惚れたが負けとは言うけれど・9

惚れたが負けとは言うけれど
     

8461文字

『いつも優しい彼氏に、たまには強引にされたいってリクエストしたら「……ちょっと待っててね」って言ったかと思ったら、赤いブレスレットくれて「これ付けてる時は襲っていいサインにしよう」って言われて最高だった』

 そんなネットの書き込みを見て、「これは長谷部くんが好きなやつだな」と反射的に思ってしまう程度には、僕も相当毒されていると思う。
 そう苦笑しながら端末を待機状態にすると、スパーンと襖を開いて長谷部くんが部屋に入って来た。

「おい、光忠! これ見てみろ」

 上気した頬にきらきらとした瞳、ああやっぱり僕の恋刀は世界一いや宇宙一かわいいなと思う反面、マッハ――といっても体感としてよくわからないけれど特上軽騎兵を二つつけて小雲雀に乗った長谷部くんよりもさらに早いとのことだから恐ろしい――のスピードで嫌な予感が僕の背筋をぞくぞくと駆け上った。
 長谷部くんの右手には僕と同じ支給品の小型端末が握られており、僕に向けて見せつけてくるその画面には僕が先程見たのと同じ書き込みが表示されている。
「俺達もこういうの、やらないか!?」

 うん、君ならそう言うと思っていたよ。

 期待には必ず応える男だと僕の中で大評判の長谷部くんは、にこにこと可愛らしい笑顔を浮かべながら卓の上に置かれた僕の手にするりと指を絡めた。

「ブレスレットというのは盲点だったな。長袖なら袖に隠れてあまり目立たないし、いいんじゃないか」

 あ、もう確定事項なんだね。いいけど。君がいいなら別にいいけど。
 ここで一応僕の名誉の為に弁解しておくと、僕だっていつも流されっぱなしという訳ではない。長谷部くんが割とまじめな顔をしながら「乳首ピアスとかどうだろう」と言ってきた時は全力で反対したし――長谷部くんの肌に傷をつけるなんて耐えがたい――、乗馬用のムチの購入もどうにか阻止した。針とか鞭とか蝋燭とか、痛みや苦痛を伴うようなのはたとえ長谷部くんが希望していたとしても僕は絶対にやりたくないと思っている。そこだけは譲れない。その代わり羞恥プレイとか淫語プレイとか媚薬プレイとかには乗るけど、それはそれ。

 そういったことに比べれば、今回のおねだりのなんて可愛らしいことだろう。襲ってほしいサインだなんて、可愛いがすぎる。襲い方についてはちょっと考えなければならないだろうけど、長谷部くんからそんな風に秘密のお誘いをかけられるなんて、なんだかいつになくきゅんとした気持ちになる。

「いいね。君につけるなら紫のブレスレットがいいかな」
「金属製のバングルタイプと革だったらどっちがいいと思う?」
「革の方がえっちかな」
「よし、決まりだ」

 長谷部くんは端末を何回かタップしてめぼしいブレスレットを探し、そのまま注文してしまう。相変わらず機動力が高い。
「楽しみだな」
 そう言ってにっこりと微笑む長谷部くんの手を握り返して、僕も微笑み返す。
「そうだね」

 それから数日後、自分の発言を後悔するだなんて、思ってもみなかった。

◆ ◆ ◆ ◆

「おはよう、長谷部くん」
 朝食の並ぶ大広間で長谷部くんの隣に座る。今日は僕が厨当番だったので、隣で寝ている長谷部くんを置いて部屋を出てきたので、実質昨夜ぶりだ。こういう時は、まるでデートで待ち合わせをするカップルのような甘酸っぱい気持ちになる。毎日見ている顔だけれど、何度見ても見飽きるということがない。可愛くて綺麗でかっこいい、僕の大好きな恋刀。

「ああ、おはよう」
「今日のだし巻きは自信作だよ」
「そうか、楽しみだな」

 そんなことを話していると、今日のいただきます当番の秋田くんがすっくと立ち上がって大きな声を出した。
「皆さん揃いましたかー? では、いただきまーす!」
 いただきます、と皆が口々に告げて、自分の前の膳に箸をつけていく。
 今日の僕はだし巻き係だったので、味見で口の中がしょっぱい。まずはしらすおろしを食べて口の中をさっぱりさせようと箸を伸ばす。
 隣の長谷部くんは真っ先にだし巻きに箸をつけ、「このだし巻き美味いな」なんて声を弾ませるものだから、僕も嬉しくなって「そうだろう?」と言って隣を見て――、

