片恋インモラル

短編
     

8074文字

 ――叶わない恋をしている。

 明かり取りの細い窓から降り注いで来た朝日に、長谷部は薄い瞼をぴくぴくと動かし、声変わり前の高い声でううんと唸りながら藤色の瞳を開いた。ごしごしと目を擦りながら体を起こした直後、ベッドヘッドに置かれた目覚まし時計がジリジリと耳障りな音を立て始めたので、その形のいい眉を不機嫌そうに顰めながら目覚まし時計のスイッチをばちんと叩くように押す。役目を全うし沈黙する時計は七時を示している。ベッドから足を下ろし、素足のままぺたぺたと窓辺に近づいて両手でカーテンを開けると、青空の下、庭の薔薇達がうつくしく咲き誇っていた。先週はまだ蕾だった筈なのに、とぼんやり思っていると、背後からコンコン、とノックの音がした。

「長谷部くん、起きたのかい?」

 ガチャリとドアが開く。
 現れたのは背の高い眼帯の美丈夫だった。長く黒く艶やかな前髪を右目にかけるように流した男は、白い陽光を背負って振り返った長谷部に一瞬だけはっとしたようにその金色の瞳を丸く見開いたが、すぐにいつもの笑みを浮かべやわらかく声をかけた。

「……起きてたなら良かった。着替えて顔を洗ったらリビングにおいで。朝食できてるよ」
「わかった」

 そう言って頷くと、男はぱたんとドアを閉めた。
 長谷部はひとつ息を吐いて、クローゼットから着替えを取り出してパジャマのボタンに手をかけてひとつずつ丁寧に外していく。袖から腕を抜き、インナーシャツを頭から被ろうとして、ふと壁の姿見を見る。
 木製のフレームの中に映るのは、煤色の髪に藤色の瞳をした少年だった。肌理の細かい象牙色の肌に、まだ小さく細い体。男――光忠はそんな長谷部の体を「綺麗だ」と褒めそやしてくれるけれど、なまじ光忠の逞しい体を知ってしまっている長谷部には、やはりどうにも貧相に感じてしまう。

(……早く、大きくなりたい)

 そう思いながら長谷部は再びインナーシャツを着てから、ブラウスに袖を通す。慣れない手つきでリボンタイを結び、ハーフパンツと靴下を履き、サスペンダーでハーフパンツを、ソックスガーターで靴下をぱちんと留める。
 この制服を着てまだ数ヶ月だが、来年の三月にはもうお別れなのだと思うと少し寂しい。
 感傷的な気持ちを振り切るように鏡の中の少年にくるりと背を向け、長谷部は自室のドアを開けた。リビングからはパンの焼ける香ばしい匂いがした。

◆ ◆ ◆ ◆

「いってきます」
「あ、長谷部くん、ちょっと待って」

 靴を履いて玄関を出て行こうとすると、光忠が長谷部を引き留めた。振り返ると、華やかな美貌が間近にあってどきりとする。
「リボン、曲がってるよ。直してあげる」
 長谷部の襟元に長い指が伸びてきて、すいすいとリボンタイを結び直していく。
「長谷部くん、今日は早帰りだよね?」
「…………うん」
「今日は寄り道せずに帰っておいで」
「っ……それって、」
「そろそろ新しいのを描こうと思って」
 はいできた、と光忠が長谷部の胸元をぽんと叩く。
 長谷部は小さな胸を高鳴らせながら、「わかった」と頷いた。
「まっすぐ帰ってくる」
「うん、約束だよ」
 目の前に差し出された小指に自分の細い指を絡めながら、長谷部はうっとりと顔を上気させる。
 本当は、学校なんて休んでこのまま光忠とふたりきりになりたかった。だけど、光忠がそれを好まないことも知っていたので、聞き分けのいい子のふりをしてゆっくりと指を離す。
「…………いってきます」
 いってらっしゃい、とかけられる声は、先程トーストにかけた蜂蜜よりも甘く感じた。

 退屈な授業を終え、家路を一目散に駆けてきた。長谷部は上がる息を玄関の前で整えてから、ポケットから鍵を取り出して鍵口に差し込んで回す。カチャ、と音がするのとほぼ同時にドアノブに手をかけてドアを開ける。
 靴を脱ぎ散らかしてそのまま家に入ってしまいたい衝動を抑えながら、内側からドアの鍵をかけ、三和土にきちんと靴を並べて家に上がる。

