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客先の都合でGWも出勤が続いていて、ここ最近は休む暇がなかった。代休の消化をするのにいつ休みを取ろうかと考えていると、現在交際中(不本意にも)の恋人が「僕も合わせるから7日に休もう」と強硬に主張してきた。
そうして、5月6日の今日、恋人の長船光忠は会社からまっすぐに俺の住むマンションに泊まりに来ている。
いくら明日が休日とはいえ、いつも笑みを絶やさない男が今日は普段の5割り増しでにこにことしているので、俺は何だか嫌な予感がした。
「長谷部くん、僕、先週2課の営業成績1位だったんだ。今回で連続10週」
「そうか、おめでとう。社の為に今後も励めよ」
「長谷部くん、そうじゃなくて」
光忠の手が俺を掴んで引き寄せ、一つしかない目で俺をじっと見据えた。
――――「何でも」お願い聞いてくれるって言ったよね?
ざっと血の気が引いた。
忘れていた。今の今まですっかり忘れていたが、思い出した。
3ヶ月程前の営業部の飲み会に出た時、こいつはこう言ったのだった。
「長谷部くん長谷部くん、もし僕が10週連続で2課の営業成績1位を取ったら、僕のお願い聞いてくれる?」
素面の時なら「馬鹿を言うな」と切り捨てた筈の発言だったが、運悪くその時俺は酔っていた。
「ああ、いいぞ。何でも聞いてやる。できるものならな」
それを、今、猛烈に後悔していた。まさか本当にやり遂げるとは。
「まさか二言はないよね?」
「……あれは酔っていて、」
「ないよね?」
「………………だから、」
「営業1課のホープ、長谷部国重ともあろう人が、自分で言ったことに責任も取れない訳、ないよね?」
光忠は終始笑顔だった。ただし目だけはどろどろと黄金が煮え滾るような色をしている。さながら情念の坩堝だった。
光忠がこの状態になったら、もう俺が何と言っても絶対に引かないだろう。酒に酔っていたとはいえ、俺自信の不覚でもある。
俺は覚悟を決め、「今回だけだからな」と吐き捨てた。
明日が休みで本当に良かった。
換気の為に開けていた窓を閉め、ベッドに座ったままの光忠に向き直る。
「…………それで、俺は何をすればいいんだ」
「ちょっと試したいプレイがあってね。付き合ってほしいんだ」
大体予想はできていたが、こいつ、そんなことの為にここ最近やけに頑張っていたのか。今まではどうしてたんだ。もっと死ぬ気で働け。そのポテンシャルは俺にではなく会社の為に使え。馬鹿か。馬鹿だな。
じとりと睨みつける俺の視線を物ともせず、光忠はスラックスのポケットから正方形の包みを取り出した。コンドームだ。
「今日ってゴムの日なんだって。僕達、今まであんまり使ったことなかったでしょ?だから、この際思いっきり活用してみようと思って」
何が「だから」なのかわからないが、とりあえず光忠の言うプレイに一晩付き合えば解放されるらしい。断ればあの手この手でどこまでも追い詰められることは身を持って知っていたので、半ば諦めと悟りの境地で俺はため息をついた。
「……で、俺は何をすればいいんだ」
「そうだなぁ、まず口だけで下のジッパー下ろしてくれる?」
「光忠、」
「できるよね?」
「……………………お前、あとで覚えてろよ」
光忠はベッドに座ったまま動く気配を見せない。一瞬躊躇したが、仕方がないので光忠の足元に手をついて跪く。
「長谷部くんのその思い切りのいい所好きだよ」
「黙れ」
光忠の膝に手をかけ、足と足の間に顔を埋めた。
スラックスの合わせを鼻と唇でかき分け、舌を伸ばしてジッパーを探る。ざらつく布の感触の奥に、ひやりとした金属が触れた。見つけ出したジッパーのつまみを唇で軽く食み、歯で噛んで固定する。そのまま下に下ろせばジ、と音を立ててつまみが少しずつ下がっていく。座っているせいで生地がたわんで、なかなか一気に下がらない。苦心して首の角度を調整して何度かに分けて力を入れ、ようやく完全に下がった。