 絶句した。

 長谷部くんの左手首に、紫のブレスレットがちらりと覗いている。
 僕の視線に気づいたのか、長谷部くんはにんまりと笑ってから「どうした?」なんて白々しく聞いてくる。
 たしかに僕も乗った。乗ったけど、まさかこんな朝っぱらから、よりにもよって周りが人に囲まれてる大広間で着けてくるとは思わないじゃないか!!!!!!!
 こんな状況で僕が手を出せるわけもなく、長谷部くんもそれはわかっている筈なので、これはお誘いに見えて盛大に煽られているのだろう。色んな意味で。
 完全に想定外の事態に僕は恥ずかしいやらいたたまれないやらで両手で顔を覆いそうになって、どうにか堪える。

「…………あとで覚えてなよ」
「楽しみにしている」

 本当に、覚えてろよ。
 大根おろしをぎゅうっと奥歯で噛みしめると、僕の今の気持ちとはうらはらに、さっぱりとした味の汁がじゅわりと口の中に広がった。


 しかし、主が不在がちなこの本丸において、近侍の長谷部くんは常に多忙だ。

「長谷部ー、こっちの書類だけどさ」
「長谷部さーん! この政府からの支給しながらどこに置けばいいですか?」
「長谷部、遠征の資材ですが…」

 みんな何かがあると必ず長谷部くんを呼んで判断を仰ぐ。普段ならば僕も昼間は出陣や内番があって直接顔を合わせることは少ないのだけど、今日は生憎と非番だった。出陣部隊や内番の人員の管理をしているのも長谷部くんなので、このタイミングでブレスレットを着けたのは本当に狙ってのことなのだろう。そんなところが愛しくて憎らしい。可愛さ余って、というやつである。

「ああ、それはな…」
「そのへんのは南棟の空き部屋に運んでくれ」
「報告書なら執務室の机の上に置いておいてくれ。後で目を通す」

 ひとつひとつ自分に向けられる質問に丁寧に答える長谷部くんの左手首には、今もブレスレットが光っている。恨めしげな僕の視線にはばっちり気づいているらしく、時々意味ありげににやっと笑ってくる。
 そんな長谷部くんの様子に、目聡い短刀達はすぐに気づいたようで、乱くんが長谷部くんの脇腹をちょいちょいと小突いた。

「ねえねえ、それって燭台切さんからのプレゼント?」
「……まあ、そんなようなものだな」

 きゃあっと声を上げて乱くんが自分の頬に手を添える。

「いいないいな! すっごく似合ってる! 二人ともラブラブで羨ましーい!」
「褒めても何も出ないぞ」
「もうお腹いっぱいだよ!」

 そんな話をしながら、長谷部くんが意識的にか無意識的にか、右手でブレスレットを撫でている。その姿がやけに色っぽくて、僕は思わずそっと目を逸らした。
「焦らしプレイかい?」
 いきなりそんなことを背後から言われて口から心臓が出そうになった。

「亀甲くん!?」
「焦らせば焦らすほど最後のお楽しみは甘美なものになる……いいよねぇ! 僕もご主人様にされたいものだよ」
「えっ、君、気づいて……!?」
「さあ? どうだろうね」

 ふふふと笑い声を残して、亀甲くんは廊下の角を曲がって行った。彼はなかなか鋭いところがあるので不安だが、まあ口外することはないだろう。多分
 僕は赤くなっているだろう頬をぽりぽりと掻いて、深く息を吐いた。
 長谷部くんはまだ乱くんと何かを話しているようで、それはそれは幸せそうに微笑んでいた。
 何の話をしているんだろう。チリリと胸の中が焦げるような心地がする。同じ本丸の仲間に嫉妬だなんて、みっともない。
 大体、襲っていいサインだなんて、僕の前以外でも着けてるなんて、少し破廉恥すぎるんじゃないだろうか。そういうのは、せめて二人きりの時にしてほしい。YES・NO枕のYESの部分を見せながら往来を闊歩しているようなものだろう。いくら僕にしかわからないサインとはいえ。考え始めたらムカムカしてきた。
 ようやく長谷部くんが乱くんと別れてこちらの方に歩いてきた。

