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手入れバグ、という言葉を知ってるだろうか。手入れの術式になんらかの不具合が起こり、それによって様々な現象が刀剣男士の身に現れるもの、らしい。女性になったり猫耳がついたり中身が入れ替わったりと、様々な本丸を騒がせてきたアレが、とうとううちの本丸にも起こった。
「光忠、俺もとうとう手入れバグで母乳が出るようになったぞ!」
「帰らせてください」
急いで部屋を出ていこうとする僕を長谷部くんが自慢の機動で足をかけて転ばせる。さすがにカンストしている身だ、とっさに受け身は取ったけれど、長谷部くんは僕が起き上がるよりも早く僕の上に馬乗りになって動きを封じてきた。
「どこへ行く!」
「嫌だよもう結果は見えてるじゃないか! 授乳プレイの要求だろう!? 断固として却下するからね!!!」
しかも母乳とかなんでそんなマイナーかつエロチックなバグがよりにもよって僕の長谷部くんのところに起こるんだ。せめてもっとこう心穏やかに過ごせるバグが良かった。猫語しか話せなくなるとかそういう。
いや駄目だな。僕は即座に先程までの考えにバツをつけた。長谷部君なら猫語しか話せなくてもそういうプレイを要求してくるだろう。長谷部くんの長谷部君による長谷部くんのための玩具コレクションの中には猫耳しっぽ付きのアナルバイブがあった気がする。どう足掻いても僕達には特殊プレイの道しかない。詰んだ。
「嫌だよ……赤ちゃん授乳プレイなんてかっこ悪いよ……僕そんなのやりたくないよ……」
僕が力なく首を横に振ると、長谷部くんがこてんと首を傾げた。
「そんなことはしないぞ?」
「えっ」
驚きのあまり僕はのしかかる長谷部くんを腹筋の力だけで押し返して起き上がった。
「しないの? 僕に母乳吸わせて『よしよし♡光忠はかわいいでちゅねぇ♡』とかそういうのやるんじゃないの!?」
「お前がやりたいなら考えるが」
「滅相もございません」
ぶんぶんと手と首を左右に振る。
長谷部くんの言葉に僕はほっと胸を撫で下ろした。なんだぁ、そっかぁ、良かった。そういえば長谷部くんはバリバリのマゾなのだ。僕以外にはサドっ気を見せることもあるけれども、基本的には苛められたり詰られたりして酷い目に遭わされるのが大好きな、僕限定のバリネコちゃんなのだ。そんな長谷部くんが僕に赤ちゃんプレイを強いるなんてこと、よく考えたらある訳がなかった。良かった。これで平穏無事に過ごせる。
「俺がやりたいのはただの授乳プレイじゃないぞ。御主人様×エロメイドの主従授乳プレイだ」
「またマニアックなのぶっこんできたね!?!?!?!?!?」
僕の平穏は二秒で終わった。あっけない命だった。
「衣装ももう買ってあるんだ。最近の通販ってのはすごいな! すぐ届いたぞ。プライム会員になった甲斐があったな」
呆然とする僕をよそに、長谷部くんは机に置いてあった箱からひらっひらの「もうそれ紐では?」って感じの言われてみればメイド服とも思えるような布を取り出して来た。
世の中と長谷部くんの機動についていけないのは僕が鈍足――とはいっても常人よりは速いのだ、一応――だからなのだろうか。待って。僕を置いて行かないで。
「ま、待って長谷部くん、ごめん、ちょっと設定がよくわからない。……ええと、そのエロメイド? をやるの? 君が?」
「この場合はそうだな」
「で、僕が御主人様」
「そうだ」
うーん、と僕は腕を組んだ。それだけなら、まあ、わからなくもない。いわゆるイメージプレイというやつだ。
先日長谷部くんの顕現記念日に未亡人を押し倒す義父役をやらされた時に比べれば、全然理解できるし許容範囲内だ。しかし。
「御主人様とメイドで授乳……?」
「まあまずはこれを読め」
長谷部くんがさっと僕に差し出してきたのは紐で綴じられた分厚い紙の束だった。表紙には「マル秘 関係者以外の閲覧を禁ず」と書かれている。しかも何カ所か付箋が貼られていて、読み込んだ跡が見える。
「まずは最初の設定からだな。五ページ目を読んでくれ」
「はぁ……」
言われた通り藤色の付箋の貼られたページをめくると、ご丁寧にマーカーでラインまで引いてあった。
「お前の役名は『長船光忠』、日本屈指の名家、華麗なる長船家の若き当主にして、裏社会のドン。先日闇オークションで買った世にも珍しい母乳の出る青年・長谷部を気に入り、メイドとして手元に置き昼も夜も可愛がっている」
「待って待って待って待って」
痛む頭を押さえる。ぐりぐりと眉間に寄った皺を揉み解しながら僕は口を開いた。
「え? ごめん、ちょっと意味がよくわからない」
「ああ、闇オークションと言うのはな、いわば非合法な競りでだな」
「そこじゃなくて!! もっと!! 全体の!! 話!!!!」
なんだか話が通じていない。割といつものことだけれど。
不思議そうにこてんと首を傾げる長谷部くんはかわいい。あざといくらいかわいい。悔しい。きっと半分くらいわかってやってるんだろうなと思うものの、かわいいことは認める。ああ認めるとも!