「ただいま」
「おかえり、長谷部くん」

 家の奥の方から返事が聞こえた。アトリエの方向だった。長谷部はとたとたと廊下を進み、家の最奥にある部屋のドアを開け放った、
 油絵の具の匂いの染みついた部屋の中、キャンバスの準備をしていたらしい光忠がこちらを振り向いてにこりと笑う。
「早かったね」
 その言葉に、まるで自分が急いで帰宅してきたことを――この先のことを期待していることを――見透かされたような気分になって、長谷部の白い頬がかあっと熱くなった。

「……今日は、ショートホームルームだった、から」
 ぼそぼそと言い訳のようにそう答えると、光忠は特に気にした風でもなく「そうなんだ。学校は楽しかった?」と尋ねてきた。
「うん」

 嘘だった。学校なんて、ちっとも楽しくはなかった。光忠がいない場所にこれっぽっちも興味なんてない。けれどそんな長谷部の嘘を光忠は気づいているのかいないのか、微笑みながら質問を重ねてくる。

「何か変わったことはあった?」
「……特にない」
「今日、たしか算数の小テストだっただろう。大丈夫だった?」
「……大丈夫だった。っ……なあ、光忠、」

 焦らすような応酬にとうとう堪えきれなくなって光忠の黒いエプロンの裾をくいと引っ張る。そんな長谷部の様子に光忠はくすりと笑うと、黒い手袋を纏った長い指がついと壁際のソファを示した。
「長谷部くん」
 名前を呼ぶ声はどこまでも甘い。
「服を脱いで、そこに横になってくれるかい?」
 小さく頷くと、長谷部は首のリボンタイに指をかけしゅるりと解いた。紺色のリボンが床に落ちる。ぱさり、というかすかな衣擦れの音が二人の始まりの合図だった。

 生まれたままの姿で、絹のシーツの敷かれたソファに寝そべる。いつもなら脱いだ後の服を床に放ったままだなんて行儀の悪い真似は許されないけれど、今日は特別だ。フローリングの上でくしゃくしゃになったブラウスを横目でちらりと見ると、「動かないで」とすこし強い口調で注意されて、長谷部は慌てて頭の位置を元に戻した。
 光忠は長谷部の裸体を真剣な顔でじっと見つめ、真っ白なキャンバスにざかざかと絵の下描きをしている。

 光忠の左目には、世界は、自分はどう映っているのだろう。長谷部はいつもそんなことを思う。完成した絵を長谷部が目にすることは稀だ。「誰にも見せたくないんだ」と照れくさそうに笑って、できあがった絵は光忠しか入れない、普段は鍵のかかった部屋に飾られている。長谷部はその中の一枚を一度だけ偶然見たことがある。

 陽の光を弾いて鋼のように輝く髪、柔らかく笑みをうかべた薄い唇、すこしたれ目気味の藤色の瞳。細いけれど引き締まった体にシーツを絡めた姿のその青年は、長谷部ではない。それは長谷部の父の絵だった。
 長谷部は父の顔を写真でしか知らない。物心ついた時には両親は事故で亡くなっており、長谷部は父の友人の光忠の元へ引き取られていた。親の顔をろくに覚えていない長谷部にとっては光忠が唯一の家族だった。
 いつだったか、夜中長谷部が眠れなくて光忠の寝室を訪ねた時があった。光忠の体格に合わせたキングサイズのベッドはもぬけの殻で、不安になった長谷部は家中を探し回り、そうして日頃から「開けてはいけないよ」と言われていた部屋のドアの隙間から灯りが漏れているのを見つけてしまった。

 どきどきしながらドアノブを小さく静かに回し、隙間から中を覗く。そこで見つけたのが、父の絵と、そこに口づける光忠の姿だった。

 はせべくん、と切なげに呼ばれる名前が自分に向けられたものでないことはすぐにわかった。普段自分の頭を撫でている大きな手が、おやすみと額に落とされるやわらかい唇が、いとおしげに父の絵に向けられているのを見て、長谷部は理解してしまった。
 もし長谷部がもっと愚鈍で、かつ年相応に純粋だったらどんなに良かっただろうかと今でも思う。けれど、不幸にも長谷部は聡く、同年代の子供達よりも大人びていた。光忠が長谷部の父に向けている感情がなんなのか、自分が今光忠に感じている感情がなんなのか、その名前にすぐに思い当たってしまった。恋だ。そして、嫉妬だ。
 長谷部がその光景に感じたのは、紛れもない悋気であり、初めて抱いたその感情は幼い体の内側からめらめらと燃えあがる炎のようだった。