「視線がうるさいぞ、伊達男」
「……誰かさんが煽ってくるからね」
「煽られてくれてるのか?」
「当たり前だろ」

 そう返すと、長谷部くんは頬を染めてふにゃりと笑った。
「……そうかぁ」

 いつもは強気でかっこいい彼の無防備な笑顔に、僕の脳内でぷちんと何かが切れる音がした。

 僕は長谷部くんの腕を掴み、ぐいぐいと引っ張って、近くの物置に連れ込んだ。バチンとやや乱暴に木戸を閉めてつっかえ棒を入れ、長谷部くんの両手首を掴み細い体を壁に押しつけて荒々しく唇を重ねる。
「っ……ん、ふ、ぅ……!」
 舌を入れて口の中をかき回す。始めは驚きで縮こまっていた長谷部くんの舌だったが、徐々に僕の動きに応えてもっともっとと自ら舌を絡めてくる。
「……は、こういうの好きだね、本当に」
 唇を離すと、つうっと透明な糸が長谷部くんのぽってりした唇から垂れた。はあ、と荒い息を吐きながら、長谷部くんはにいっと口の端を吊り上げて唯一自由になる脚で僕の股間をぐいと押し上げた。

「おまえだって興奮してるくせに」
「しない訳がないよね? 朝からずっとこんなえっちなものつけて、ちらちら僕の方見てきてさ。『犯してください』って言ってるようなものじゃないか。僕が今日何度皆の前で君を暴く妄想をしたかわかる?」
「はは、……ぞくぞくするな、その顔」

 長谷部くんは手首を掴んでいる僕の手を指でそろりと撫でた。

「さっき乱に人払いを頼んでおいたから、しばらくこの辺りには誰も来ない。――なあ、犯してくれ、光忠」

 藤色の瞳が情欲でとろりと蕩けている。そこに吸い込まれるように、僕は長谷部くんの唇をべろりと舐め、歯を立てた。


 僕のネクタイで手早く長谷部くんの両手を縛り上げて畳の上に押し倒す。首元まで奇麗にボタンの留められたシャツに手をかけて力任せに左右に開いた。ぶちぶちっと音がしてボタンが弾け飛んで畳の上に転がったが、今はその行方を気にしている暇はない。現れた首元にがぶりと噛みつき、脇腹を下から上に撫で上げると、長谷部くんがたまらないといった風に口を開いた。

「っは、ぁ……」

 首筋を舐めながら喉仏に軽く歯を食い込ませる。怯えからなのか快楽からなのか、僕の舌の先でひくんと震える小さな骨の感触がいとおしい。宥めるように唇で優しく食んでやると、嫌々をするように長谷部くんの首が左右に振られ、引き締まった両脚が僕の体を挟む。おそらくもじもじと脚を擦り合わせようとしたのだろうが、僕が脚の間に入っていたのでうまくいかなかったようだ。僕は薄く笑って先程の意趣返しとして長谷部くんのしっとり濡れ始めている股間をぐいと膝で押し上げた。

「ぁ、んんんーっ」
「君だってめちゃくちゃ興奮してるじゃないか」

 膝先に感じる長谷部くんの可愛らしいペニスは既に立ち上がっていて、スラックスの前を薄く濡らしている。極の黒の生地だからあまり目立たないだろうけど、帰る時は大変だろうなぁ、と頭の隅で呑気なことを考えながら僕はふふっと笑んだ。

「ん、ぁ、や、押す、なぁ……!」
「嘘つき。こういうの大好きなくせに。そうだ、イくまで押しててあげようか?」

 硬くなった股間をふにふにと膝で刺激し続けていると、長谷部くんが「んぅ、」と唇をわななかせ、目元に涙を滲ませた。
 可哀想だと思う自分は心の中でしっかり仕舞って鍵をかけ、僕は長谷部くんのカマーバンドもぶちぶちっと引きちぎる。襲ってくれと頼んだのは長谷部くんの方なのだから、これは合意の上だ。
 面倒なので長谷部くんのスラックスのボタンもちぎって外し、下着と一緒に膝のところまでずり下げる。
「わあ、ぐちゃぐちゃ」
 長谷部くんのかわいいおちんちんは先走りでびしょびしょに濡れてひくひくと震えている。あえて屹立には触れずにぱんぱんに張った玉袋をやわやわと揉んでやると、長谷部くんは「なんでぇ…っ」と涙声で文句を言ってきた。

「今日一日煽ってきたお仕置き。今日は触らずにイッてみよう?」
「なっ……や、んんっ」
「ほら、乳首触ってあげるから」
「ぁ、あああっ」

 ぎゅうっと音がしそうなくらい強く乳首を摘むと、長谷部くんの先端からぴゅっと白濁が飛んだ。

「イけるじゃないか。いい子いい子。ほら、後ろも弄ってあげるから口開けて?」

 手袋を脱いで長谷部くんの口元に指先を持っていくと、長谷部くんは心得たとばかりにぱかりと口を開け、小さな舌でぺろぺろと僕の指を舐めあげていく。ちゅうちゅうと無心に吸っていたかと思えば、時折歯を当てたり、指と指の間の皮膚の薄いところにちろちろと舌を遊ばせる。長谷部くんの瞳はもうぐずぐすに蕩けていて、きっと頭の中もこれから僕に犯されることしか考えていないのだろう。
「ぁむ、ん、みちゅ、はや、く……んんんっ!」
 長谷部くんの口の中にまとめて何本か指を突っ込んで、顎の上のやわらかい部分でばらばらに動かすと、苦しさと快感で長谷部くんの瞳から綺麗な涙がぽろりと落ちた。それなのに長谷部くんの中心は立ち上がってひっきりなしに雫を流していて、無意識にか僕の体で擦って刺激を得ようとへこへこと腰を揺らしている。