しかし僕だっていつも流されるばかりではないのだ。たまには刀の意地を見せなければ。三回に一回は失敗しているとしても、僕にだって譲れない一線というものがあるのだと長谷部くんにわからせてやらなければならない。
「長谷部くん、あのね、ちょっと僕そういうのどうかと、」
「ちなみに俺の役名は『長谷部国重』、オークションで自分をドブネズミのような生活から救ってくれた長船光忠に心酔していて、身も心もすべて光忠に捧げたいと思っているエロメイドだ」
「んんんんん」
身も心もすべて僕に捧げたいのかぁああああ、そっかああああ……。
諫めるつもりが思わずついぐっと来てしまって僕は顔を押さえて呻き声を上げた。
「好きだろ、こういうの」
にやにやと顔を覗き込んでくる長谷部くんにじっとりと恨めしげな視線を向ける。長谷部くんは僕の視線を受けてもどこ吹く風で、どころか愉快そうにくくっと肩を揺らした。
「お前絶対こういうのハマると思ってたんだ。一晩で考えた甲斐があった」
「一晩でこの量を!?」
長谷部くんが一晩でやってくれました。
馬鹿と天才は紙一重って言うけど長谷部くんは確実にその類だと思う。
「ちなみにその後ろは台本で、台本の後は舞台の設定資料集だ。長船家の家系図もあるぞ」
「凝り性はそんなところにまで活かさなくていいんだよ、長谷部くん……」
家系図とやらも地味に気になるけれど、とりあえず台本とやらにさっと目を通す。長谷部くんの妄想と願望の詰まった桃色の文章を一通り読み終えて、二言。
「え……これやるの……? 本当に……?」
「もう良さそうなラブホテルの部屋は押さえてるんだ」
「最初から完全にやる気じゃないか!!」
計画的犯行すぎる。用意周到さに舌を巻く僕に、「俺はいつだってやる気だ」と長谷部くんはえへんと胸を張った。その胸元が少し濡れていることに気がついて、そこに吸い寄せられるように視線を向けてしまう。
「……それ、本当に母乳出てるの?」
「見てみるか?」
「…………うん」
ぷちぷちとシャツのボタンを開かれ、左右に広げられる。健康的な色の肌に、薄いピンク色のかわいらしい乳首が覗いている。その乳首の先端からたらたらと白い液体が糸のように滴っていた。
「……触っても、いい?」
「ん、いいぞ」
僕が触りやすいようにか、長谷部くんが胸を反らせると、こころなしか先程よりも尖った乳首がつんと上を向く。その先端から垂れる液体をつうっと指で掬ってから、僕はきゅっと長谷部くんの乳首を指で摘まんだ。
「んっ」
「いつもより感じてる?」
「ぁ、んん、わかん、な、ぁう」
ぴくんと長谷部くんが震えると同時に、たらりと指の間から母乳が滴る。長谷部くんが感じると出る量が増すようで、僕は少々愉快な気持ちで長谷部くんの乳首をくりくりと苛めた。僕の手袋が長谷部くんのミルクで濡れててらてらと光っている。
思わず長谷部くんの胸元にそっと唇を寄せようとしたら、長谷部くんから肩を押された。
「今はここまでだ」
「『今は』?」
「続きはホテルでゆっくり、な」
そう言ってちゅっと触れるだけのキスをすると、長谷部くんはさっとタオルで体を拭き、ボタンを元通りに留め直した。
「やるんだろ?」
既に答えのわかっている問いを投げかけながら、長谷部くんはそれはもう綺麗な笑みを浮かべたのだった。
◆ ◆ ◆
「旦那様、食後の紅茶です」
ひと仕事後の夕食を終えた僕にティーカップを差し出すのはメイドの長谷部くんだ。
「ありがとう」
繊細な絵柄の描かれた陶器のカップを受け取りながらそう答える。
