恋人たちの夜は更けて
燭台切にそれが見つかったのはまったくの失策だった。
燭台切が遠征に行ってもう一週間が経った。
燭台切と付き合ってから一ヶ月。肌を重ねるようになって三週間。そんな中での一週間である。最近は三日と置かずに致していたから、なんというか、率直に言って尻が疼く。
そんな長谷部が鍵を開けて久々に取り出したのは、見慣れた燭台切の手袋だった。もはや体に染み付いた動きで手袋をはめる。
着物の帯を解き、あわせを開いてするりと下着を下ろす。ただの脱衣も燭台切の手によって行われているかと思うと息が荒くなる。
『かわいいね、長谷部くん』
そんな声が聞こえてくるようで、長谷部は瞼を降ろして恋人のことを思いながら自らの下肢に手を伸ばす。
すこし前まで知らなかった燭台切の手つきも、今は知っていた。記憶の中のそれをなぞるように、焦らすような触り方で太ももに触れ、肌すれすれのところで動かす。ぞわり、とくすぐったさにも似た快感が背筋を走る。
撫でさするようにしてそのまま会陰のあたりをくすぐり、睾丸を軽く持ち上げて竿に移る。
既に芯を持ち始めていたそれを握り、揉み込もうと手に力を入れた時、
「長谷部くん、ただいま――ッ!?」
障子が、開いた。
「…………ええと、つまり、君は実は前からそうやって拾った僕の手袋を使って自慰をしていたと」
穴があったら入りたい。性的な意味でなく。
長谷部は処刑前の罪人のような心持ちで深くうなだれた。
「……嫌いに、なったか」
「まさか! ちょっと、いやかなり驚いたけど、そんなことで嫌いになったりしないよ」
長谷部が顔を上げると、慈愛に満ちた燭台切の視線とぶつかる。そのまま抱き寄せられ、やわらかく頭を撫でられた。
「好きだよ、長谷部くん」
「燭台切……」
自分の恋人はなんてできた男なのだろうと長谷部が感動していると、耳元で笑い混じりに告げられる。
「ねえ、せっかくだから、このまましてみせてよ」
恋人の瞳には、たしかな情欲の炎が灯っていた。
「いつも通りにしていいからね」
燭台切の足の間に座らされ、そんなことを言われる。
長谷部はおずおずと自分のモノに手を伸ばし、触れる。そこはさきほどのやり取りで萎えてしまっていたが、長谷部がゆるゆると扱くとすぐに形を取り戻していく。
「っん、は、ぁっ……」
燭台切がじっとこちらを見ている。金色の視線を感じれば感じるほど、長谷部の性感は途端に跳ね上がって長谷部に荒い息をつかせた。
燭台切の手袋をつけて、燭台切の目の前で己のものを扱くのはえもいわれぬ倒錯感があった。背中に当たる燭台切のぬくもりを感じて手を動かすと、頭がおかしくなりそうな快感が腰から頭の先まで走る。
いつも通り。いつも通りに燭台切の声を想像する。『気持ちいい?』と問いかけられて、それで――
「気持ちいい?」
「ひぅっ……!」
後ろから耳を食むようにしてそんなことを問いかけられて思わずぎゅっとペニスを握りしめてしまい、微かな痛みとそれを上回る快感を得る。
「ほら、手が止まってるよ。ちゃんと動かして」
「はっ……あ、んん、光、忠っ」
言われて再び手を動かせば、後ろからくすりと笑い声が聞こえる。
「いつもこういう時光忠って呼んでくれてたの? 可愛い」
耳元で注ぎ込まれるように与えられる言葉は、耳朶から脳を侵すようだった。気持ちいい。恥ずかしい。恥ずかしいのが、気持ちいい。
動かしている手の感触がそのまま燭台切に与えられている快楽と錯覚して、いつもより簡単に上り詰めてしまう。
「あっ駄目、だ、イク、イクっ……!」
目の前がばちばちと点滅する。そのまま上り詰めるように手を早めると、腰から凄まじい快感がせり上がってきて長谷部の体が痙攣する。びくびくと体を震わせて手の中に欲を吐き出し、はあはあと肩で息をしていると、後ろから手が伸びてきて長谷部のものに絡みついた。
「長谷部くん、可愛い……」
そのまま出したものを塗り込めるように動かされて、長谷部の腰が震えた。射精後で敏感になった体は容易にその快感を拾い、もう一度高みへと上っていこうとする。
「や、駄目、みつた、だっ」
「もう一回、してみせて」
いい子だから、ともう片方の手で頭を撫でられる。
長谷部が後ろを振り返れば、金色の瞳が欲の炎で燃えていた。
それにわずかな安心を感じながら、長谷部は小さく頷いて再び足の間に手を伸ばす。
「ふ、んんっ、ッあ、あっ」
精液でぬるつくそこをゆるゆると上下に擦りあげていると、燭台切の手が上から重ねられて導くように動き出した。
「あああっ、や、ん、激しっ、ふああっ……!」
「そんなんじゃイけないだろう? もうすこし激しくしないと」
「みつ、みつただっや、あっ、イっちゃう、イっちゃうからっ」
「イってみせて。ね、長谷部くん」
かり、と耳に軽く歯を立てられて腰が震える。長谷部は燭台切の手に合わせてめちゃくちゃに己のものを扱き立てて上り詰めていく。
「あ――ッ、ん、ふっ……!」
手のひらで受け止めきれなかった熱がぱたぱたと畳の上に溢れた。脱力して後ろに凭れかけると、いい子いい子、と髪の毛を梳かれる。
「ねえ、長谷部くん。このままシたいって言ったら怒る……?」
ぐり、と腰に硬いものを押し付けられて、長谷部はぼんやりとした頭のまま後ろを振り返る。数秒かけて、ようやく意味を理解すると、知らず唇の端が上がった。
燭台切の抱いてる欲が、自分のものとなんら変わりないことを確認して、長谷部はうっとりと笑う。
「いいぞ、来い」
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