「おい、この次は」
次の指示を仰ぐために見上げると、うっとりとした視線が降ってきた。
「……長谷部くんから見上げられるのっていいねぇ」
このまま局部に頭突きでも叩き込んでやろうかと思ったが我慢した。
「次は、そのまま下着から僕の出して。それで舐めて。あ、もう手は使ってもいいよ」
「注文が多い」
「ねえ、早く」
後頭部に手を添えられて、俺は渋々光忠の開いたジッパーに向き直った。ベルトをゆるめ、スラックスのホックを外す。勿論手で。
下着のボタンを外して、中の性器を取り出すと、今までのやり取りで興奮したのか軽く反応していた。そのまま顔を近づけ、舌先で根本から何度もなぞるように辿る。空いている手でやわやわと玉の方も揉むようにすると、満足気なため息が頭上で漏れた。
段々と芯を持ってきた性器を口に含んでいると、光忠は俺の頭を撫でてきた。
「上手上手。うまくなったね、長谷部くん」
付き合う前まで男同士の付き合いなど知らなかった俺を、文字通り手取り足取り教えこんだ男がうっそりと笑う。
俺は無言で亀頭ごと口に含み、カリの所に軽く歯を立てた。
「痛っ」
「ざまを見ろ」
「ひどいなぁ。これから歯を立てるの禁止ね?」
了承の意を込めて軽く先端を吸うと、光忠が「長谷部くんかわいい」と呟いた。三十路も近い男にかわいいはないだろう、と言われる度に思う。
8割程立ち上がった光忠自身を口に収め、舌を絡めて顔を前後に動かしていると、光忠が頭を撫で、髪を梳いてきた。
「っ……」
意図的な動きで、光忠の指が耳をなぞってくる。ぞわりと首筋から背中に鈍い快感が走り、思わず息を吐く。
「長谷部くんって耳弱いよね」
「っおい、やめろ」
「やだね。ほら続けて」
1LDKのそう広くもない部屋の中、俺と光忠の立てる水音が響く。
時折唇を窄め、指を絡め、吸い、裏筋に舌を這わせ、緩急をつけて扱く。全て光忠に教わったことだった。
「……ふっ……ん、おい、まだか?」
「ん……ちょっと体勢変えようか。僕横になるから、長谷部くん下全部脱いで。あとお尻こっちに向けて上になって」
「……お、まえ、本当に、あとで覚えてろよ……」
「そう言いつつやってくれる長谷部くん大好き」
視線で人が殺せたら、と思いながら、ベルトと金具を外してスラックスから足を抜く。下着に手をかけて下げると、光忠はもうベッドに仰向けに寝そべっていた。
邪魔になりそうなジャケットとネクタイもついでに脱ぎ、光忠の体を跨いで四つん這いになる。目の前には未だ衰えぬ光忠の興奮の証があった。先程まで俺が口に含んでいたそれは、唾液まみれでてらてらと光っている。
再び口に含んで愛撫を再開すると、後ろから光忠に声をかけられた。
「ちゃんと咥えててね」
「っ!……んんんっ」
下半身からぬる、とした感触が伝わった。穴の縁をなぞるように光忠の舌が動いている。
「ほら、長谷部くん。上の口がお留守だよ」
「う、るさっ……ひっ」
温かく湿ったものが体内に入ってくる。かく、と腰が抜けそうになると、光忠の手が腰を支え、ぴしゃりと尻を打たれる。軽く鋭い痛みが走り、俺は顔を歪めた。
「もうちょっと頑張って。できるよね?」
言わんとしていることを理解して、目の前の光忠のものに舌を伸ばす。浮き出た血管に沿うように舌を這わせると、光忠が再び下への愛撫を始めた。湿った音を立てて後孔に潜り込む舌に嬌声をこらえながら、俺は根本から裏筋を唇で軽く食みながら先端に向かう。辿り着いた鈴口からは透明な液が滲んでいて、光忠の快感を表すようだった。
