連れて行き、同じホテルのスイートに宿泊して「今日は全部僕がしてあげる」と奉仕の名目で色んな意味で長谷部をとろとろに甘やかした。自分が光忠に逆のことを返せるかというと否である。財力も経験値もコネクションも余裕も足りない。

 パートナーに尽くしたい、喜んでほしいという感情はSubの長谷部にとっては本能的な欲求と繋がっている。光忠に尽くしたい。あの輝かんばかりの笑顔で「嬉しいよ」と言われ、褒められたい。
 そこまで考えて、連鎖的に”Good boy”と囁かれた時の声の甘さを思い出してしまい、ぶわりと顔が熱くなる。うう、と手で顔を覆いながらベッドの上をごろごろと転がる。クイーンサイズの高級ベッドは、それなりに長身の長谷部の悶絶でもふかふかと受け止めてくれる。ぼすっと顔を伏せた枕からは嗅ぎ慣れた光忠の香りがして、条件反射的に体まで熱くなってくる。
 すっかり光忠に調教されきった体が恥ずかしくて居たたまれなってきた。は、と熱の籠もった溜め息を吐いていると、ガチャリと玄関のドアが開く音がする。光忠が食事会から帰って来たらしい。がばっとベッドから起き上がってぱたぱたと玄関へ向かう。

「おかえりなさい」
「ただいま。……先に寝てて良かったのに」

 そう言いつつも、光忠は嬉しそうに破顔して長谷部の頭を撫でた。それだけで長谷部の眠気や疲れなんて吹き飛んでしまう。どころか、先ほどまで持て余していた体の熱が再び上昇してきてしまった。
 思わずもぞりと擦り合わせた太腿を見逃されるわけもなく、光忠にそっと腰に腕を回され抱き寄せられる。
「……したくなっちゃった?」
「いや、あの、」
「嘘は駄目だって言っただろう? ちゃんと言いなさい。”Say”」
 そう言われて瞳をまっすぐに覗き込まれると、長谷部の唇がわななき、するりと言葉が溢れる。
「したい、です」
「ん、よく言えたね。”Good  boy”」
「ぁう、」
 それだけで崩れかける体を抱きとめられ、すんすんと首輪がついている首筋に鼻を寄せられる。
「ああ、お風呂入ったんだね。僕もさっとシャワー浴びて来るよ。先にベッドで待っていて」
「はい」
 光忠の腕に掴まりながらどうにか体勢を整えていると、ふっと微笑まれてするりと頬を撫でられた。

「そうだな、せっかくだから僕に抱かれる想像しながら、一人で準備しててほしいな」

 かぁ、と顔がまるで火のように熱くなった。光忠の吐息からは酒精の香りがして、こんな風に酔っている時の光忠はいつもよりすこし意地悪だ。コマンドではなく、あくまでも長谷部の意志で恥ずかしいことをさせようとする。
「できる?」
「……できます」
「いい子だ」
 そうして触れるだけのキスをされる。軽いリップ音を立てて離れていく唇に、思わず物欲しげな視線をやってしまう。
「続きは後でね。ちゃんと僕のが入るように、よく解しておいて」
 はい、と答えた声は掠れていた。


 自らで慣らした体を光忠にじっくりと実況させられ、焦らすように触れられて高められた後にこれでもかというほど甘く蕩けるような快感を叩き込まれた。
 中でも外でも数えきれないほど絶頂して、そんなはしたない体を褒められてSub spaceに入ってしまい、「かわいい」「愛してる」と囁かれながら意識を失い、気づいた時にはカーテンの外から朝日が差し込んでいた。
 たくましい腕の中で目を覚まして真っ先に目に入ったのは、いとおしげに長谷部を見つめる蜜色の瞳だ。