「ミルク、レモン、ストレート、どれにされますか?」
「ミルクをお願いしようかな」
「かしこまりました。それでは――」
「待って」
ミルクポットを運んで来ようとする長谷部くんの腕を掴み、やんわりと引き止める。
「ミルクは君のがいいな」
にこりと微笑んで告げると、さっと長谷部くんの頬が朱に染まった。長い睫毛が恥ずかしげに震えている。
「もちろん、嫌ならいいんだけど」
「……いえ、旦那様の御命令とあれば、喜んで」
「長谷部くん」
僕が窘めるように名前を呼ぶと、彼はびくんと大袈裟なくらいに体を震わせた。
「僕はね、君に嫌々やって欲しいわけじゃないんだ。嫌なら嫌でそう言って。君はもう自由の身なんだから」
「旦那様……いえ、俺は本当に、旦那様がお命じになるなら喜んで何でもします」
僕はそうか、と相槌を打つ。彼が嫌だと泣いてしまうくらい恥ずかしい命令をしてみたい欲求に駆られたものの、まだ早いと自分を諫める。僕はメインディッシュは最後まで残しておくタイプなのだ。
「長谷部くん。それから、二人きりの時はなんて呼ぶんだっけ?」
「……光忠、様」
「様はいらないかな」
「そんな、主の名前を軽々しく呼び捨てなんてできません」
長谷部くんがふるふると首を横に振ると、煤色の髪を飾るヘッドドレスのフリルリボンがふわりと揺れた。
「うーん、強情だなぁ。そこがいいんだけど」
苦笑しながら長谷部くんの頭をそっと撫でる。途端に強張っていた顔がふにゃりと嬉しげに緩む。頑なな彼が僕にだけ見せるこういうところが、すごくかわいい。
「とりあえず、ミルクを貰おうか」
「は、い」
長谷部くんがするりと胸元のエプロンをたくし上げる。長谷部くんの為に特注したこのメイド服は、エプロンをめくると乳首や大事なところが丸見えになるように設計されている。白いフリルに縁取られた穴から、彼の乳首が控えめに立ち上がっているのが僕にはすべて丸見えだった。
「相変わらずかわいい乳首だね」
僕がつんつんと乳首をつつくと「ひぅ……っ」と長谷部くんは小さな悲鳴を零した。同時に、とろとろと彼の乳首から白い液体が流れ、甘ったるい匂いが僕の鼻先をくすぐる。
長谷部くんは世にも珍しい母乳の出る男性で、先日闇オークションで人身売買されていたのを僕が引き取った。一目惚れだった。
檻の中でも気丈に前を見つめていた藤色の瞳に、僕はもうずっと囚われ続けている。
「ああ、垂れてきちゃうね。勿体ない」
口を近づけて直接母乳を舐め取る。肌に流れる滴の跡を舌でなぞり、とぷとぷと乳を滴らせる乳首に唇をつけて吸いつく。甘い。ちゅうちゅうと舌と唇で吸ってもっともっとと催促すると、次から次へとミルクが溢れ出してくる。きゃうん、と子犬のような悲鳴を上げて長谷部くんは体を仰け反らせた。
「あっ、光忠、様、おやめ、くださいっ……そんな、行、儀の、悪いことっ……」
「ごめんごめん。つい味見したくなって」
すっと唇を離してナプキンで口元を拭う。そんな僕の仕草をどこか複雑そうな表情で見つめてから、長谷部くんは大きく息を吐いてテーブル上のカップの真上になるよう腰を曲げた。
「ん……それでは、長谷部のミルク、お注ぎ致します……っ」
真っ赤になりながらも長谷部くんは震える指で乳首を摘まんで揉み込んだ。くりくりと刺激された乳首から、ぽたぽたと新鮮なミルクがカップに注ぎ込まれていく。その様子を僕は脚を組んでじっと見守る。こんな時お金持ちで良かったと思う。世界一うつくしい人からこんなスペシャルサービスを受けられるのはきっと世界でも僕ただ一人だろう。