じりじりと焼けるような快感が、羞恥心や正常な判断力といったものをゆるやかに溶かしていく。
先走りを零す先端の孔をちろちろと舐めると、背後で光忠が小さく呻いた音が聞こえた。今までやられっぱなしだったので少し溜飲を下げていると、お返しと言わんばかりにいきなり指が入ってきた。
「――――――――っっっっ!!!」
声にならない悲鳴を上げて、そのまま上半身を倒れこませる。
「ほら、ちゃんと舐めて」
光忠は的確に中のいい所を探り当て、攻め立ててくる。
「あっやっ、ぁあ、んっ無理っ……ひぁっ」
あまりの直接的な快感に涙が滲む。歪んだ視界に写った光忠の性器に必死で縋りつくと、光忠が酷くうっとりした声で呟いた。
「長谷部くん、僕のに頬ずりしてるみたい。やらしい。やらしくて、可愛い」
言いながら指を増やされ、中でぐるりと回される。
「さっきから前触ってないのに勃ってるよ。知ってる?」
「わ、かんなっ……あっあぁっ」
ぐちぐちと孔を広げられながら、自身を軽く握られ、ひゅっと息を呑んだ。そのままゆるゆると上下に扱かれて、視界がチカチカと瞬く。
「っひ、あ、あっ…ああっ、や、光忠、もうっ」
「もう?」
「もぉ、んっ、イきたっ…」
「まだダメ」
光忠は愛撫の手を止めると、ベッドヘッドに置いてあったコンドームを取った。
「挿れてあげるから、これ、口で僕のに着けて」
ぴたぴた、とコンドームの袋で頬を叩かれる。
「みつただ」
思わず振り向くと、光忠は琥珀色の瞳を弧にして俺を見つめている。
「できるよね?」
にっこりと微笑まれて、そう、言われてしまえば。
俺は頷くことしかできなかった。
◆ ◆ ◆ ◆
長谷部くんが震える指先でコンドームの袋を開けるのを、僕は陶然と眺めていた。
普段はあんなに気位の高い長谷部くんが、快楽に陥落していく様を見るのは本当に楽しい。会社ではすました顔で鬼の営業をしている、あの長谷部くんが。ベッドでは僕という男の下で淫らに喘いでいるのだ。ギャップがたまらない。どちらも知っているのが僕だけというのも興奮する。
彼の怜悧な美貌が快感で歪む瞬間が僕は好きだった。
長谷部くんが取り出したコンドームを、僕の先端に置く。軽く先を摘んで空気が入らないようにしてから、ゆっくりと唇を近づける。口で着けるのは初めてだろうに、長谷部くんは唇と舌と歯を上手に使ってコンドームをするすると伸ばしていく。彼は基本的に器用だ。
正直、コンドームをつけない方が彼の腔内の感触を直接味わえて気持ちが良かったが、このシチュエーション自体が非常に僕を興奮させた。
長谷部くんの後ろを指で刺激しながら、彼の弱い内股や腰骨の辺りをさわさわと撫で上げていく。恨めしげな視線がちらりと送られてきたが無視した。
「…………っ…………」
喉の奥まで飲み込んで、根本までコンドームを着け終わると、長谷部くんが息を荒げながらこちらを振り返ってきた。
「……っ、光忠、もうっ……」
我慢できない、と訴えてくる視線に、僕は慈愛に満ちた笑顔を返す。
「いいよ。じゃあそこの壁に向かって両手をついて立ってみようか」
長谷部くんは頑張ったのだけど、挿入した段階で足に力が入らなくなったらしく、今は向かい合わせで僕が抱えた状態で繋がっている。
「あっ、っふぁ、あ、ン、深っ…ああっや、んんっ」
僕の首に縋り付き、長谷部くんが白い喉を反らして嬌声を上げる。僕は彼を抱えて揺さぶりながら、目の前の白い喉に吸い付いて赤い花びらを散らす。
彼の性器には、僕がお返しに着けてあげたコンドームがまとわりついている。既に何度か達したらしく、中に白濁が広がっていた。
あれだけ頑なだった彼も、一度陥落してしまえば素直だ。僕が唇を寄せると、自分から求めるように吸い付いてくる。
「…っん、ん、ふ、っ……」