「おはよう。起きた?」
「おはよう、ございます……あの、俺、昨日」
「ちょっと無理させちゃったからね。もう少し寝ていなさい」

 髪を梳くように撫でられると再び眠気が襲ってきたけれど、それを振り払うように長谷部はぶるぶると顔を左右に振った。昨日は本能に流されてしまったけれど、これだけは言わなくては。
「光忠さん、あの、」
「うん?」
「何か、欲しいものとかありますか」
「え? 急にどうしたの」
 意表をつかれたというようにぱちぱちと瞬きをする光忠は、本当に心当たりがないらしい。長谷部はなかばヤケクソのように言葉を重ねた。
「誕生日! 再来週! 貴方の!」
「ああ、もうそんな時期か」
 そういえば百貨店からバースデーカードとか来てたね、と呑気に頷く光忠は、本当に自分の誕生日を失念していたようだった。この一ヶ月悩みに悩んでいた自分が馬鹿みたいだ。

「……俺にあげられる物とかたかが知れてるでしょうけど、それでも一応聞いておきたくて」
「長谷部くん」
「はい」
「いや、だから、僕が一番欲しいのは長谷部くんだよ」

 苦笑しながらそう言われて、言葉の意味を理解するのが一瞬遅れた。
「…………もう全部差し上げてるつもりなんですが」
「まだまだ足りないよ。君のこの先一生分の時間と愛情と献身を全部僕のものにしたい」
 首輪を指でそうっとなぞられて、自らを求められている歓喜と照れくささで体がぴくんと震える。
「……でもそれ、毎年あげられないじゃないですか」
 光忠に渡せるものはとっくに全部差し出しているつもりで、光忠からの答えはつまりは「何でもいい」とほぼ同義だ。何度も言うが、何でもいいというのが一番困るのだ。

「でも一番欲しいものってそれしかないんだよね」
 重ねてそう言われ、嬉しさと動揺で思わず声が上擦る。
「っせ、せめて何かしてほしいこととかないですか? 何でもします。行きたいところがあれば――世界一周旅行プレゼントとかはさすがに無理ですけど――一緒に行きます。ご随意にどうぞ」
 必死になってそう伝えると、光忠は一瞬だけ視線を宙に泳がせた。
「あるんですね?」
「あるけど、うーん、ちょっと素面では言いにくいかなぁ」
「冷蔵庫から酒持って来ましょうか」
「やめておくよ。……引かないで聞いてほしいんだけど」
「引きません」
「スーツ姿の君とオフィスで社長プレイがしたい」
「しゃちょ、……なんですって?」

 思わず聞き返してしまった。

「社長プレイ。せっかく本当に社長と秘書なんだから、一度くらい『社長』って呼ばれながらお互いスーツでオフィスえっちしてみたいなー……なんて」
「オフィスは、その、色々と差し障りが……」

 普段は人目もあるし、休日にやるにしても仕事中に思い出してしまって業務に支障が出そうだ。というか出る。絶対。
「そういう雰囲気のラブホテルで充分だし、もし君が嫌だったら忘れて」
 お水取ってくるね、と微妙な空気を振り払うように立ち上がろうとする光忠の腕を、長谷部は慌てて掴んだ。
「や、やりま、す」
「無理しなくていいよ? 我ながらちょっとおじさんくさいプレイだなと思って呆れてるし」
「まあ、あの、びっくりはしてますけど、それで光忠さんが喜んでくれるなら、」
 俺も嬉しいので、と耳まで真っ赤にしながら長谷部が俯くと、形のいい後頭部が晒されて、光忠はそのまるみにそっと手を置いた。

「……君は僕をどこまでも甘やかしてくれるね」
「それは光忠さんの方でしょう」
「絶対君の方」
「譲りませんよ」

 そんなことをムキになって言い合っていると、ふとどちらからともなく笑い声が漏れた。
「ふふ」
「あはは」
 顔を上げると自然と視線が絡み合い、そうするのが当然というようにちゅっと唇を合わせた。ちゅ、ちゅく、と音を立てながらやがて深くなっていく口づけに、「あ、やばいな」と脳内で控えめな警鐘が鳴り始めたが、長谷部はそれを無視することにする。

 とりあえずは目の前の恋人と全力で甘え甘やかしあうために、長谷部は光忠の首にゆっくりと両腕を回し、自分の方へと引き寄せた。

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