「長谷部くん、気持ちいい?」
「あ、ぅん、ごめんなさ、」
「いいんだよ。お乳出して気持ちよくなっちゃったんだね」
そっと彼のロングスカートの上から股間に触れると、そこはもうすっかり立ち上がっていて、先端を押さえるとじんわりと布地が湿るのがわかった。
「下のミルクも出したくなっちゃった?」
悪戯っぽく尋ねると、長谷部くんはきゅっと唇を引き結んでからこくりと小さく頷いた。
「ぁ……ミルク出して感じちゃう、駄目なメイドで、ごめんなさい……!」
長谷部くんはいつもこういう時「ごめんなさい」と言う。感じちゃってごめんなさい、イッちゃってごめんなさい。僕が何度それは気にしなくてもいいのだと教え込んでも、なかなか直らない。長谷部くんが奴隷商のところで受けた傷は僕の想像以上に深いらしい。
そんな彼を癒やしてあげたいと思うのは本当なのに、長谷部くんの痴態に嗜虐心を刺激されてしまう自分がいるのも確かで。
自分の中で牙を剥く獣の本能を宥め賺しながら、僕は物わかりのいい主人の顔で立ち上がっている長谷部くんの雄芯に手を書けた。
「……気にしないで。ほら、もっと気持ちよくなろう? こっちの裾は持てるね?」
長谷部くんにスカートの裾を持たせ、エプロンは口で咥えさせる。顕わになった胸元に吸いつきながら、右手でちゅこちゅこと長谷部くん自身を上下に優しく扱いてやる。
「っ、ふ、んん! んーっ、ッ!」
がくがくと体を震わせる長谷部くんは、それでも僕の命令通り裾を持ち上げたまま離さない。健気だ。かわいい。大事にしたい。でも、めちゃめちゃにしてやりたい。相反する感情を持て余しながらじゅうと胸元を吸い上げると、甘いミルクの味が口の中に広がる。
「ん、んんんっ……ッ、ふ」
「ふふ、おつかれさま」
ナプキンで長谷部くんの濡れた性器を拭いてやる。
「ん、ふ、」
「ああ、もう離していいよ」
ぽんと長谷部くんの二の腕に手を置くと、ぱさりとスカートとエプロンの裾が落ちた。
「ぁ、あう、光忠、様」
涙で濡れた藤色の瞳が者言いたげに僕を見つめる。
「…………挿れてほしくなった?」
するりと首から顎にかけて撫でると、長谷部くんは僕のてのひらに顔を擦りつけるように動かした。
「ん、ぅん、おれ、だめなのに、かんじちゃって、ごめんなさい……」
「長谷部くんは駄目なんかじゃないよ。えっちでかわいい、僕の自慢のメイドさんだ」
は、と薄紅色の唇から震える吐息が吐き出される。
「みつただ、さま」
「長谷部くん」
長谷部くんの唇をそっと親指でなぞる。濡れた唇が誘うようにちゅぱっと僕の指を吸った。ちろりと覗く舌先が赤い。匂い立つような色気に僕の方が我慢できなくなってくる。
「……ベッド、行こうか」
そう囁いて長谷部くんの腰を抱き寄せると、意外なことに長谷部くんはふるふると首を横に振った。
「だめ、です」
「どうして?」
「紅茶、まだ、飲んでない、から」
その言葉に僕は吹き出して、繊細なティーカップの取っ手に指をかけて一気に飲み干した。そうしてにっこりと笑顔を向ける。
「とっても美味しいよ、長谷部くんのミルク」
「…………勿体ないお言葉です」
ぺこりと頭を下げようとする長谷部くんを押しとどめ、僕は立ち上がって再び長谷部くんの腰を抱いた。
「ね、次は僕のミルクも飲んでくれる……?」
「……は、い」
甘い甘いキャンディのようにとろける瞳で長谷部くんが頷くと同時に、僕はその細い体をひょいと抱き上げた。
「ベッド、行くね」
今度は断られなかった。