 思わずぎゅうと握ったドアノブがかちゃりと音を立てて、光忠が弾かれるようにこちらを振り向いた。
「長谷部くん……?」
 ああ、今度は自分を呼んでくれている。そんな些細なことがこんなにも嬉しくてたまらない。

「みつただ、」

「長谷部くん、違う、これは」
 珍しく狼狽える光忠に、長谷部はゆっくりと口を開いた。
「光忠、お願いがあるんだ」
「……お願い?」
 訝しげに眉を寄せる光忠に、長谷部はうんと力強く頷いてみせた。

「俺のことも、絵に描いてくれないか」
 ――その絵の父さんみたいに。

 その言葉に光忠は満月のような瞳を見開いて、そして何故か悲しげな顔をして唇を引き結び、やがて諦めたように頷いた。
 最初は服を着たままの姿を描こうとした光忠に、「父さんは裸だった」と言い張れば、光忠は長谷部の望むまま裸体を描くことを自らに許したようだった。あれから一年、一ヶ月に一回ほどのペースで光忠は長谷部の絵を描くようになった。

◆ ◆ ◆ ◆

 チュン、と窓辺からの雀の鳴き声で、長谷部の意識は現在に引き戻された。さりさりと鉛筆がキャンバスを走る音がする。光忠はまだ下描きを終えていないようだった。
 完成した自分の絵に、光忠は触れてくれるのだろうか。あの長い指と、厚い唇で。
 そんなことを考えていると、腰がむずむずとしてくる。以前はこんなことはなかったのに、最近は光忠を思うと股間のものが上向いて硬くなるようになった。
 は、と息を吐いて僅かに腰を揺らすと、シーツに幼く敏感な性器が擦れて気持ちがいい。
「……ん、っ……」
 気づかれないように腰を動かしていたつもりなのに、いつの間にか腰はかくかくと小刻みに動いて快楽を追っている。

「長谷部くん、駄目だよ。もう少し我慢して」
「あ、ゃだ、みつただ、……さわって」
「まだ駄目」

 光忠が鉛筆を動かす手を止める様子はない。とうとう我慢できなくなった長谷部は、光忠の制止を無視して股間に手を伸ばした。
「っあ、きもちぃ、は、んん、」
 まだ皮を被っている性器からうっすらと覗く先端に指が触れると、腰から脳天まで電流のような衝撃が走り、ぶるりと体が震える。おそるおそる皮を下ろしながら、新鮮な果物のように瑞々しい先端を包み込むように手のひらで握る。そこは既に先端の孔から漏れ出た体液でぬるぬると滑っていた。

「はぅ……っ!」

 本能の命じるまま拙い手つきで己の性器に触れる。体中が火照って、指先から蕩けていってしまいそうだった。
「みつただ、みつただぁ……」
 こういう時に舌に乗せる名前を、長谷部は光忠のものしか知らないし、それでいいと思っている。光忠は長谷部の世界の全てだ。たった一人の恋しい人の名前を呼びながら手を動かし続けていると、カタンと椅子を動かす音がした。光忠が溜め息をついて立ち上がり、エプロンを脱ぎながらこちらに一歩ずつ近寄ってくる。

「……君って子は……」
「ん、だめ? おれのこと、きらい?」
「………………大好きだよ」

 金色の瞳にたしかな情欲の炎が宿っているのを見てとって、長谷部の胸が満たされる。
「……さわって。ちゅう、して」
 長谷部が小さな両手を広げてみせると、光忠はソファに片脚を乗り上げ長谷部に覆い被さるようにして唇を塞いだ。光忠の手が長谷部の薄い脇腹をするりと撫で上げ、乳首をきゅうと摘まむ。
「んんっ」
 喘ぎ声をあげると同時に、口の中にぬるりと舌が入ってくる。大好きな人の肉の感触に、長谷部は夢中になって吸いついた。
 光忠が長谷部に触ってくれるのは、こうして絵を描いてくれる時だけだ。この時だけ、光忠は長谷部のものになる。