みつただ、とキスの合間に舌足らずな口調で呼ばれる。長谷部くんの藤紫色の瞳が溶けて潤んで綺麗だった。僕の一番好きな色だ。目尻に口付けながら彼の腰を持って落とすようにすると、長谷部くんが啼いた。
「ひぁああああっ」
あ、今の声かわいい。長谷部くんの普段の話し声も嬌声も全部好きだけれど、耐え切れずに漏れる喘ぎ声は格別だ。啼かせ甲斐がある。
「みつただ、や、おれっもぉ」
長谷部くんが限界を訴えてしがみついてくる。
「もう?」
「やだ、おかしく、なるっ」
「なっていいよ」
全く問題ないし、むしろ大歓迎だった。
一瞬絶望の色を浮かべた長谷部くんを壁に押し付け、彼の好きな所を抉るように腰を使っていくと、彼のしなやかな腕と脚が僕にぎゅうとしがみついてきた。腕はともかく、脚の方はもう少し緩めてもらわないと動かしにくい。
嬌声の合間にいや、やだ、だめ、と譫言のように繰り返しているけれど、もう本人も意味などわかっていなさそうだった。気持ちいいのは、僕と彼の間で痛いほど勃ち上がって震えている彼自身の様子と、ゴム越しに感じる、熱くうねる後孔の感触で十分伝わってきた。
そろそろ僕の方も限界で、長谷部くんの瞳を覗きこんだ。もうあまり焦点のあってないガラス玉みたいな目に僕が映る。
「っ……長谷部くんも、一緒にイこうね」
悲鳴があがる前に唇を奪い、コンドームごと長谷部くんのものを握りこんでガツガツと揺さぶる。
くぐもった喘ぎを漏らしながら長谷部くんが果てるのとほぼ同時に、僕も薄っぺらい皮膜の中に欲望を吐き出した。
射精後の軽い脱力感を感じながらも、慎重に長谷部くんをベッドに横たえ、ずるりと僕のものを抜く。ん、と声をあげる長谷部くんのこめかみにキスしながら、僕はコンドームを外した。
最近お互い忙しくご無沙汰だった為か、思ったよりも多い量の白濁が溜まっていた。僕は迷わずにそれを長谷部くんの顔の前に持っていく。
「長谷部くん、これ吸って」
「…………?…………ん……」
蕩けきった顔の長谷部くんは、言われた言葉の意味をじっくり数秒かけて飲み込んで、のろのろと僕の差し出したコンドームに舌を伸ばす。ぢゅ、と音を立てて中の精液が長谷部くんの口の中に吸い込まれていくのを見て、僕は思わず唇を歪める。
長谷部くんは快感に弱い。普段は頑なな態度を崩さない、気位の高い長谷部くんが、全ての理性を手放して頑是ない赤子のように僕に身を任せる姿を見るのは、僕が彼を抱く楽しみの一つでもあった。
「よくできました。まだ飲み込んじゃダメだよ」
僕は目の前の汗ばんだ額に唇を落とし、長谷部くんの足の間に手を差し込んだ。彼のものも達して少し小さくなっていて、コンドームは簡単に抜き取れる。
「はい、こっちも吸って」
長谷部くんはやっぱりとろんとした目で同じようにコンドーム内に溜まった精液を吸う。ちゅうちゅうと無心に吸い付く姿は本当に赤子のようだった。吸ってるものは、天と地ほどの差はあるけれど。
「長谷部くん、口開けて見せて」
ぱく、と素直に開かれた長谷部くんの紅い口腔内に、僕達の吐き出した白いものが絡み合って広がっている光景は、例えようもなく淫靡だった。唇の端からこぼれ落ちた白濁を舌で舐め取り、僕はそのまま長谷部くんに深く口付けた。
いやらしい水音を立てながら、僕達は体液を分かち合う。
すっかり用済みになったコンドームをゴミ箱に捨て、僕は再び長谷部くんの体をまさぐる。今度は直接彼の体を味わいたかった。
長谷部くんが鼻にかかった甘い声を上げ始める。僕はそれに応えるように指で、舌で、性器で、くすぶり始めていた彼の性感に新たに火をつけていく。
時計はまだ1時を回ったところだった。朝を迎えるにはまだ早い。
明日が休みで本当に良かった。
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