「んっんー! ぁう、みちゅ、んんんっ」
「君はどこ触っても気持ちよさそうにするねぇ」

 空いていた左手で、ほとんど握りつぶすくらいの強さでもって乳首をぎゅうと摘んだが、長谷部くんは萎えるどころかまた軽くイッてしまったようだった。
 視線からも全身から立ち上るいやらしい体臭からも、「もっと虐めて、ひどくして」と長谷部くんが伝えている。長谷部くんがそうしてほしいというなら、僕も応えてやるべきだろう。
 シャツの前はボタンも生地も引きちぎられた惨憺たる有様で、そこから覗くのは唾液に濡れててらてらと光る両の乳首、白濁の散ったかわいいおへそ、ぐちゃぐちゃになった股間はまる見え、膝のところには半端に脱がされたズボンと下着がくしゃくしゃになって残されている。
 それなのに、長谷部くんはそれはそれは嬉しそうに、欲と期待に満ちた目で僕を見つめるのだ。体も心も一番弱くて脆い部分を晒しだして、どうぞと僕に明け渡してくる。これが愛でなければ何だと言うのだろう。

 僕が何かもっと大型の肉食獣だったら、きっとこのまま長谷部くんを頭から食べてしまっていたに違いない。それくらいどうしようもない、行き場のない凶暴性に、どうにか手綱をつけて飼いならしているのが今の僕だった。

 長谷部くんの体をくるりとひっくり返し、腰だけ高く上げさせる。すっかり縦に割れた長谷部くんの後孔に濡れた指を差し込んで、ぐちゅぐちゅと手早く解していく。わざと前立腺だけ外した動きで中を広げていくと、長谷部くんはぐすぐす言いながら「なんでぇ……」と腰をぴくぴく揺らした。

「言っただろ、お仕置きだって」
「な、ぁ、あんっ、やぁ、ちゃんと、さわってほし……」
「だぁめ」

 僕は長谷部くんの背中から覆いかぶさって、背中や項に唇や舌で優しく愛撫しながら、それでも肝心なところには触らずに中を広げていく。
「は、ぁ、あ、あ、やら、なんか、くるっ、みつ、ッ――――!!」
 長谷部くんの体ががくがくと震え、中の締めつけがきつくなる。手首をネクタイで拘束された両の手が白くなるほど握りしめられ、腰がぶるぶると震えたかとびゅうびゅうと長谷部くんの先端から精液が床に叩きつけられた。
「上手にイケたね」
 指をずるりと抜き、肩で息をする長谷部くんの腰をがしりと掴む。

「じゃあご褒美、あげようかな」
「っや、待て光忠っ……ひあああっ」

 今度は出さずにイッたようだった。畳に頭を擦りつけ、虚ろな眼差しでぼんやりと口を開ける長谷部くんは、どうやら半分気絶してしまったようだった。それなのに中はもっともっとと奥へ誘い込むような動きをしてくるのだから、体は正直というやつだろう。
 僕は長谷部くんの項にがりっと歯を立てながらゆるりと腰を動かした。

「…………襲ってくれって言ったのは君だからね」

 最初は馴染ませるようにゆっくりとしたストロークで、中が僕の形に馴染んできたらばちゅんと下生えが長谷部くんのお尻にぶつかるほど深く深く何度も打ち込んでいく。
 肉と肉のぶつかる音と、ぐちゃぐちゃという水音。僕と長谷部くんの体臭でいっぱいのこの部屋は、さながら二人だけの神域のようだった。なんだかたまらなくなって長谷部くんの腰を一際強く掴んでぐりぐりと奥の奥に亀頭を擦りつける。
「……ぁ、ん……ぅ、あ、あぅ、あっ!?」
 藤色の瞳がぱちんと見開かれる。