「んちゅ、ふっ、はむ、んん、」

 長谷部が覚えたての舌遣いで光忠の舌に己の舌を絡みつけていると、光忠がふっと笑って長谷部の舌を口内から引き出し、その小さく薄い舌に軽く歯を立てた。
「……っっっ」
 粘膜に直接走った痛みとそれを上回る快感に、体をびくびくとしならせて長谷部が目を見開く。ちろちろと炎の揺れる金の瞳に、自分の蕩けた瞳が映り込んでいるのが見えて、ただでさえ蕩けそうな脳が煮えたぎるような心地がした。
 ふと唇が離れて、その後を追うように銀糸が連なり、限界まで伸びてからぷつんと切れた。あ、と名残惜しげな声をあげると、光忠は男らしい所作でぐいと口元を拭いながら、目元を和らげた。

「…………かわいいね、長谷部くん」

 つうっと塗れた唇を指でなぞられ、耳元で囁かれる。鼓膜を震わせるその声にすらぞくぞくと感じてしまって、長谷部は喃語のような言葉しか出せなかった。
「おっぱいもおちんちんも、綺麗な色」
 そう囁きながら、光忠が長い指で長谷部の胸元をそっと転がすように撫でた。今までの愛撫に反応して立ち上がった小さな桃色の突起を摘ままれながら、ぞろりと耳の中を舐められる。
「っひゃ、あ、あ、だめ、」
 そう言って光忠の腕に縋りついたが、長谷部が嫌がっていないことは明白だった。細い足が光忠の脚に絡みつき、腰を揺らめかせて硬くなってきた中心を擦りつけている。

「……そろそろ、長谷部くんも出せるかな」
 そう言うと、大きな手のひらが長谷部の震える小さな性器を包みこみ、やわやわと揉み込んだ。
「ひぁっ」
「ふふ、ちょっと剥けてきたね」
 剥き出しになった先端をぐりぐりと親指で刺激され、視界がちかちかと白く瞬いた。
「あ、だめ、や、でる、でちゃうっ……!」
「出して、長谷部くん」
 光忠がじっと長谷部を見下ろす視線の熱さと裏腹に、かけられる声はどこか冷たい響きを帯びていた。
「出すんだ」
「っっっっあ!!」
 腰の奥から何かがせり上がってくる未知の感覚に思わずぎゅうと目を瞑ると、性器の中の細い管をせり上がってくる体液の温度と感触がありありと感じられた。
 初めての感覚に生理的な涙を流しながら放心していると、そんな長谷部をあやすように、光忠がうってかわって優しい手つきで頭を撫でてくる。

「……上手に出せたね。いい子だ」
「ん……おれ、いいこ?」
「うん。これで君も大人の仲間入りだね」

 そう言って、長谷部の薄い腹に散った精液を指で掬うと、光忠は何の躊躇いもなくそれを口に含んだ。
「…………長谷部くんの味がする」
 散々いやらしいことをしてきたのに、顔から火が出そうなほど恥ずかしくていたたまれない。でも、光忠が自分のことを「大人」と言ってくれたことが嬉しくてたまらない。

「なあ、みつただ」
「なあに」
「入れて」

 金の瞳を縁取る長い睫毛が何度が上下した。
「光忠の、お、おちんちん、入れて。俺、もう、大人、だから」
 長谷部はそう言って両膝の裏に手を入れて、光忠に全てを晒して見せる。対する光忠はというと、ほんのすこし眉間に皺を寄せて平坦な声で問うた。
「…………そんなことどこで覚えてきたの」
「スマホで調べた」
「……フィルタリングが甘かったか……」
 そう苦笑しながら光忠が長谷部の手を取って、自分のズボンの前に当てさせる。そこにあるものの存在感と熱に思わず「おっきい……」と呟くと、光忠の苦笑はさらに深くなった。

「そう、大きいから、まだ君の体には入れられない」
「……でも、」
「駄目だよ」
 こういう時の光忠は絶対に折れてくれないことを長谷部は経験上知っていた。
「でも、俺、光忠に抱かれたい」
 目の周りが熱い。じわり、と涙が溢れてくる。
「俺の全部、光忠にあげたい。光忠のものに、して」