「んん、ちゅ、ぇう、ん、っふ」
目の前で長谷部くんのかわいいお尻が揺れている。仰向けになった僕の顔に跨がる形で口淫させるのは、僕の気に入りの体位だ。
薄く色づいた形のいい陰茎を手で扱きながら、奥の窄まりに舌を這わせる。ぴくぴくと太股が震え、小動物のような悲鳴が上がったけれど、長谷部くんは健気にも僕への奉仕をやめない。その様子に気を良くして、僕は尖らせた舌先でつんつんと長谷部くんの秘蕾をつついた。僕の手の中では雄芯がひっきりなしに先走りを零していて、上下に扱く度にちゅこちゅこと水音を鳴らした。
「っ……ん! ふあ、ん、ちゅっ、んんん」
下半身から上ってくる快感と、目の前の光景への興奮に脳が痺れそうだ。今すぐ僕のものを突き入れたい衝動と戦いながら、舌先を穴の中に潜り込ませる。
「んああっ」
ぴゅ、と軽く先端から白濁を飛ばしながら、長谷部くんが喘ぐ。くぷくぷと音を立てて舌を抜き差しすると、長谷部くんの体重を支えている膝ががくがくと笑いだし、今にも崩れ落ちそうになった。
「んっ、あ、あ! 駄目、です……! そこぉ……」
「長谷部くん、お口がお留守だよ? ほら、ちゃんと舐めて」
「ッ、は、い……」
僕が窘めると長谷部くんはおとなしく口淫を再開する。
「ん、いいこ」
そう褒めてお尻を撫でると、長谷部くんの穴が物欲しげに蠢いた。腹にぽたぽたと垂れているのはきっと長谷部くんの母乳だろう。
唾液で潤んだ穴の中にそっと指を挿し入れる。ねっとりと熱い体内が僕の指を美味しそうに締めつけてきた。
「長谷部くん、気持ちいい?」
「っ、あ、いい、れふ、ん、ちゅ、ンン、んーっ! らめ、れちゃ、あああっ!」
勝手知ったる隘路に二本の指を突き入れて、その中のしこりをコリコリと刺激すると、僕の手の中で長谷部くんが弾けた。
この体勢で唯一不満があるとすれば長谷部くんのイキ顔を見られないことだ。
僕はすっかり力の抜けた長谷部くんの体を抱え、僕と向かい合う形の対面座位の体勢にさせる。僕の肩にくんにゃりと額を預けた長谷部くんは、はあはあと荒い息を吐き、未だに法悦の波を漂っているようだった。いつもは凜々しい眉が力なく下がって、口の端から唾液を流しながら、それでも長谷部くんが真っ先に口にしたのは僕への謝罪だった。
「あ、ぁう、さきに、イッて、ごめ、なさ」
「……黙って」
薄い唇にちゅうと吸いつき、長谷部くんの腰を掴んで勢いよく貫いた。
「っっっっっ!!!!」
「っは、き、つ……」
動くよ、と一方的に宣言し、がつがつと腰を打ちつける。
「あ、っ、あん、あ、あ、あーっ! ああっ、ッ!」
喃語のような喘ぎを漏らしながら長谷部くんが再び射精する。きゅうきゅうと締めつけてくる中の感触に逆らいながら、僕は長谷部くんをなおも攻め続ける。
「くっ、ん、はせべ、くん、好き、好きだよ……!」
目の前の乳首にじゅうと吸いつくと、長谷部くんは首をそらせてひんひんと鳴いた。
「あっ、や、みつただ、さま、らめ、そこっ」
「光忠って呼んで。僕は、光忠」
「みつただぁ、やら、きもちぃ、もっとぉ……」
長谷部くんが僕の頭を抱え込むようにして抱きしめてくる。
「はぁ、ん、ちゅ、すき、長谷部くん、すき、だいすき」
「あぁっ、みつたら、やぁ、も、イくっ」
「うん、僕も、出そう……っ、は、ぁ、ちゃんと、全部飲んで、ね……!」
噛みつくようにキスをしながら、ぐん、と腰をつかんで最奥に腰を打ちつけて欲の限りを注ぎ込む。
「ぁ……あぅ、ん……!!」
薄い精液を吐き出しながら長谷部くんが体を震わせる。