「あれ、起きた?」
「ゃ、あっ、んん、起きた、起きたからっ」
「待ってね、もうちょっとで結腸に入るから」
「ひっ、や、いい、も、早く、出せっ」

 じたばたと往生際悪く長谷部くんが暴れようとするのを全身で押さえつけ、耳をぞろりと舐めて「静かにして」と囁く。ようやく少し大人しくなった長谷部くんが口を開く。

「……そろそろ人払いも限界だろう。さっさと終わらせてくれ」
「見られたっていいじゃないか」

 僕は――そんなつもりは勿論毛頭なかったけれど――にっこりと笑って言ってみせた。

「長谷部くんがこんな風に襲われて感じちゃう度し難い変態だって、みんなに見て貰ってもいいんだよ?」
「やだ、やだぁ……!」

 長谷部くんだって僕が本当にそんなことをしないことはわかっている筈で、だからこれはプレイの一環である。

「僕が出した数だけ太腿に正の字書いて、裸でトイレの柱に括り付けて、首から僕専用の肉便器ですって札下げてさ。あのかっこいい近侍の長谷部くんが本当はそんなやらしい生き物だったなんて、みんなびっくりするだろうね」

 実際そんなことになったら長谷部くんの痴態を目にした奴全員膾切りにしてやるくらいの独占欲はあるので、これはもしもの話だ。お互いにIFの話で気分を盛り上がらせてるにすぎない。
 僕の陰茎をきゅんきゅんと引き絞りながら、長谷部くんが怯えと期待に満ちた目で僕を振り返る。

「主にもちゃんと紹介しようね。『へし切長谷部は燭台切光忠の肉便器になりました』って報告して、目の前でセックスするの見てて貰おうか」
「やだっ、主、主はやだぁ……!」

 その声に本気の泣きが入ってたので、この辺が引き際かなと判断して、僕はよしよしと長谷部くんの頭を撫でて、流れる涙を唇で拭った。

「……嘘。誰にも見せないよ。君は僕だけの長谷部くんだ」
「みつただぁ……」

 ちゅ、ちゅ、と甘えるようにキスをしてくる長谷部くんに応えながら、僕は腰の動きを再開し始める。

「んっ、ぁ、あ、あ」
「僕、まだイッてないから、付き合ってね?」

 返事の代わりにきゅっと中を締めつけられて思わず笑みが溢れる。
「……期待には応えなくっちゃ、ねっ!」
 そうして、肉を穿つぱんぱんという音と、くぐもった喘ぎ声が再び部屋の中に満ちた。


 ぐちゃぐちゃになった畳を拭いて消臭剤を撒き、散らばった服の切れ端やボタンを拾い集めていると、端的に言って折れたくなる。賢者モードと言えば聞こえはいいが、今の僕は間違いなく愚者である。
 終わった後すっかり腰の立たなくなった長谷部くんは、壁にもたれて僕の動きをぼんやりと見ている。

「…………気持ち良かったなぁ」
「……それは、どうも」
「最高だった。毎日あれがしたい」
「駄目です。ブレスレットはしばらく禁止。僕のメンタルが保たない」

 ある程度片付けを終えると、僕は長谷部くんに僕の上着をかけてやる。

「部屋から君の着換え取ってくるけど、何か他にいるものある?」
「水」
「……オーケー。急いで戻ってくるから、僕が戻るまで戸を開けないでね」

 そう言って立ち上がろうとしたら、長谷部くんは僕の服の裾をくいっと掴んで引っ張ってきた。

「……光忠、もうちょっと、ここにいろ」
「? いや、でも君そのままじゃ寒いだろう?」

 長谷部くんは不自然に視線を泳がせ、あー、とか、うー、とか謎の唸り声を上げた。

「なに?」
「……その、」
「うん」
「……………………さびしい、から」

 ああもう。君って人は。

 高慢で、淫乱で、いつだって強気で、隠れドMなくせに、こういう素直で可愛らしいところもあるから、僕はいつだってそんな長谷部くんから目が離せない。

 僕は長谷部くんの背中と膝裏を抱えてひょいっと横抱きにする。

「……恥ずかしいけど、このまま帰ろうか」
「いいのか?」
「これも一種の羞恥プレイだと思うことにする」

 そう言って苦笑を向けると、きょとんとした顔の長谷部くんが僕の腕の中でぷっと吹き出した。

「ははっ! なんだそれ」
「君となら、なんだってできるんだよ、僕は」
「なら乳首ピアスも」
「それとこれとは話が別」
「ちっ」

 くすくすと笑い合いながら、僕達は、木戸を開けて廊下に踏み出す。
 没収したブレスレットをそっとポケットに仕舞いつつ、まあ一年に一回くらいならああいうのと悪くないだなんて、そんなことを思う夜なのだった。

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