 蜜色の瞳が一瞬だけ陰った。瞬きの間に消えた陰りの中に父の姿が見えた気がして、そしてその勘が当たっていることを、長谷部は半ば確信していた。
 だって今もなお光忠が恋い焦がれている父は、光忠ではなく母を選んで、そうして自分が生まれたのだ。父が光忠に応えなかったその証が自分であることを長谷部は理解していた。そして自分の容姿が父によく似ていることも。
「光忠、好き。愛してる。だから、」
 続きを言う前に強引に唇を塞がれた。噛みつくような激しいキスに息継ぎも忘れて翻弄されて、酸欠で頭がくらくらしてきた頃、ようやく唇が離れる。
「……長谷部くん、足を閉じて」
 言われたとおりのろのろと両足を揃えてぴたりとくっつけると、光忠は長谷部の両足首を片手でひょいとまとめて掴んでしまった。
「おちんちんは入れてあげられないけど、これならいいよ」
 そう言って光忠はズボンの前をくつろげてその凶悪な形の肉塊を取り出すと、長谷部の閉じられた太股の間にゆるゆると突き入れて行った。
「っぁ、あ、なに……?」
 先程吐き出した精液でぬるつく太股の間を、熱く太い鉄串のような感触が通り抜けていく。
 慌てて下半身に視線をやれば、自らの足の間から、光忠のいきり立った陰茎が覗き見えて、長谷部の頬がかっと赤くなった。
 太股を通り抜けた砲身は、そのまま長谷部の幼い陰茎にぴたりと寄り添い、さらに臍のあたりまでその先端を届かせた。

「ほら、こんなの入れたら、長谷部くんのおなか突き破っちゃうよ」
 それでもいいと長谷部は思ったけれど、今度は口にしなかった。代わりに「続き、して」と言うと、ぐうと呻くような声が光忠の喉から漏れた。
「……動くよ」
 そう宣言すると同時に、光忠が腰を前後に動かした。最初はゆったりとした動きが、徐々に激しく速くなっていく。
「っ、く、」
 低く掠れた声を上げながら、光忠が長谷部の陰茎と自分の陰茎を一緒に握った。今まで布越しにしか触れてこなかった光忠の性器の感触と刺激に、くたりとしていた長谷部の性器が徐々に立ち上がってくる。
「っ、ん、ぁ、ふあ、」
「……長谷部くんも、気持ちいい?」
 必死に頷くと、光忠はすこしだけ微笑んで、ぱんと音がするくらい長谷部の脚に強く腰を打ちつけた。
 にゅぷにゅぷと己の太股の間を出入りするグロテスクな肉塊を、長谷部は愛おしいと思った。このままあれで腹の中をかき回して、突き破って、壊してほしいとすら思う。光忠にだったら構わなかった。

「みつ、ただ、みつただ、」

 長谷部は光忠しか知らない。この先知るつもりもない。長谷部の世界には光忠しか欲しくない。そう思っているのに、いつも最後の一線だけはどうしても越えてくれない光忠が憎らしかった。
「ぁ、ん、みつただ、や、でる、でちゃ……」
「ん、僕も、出そう……っ」
 腰の動きが速くなる。光忠が自分の体で気持ちよくなってくれているのを目の当たりにして、頭の奥がじいんと痺れるような興奮を感じる。
「や、あぁ、でるぅ……!」
「…………っ!」

 最初に精液を吐き出したのは長谷部の方だった。一拍遅れて光忠の先端からびゅくびゅくと精液が噴き出した。二度目の射精でさらさらしている長谷部のものより、光忠の精液は濃くてねばついていた。
「は、ぁ、ん……」
 長谷部はうっとりと腹の上に散った二人分の精液をかき混ぜ、指で掬って舐める。味はお世辞にも美味しいとは言えなかったけれど、光忠と自分の交わったものだと思うと、満足感の方が強かった。
 みつただ、と名前を呼んで手を伸ばすと、吸い寄せられるように唇が降ってきた.
 ちゅく、ちゅく、とお互いの舌を吸い合いながら、合間に光忠が零れるように囁いた。

「…………ごめんね」

 ごめんね、長谷部くん、ごめん。

 長谷部とこういうことをした後、必ず光忠はそう謝ってくる。謝っている相手は、父なのか、自分なのか、それとも両方だろうか。
(……早く、大きくなりたい)
 毎日のようにそう思う。長谷部が死んだ父の年齢に近づけば、光忠はきっと自分を抱いてくれるだろうといった予感があった。

 ――いつか。
 いつか光忠は長谷部の絵に口づけてくれるだろうか。

 そんなことを思いながら、長谷部は涙を流して許しを乞う愛しい男の頭をそっと抱きしめた。

 

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