出したものを全て塗り込めるように何度か腰を揺すると、その度に長谷部くんはびくびくと絶頂しているようだった。
「……お利口様。ちゃんと全部飲めたね」
ぽんぽんと頭を撫でると、長谷部くんはゆっくりと右手を自分の腹に当て、撫でさすった。
「ぁ……みつただの、みるく……」
「ん、いっぱい飲めたね。このままだと長谷部くん、本当のママになっちゃうかもね?」
瞼にキスを送りながら告げると、長谷部くんはふにゃりとかわいらしい笑みを浮かべた。
「ん、なるぅ……みつただの、あかちゃんほしい……」
長谷部くんは母乳が出ると言えど、男だ。僕達の間に子供はできないし、お互いの子種は無為に死滅していくだけだ。だから、これは熱に浮かされた戯言だ。お互いにそれはわかっている。それでも。
「駄ぁ目。長谷部くんのミルクは、全部僕のだからね」
それでも、想像上の子供にだって長谷部くんを渡したくないのだから、我ながら自分の独占欲には呆れてしまう。
◆ ◆ ◆
プレイを終えてホテルのジャグジーバスに浸かりながら、僕はほうと息を吐いた。
「……たまには、イメージプレイもいいものだねぇ」
「それは良かった」
僕の腕の中で長谷部くんはもこもこの泡を両手で掬い取り、ふうと吹き飛ばしてみせる。
「泡風呂、気に入った? 本丸じゃなかなかできないもんね」
「ん。面白いな、これ。うちでもやりたいが、まあ無理だろうな……」
「うちの大風呂でやったらあっという間に泡が消えちゃいそうだもんねぇ。部屋のお風呂もう少し拡張してジャグジーにしてみる?」
「絶対粟田口か御手杵あたりが噂を聞きつけて入りに来るぞ。やめとけ」
「あはは、想像つくなあ」
それにしても。
「長谷部くんにしては、今回随分と甘々というか、比較的真っ当なプレイだったね?」
てっきり鬼畜系主人を演じさせられてSM主従プレイをやらされるのかと思っていたけれど、きちんと台本に目を通したら意外にも寛大で話のわかる系の主人だったので安心した。
「…………まあ、初めての台本ありのプレイだったしな。あまり飛ばし過ぎるのもどうかと思って」
そう言いながらも長谷部くんの目元がほんのり赤い。これは、照れている。間違いない。
「甘々プレイがしたいなら、言ってくれればいつでもするのに」
「……検討しておく」
ぷい、と横を向かれた。素直なんだか素直じゃないんだか。僕の恋人は照れるポイントがちょっとずれている。そのかわいい仕草に思わず笑みを漏らしながら、僕は長谷部くんの肩にぐり、と額を押しつけた。
「ね、まだ滞在時間余ってるだろう」
「そうだな」
「今度は台本なしに君を抱きたいな。駄目?」
ぱち、と藤色の瞳が瞬いた。
「あんな紙の上の御主人サマなんかより、君のこともっともっと甘やかしてぐずぐずにしてあげる」
そう言って首筋を舐め上げ耳朶に齧りつくと、長谷部くんはくふ、とおかしげに肩を揺すった。
「なんだ、お前、妬いてるのか」
「ちょっとね」
「いいぞ」
長谷部くんが笑いながら僕の頬をするりと撫でた。
「とびっきり甘やかして、駄目にしてくれ」
「……言ったね。後悔しても知らないよ?」
我ながら悪い顔をしているのがわかる。そんな僕に臆した様子もなく、長谷部くんの薄い唇が弧を描き、白い両腕が僕の首に回される。
そうして、殺し文句が一言。
「お前とする後悔なら悪くない」
僕が長谷部くんに勝てる日は、まだまだ遠そうである。
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