バリタチ!

短編
     

29712文字(全3ページ合計)

2.バリタチ奪還大作戦!

 長谷部国重はゲイだ。ゲイにはセックスにおいて二種類の役割がある。突っ込む方と突っ込まれる方――すなわち、タチとネコだ。無論、これは状況において変える者も多いし、一回のセックスで両方をこなす者もいる。しかし、長谷部はゲイとして目覚めて以来、ずっとタチしかしてこなかった。いわゆるバリタチだ、いや、『だった』。

 これを過去形にしたにっくき男の名は、燭台切光忠。誰もが振り返る華やかな容姿を持つ偉丈夫だ。

 卑劣な策略によって長谷部の体を作り替えた燭台切は、あの日以来長谷部の恋人を名乗り出した。馴染みのゲイバーで適当な男を引っかけてワンナイトラブを決め込もうとするものなら、どこからともなく現れては「彼、僕のだから」と長谷部の腰を抱いて強引に連れ去る。もしくはスマホに通話してきて「今から会えるかな」とあの腰に来るようなバリトンボイスで告げるのだ。燭台切の手元には長谷部が抱かれている時のハメ撮り動画がわんさか眠っている。逆らえばどうなるか、想像に難くない。思いつく限りの罵倒の言葉を脳内に浮かべながら長谷部はいつも燭台切に自宅まで連れて行かれ、そこで朝まで抱かれるのが、最近のお馴染みの流れだ。二丁目でも「とうとうあの長谷部が燭台切に掘られたらしい」と噂になっているようで、長谷部の胃にはそろそろ穴が開きそうだ。どうしてこうなった。

 しかし、だ。

 長谷部は考えた。弱みを握られているから逆らえないのならば、こちらも何か燭台切の弱みを握り返せばいいのではないだろうか。
 やられっぱなしは性に合わない。長谷部はひそかに「燭台切の弱みを握る作戦」を練り始めることにしたのだった。

「長谷部くんの家に入るなんて初めてだな」
 鼻歌でも歌い出しそうなほど上機嫌な様子で、燭台切はきょろきょろと長谷部の部屋を見渡した。

「君から誘ってくれるなんて珍しいじゃないか。どういう風の吹き回し?」
「いい酒が手に入ってな。他の奴と飲もうにも、誰かさんの邪魔で飲めないから」

 そう言って冷蔵庫からとっておきの一本を取り出すと、燭台切は目を丸くした。

「森伊蔵じゃないか。高かったんじゃないの?」
「百貨店の抽選で運良く定価で購入できたんだ。こっちもあるぞ」
「飛露喜! 九平次!」

 燭台切はへえ、と感心したようにテーブルの上に置かれた瓶たちをしげしげと眺めた。その姿からは特に長谷部を疑っている気配は感じられない。
「おまえ、日本酒や焼酎は平気か?」
「ああ、好きだよ」
 バーではいつもすかしたカクテルばかり飲んでるから心配していたが、どうやら杞憂だったようだ。内心でほっと胸を撫で下ろし、長谷部はトースターでスルメをあぶり始める。

(ふふふ、見てろよ、燭台切。今夜で貴様の余裕ぶりも終わりだ……!)

 睨んでいた通り燭台切は酒に弱かった。バーでは度数の弱いカクテルばかり飲んでいたから予想はしていたが、珍しい酒と初めての長谷部の家ということで気分が高揚していたのだろう、長谷部が勧めるがままに日本酒と焼酎をチャンポンして、あっという間に酔い潰れてしまった。

「……ん……」

 念のためとんとんと肩を叩いたが、燭台切はテーブルに突っ伏したまま起きる気配がない。長谷部はにんまりと笑い、燭台切の体をずるずると引きずってベッドまで連れて行った。意識を失って重い体をどうにかベッドの上に引き上げて、パイプ製のフレームに両腕を手錠でそれぞれ縛りつける。プラスチック製のちゃちなおもちゃだが、人間一人拘束するには十分だろう。
 スラックスと下着を脱がせてから、足も同じように固定して、ようやく長谷部はふうと息を吐いた。既に一仕事終えた気分だが、目的はこの後である。
「ふっふっふ……」
 長谷部はスマホを取り出してカメラアプリを起動するとパシャパシャと半裸の燭台切を撮り始めた。服を脱がされ手足を縛られた間抜けな格好だというのに、まるでヌードモデルか何かのように決まって見えるのは、美形の為せる業だろうか。整った顔に、厚い胸板、バキバキに割れた腹筋、堂々たる逸物。

(ギリシャ彫刻か、こいつは)

 長谷部はチッと舌打ちした。ギリシャ彫刻なら逸物は粗末な筈だとツッコミを入れる者は残念ながらこの場にはいなかった。
「くっそ、むかつくな……」
 油性マジックで額に肉の字でも書いてやろうかと思ったが、さすがにかわいそうなので思いとどまる。その代わりに苛立ち紛れにきゅっと燭台切の乳首を摘まむと、眉根を寄せて「んん……」と身じろぎをした。もう起きたか、とびくりとしたが、目を覚ます様子はない。
 長谷部はベッドの下に置いていたボックスからいくつかの道具を取り出してシーツの上にばらばらと置き、自分もベッドの上に上がった。セミダブルのパイプベッドがギシリと軋む。考えてみれば自分の家に人を呼んでセックスをするのは初めてかもしれない。

 そう、長谷部は今度こそ燭台切を抱くつもりだった。

 酔わせて寝込みを襲うなんて卑怯な気もするが、長谷部だって似たようなことをされたんだからおあいこだろう。騙していいのは騙される覚悟のある奴だけだ。
 ベッドヘッドのところに動画モードにしたスマホをセットする。これからのことはぜひとも記録に残しておかなければならない。なんていったって、あの燭台切の処女喪失イベントなのだ。
 きめの細かい肌をそっと撫でながら、うっすらと開いた唇にキスを落とす。舌を挿し入れ絡ませるとほんのりと酒の味がする。いつも悔しいくらい自由自在に動いては長谷部を翻弄する舌は、今はぴくりとも動かない。だいぶ酔っているらしい。
 そのまま首筋を舐め、鎖骨のあたりにじゅうと吸いついてキスマークをつける。真っ白な肌に赤い跡を残していくのは大層愉快な気分だ。新雪に足跡をつけてまわった、幼い日の冬の朝のことを思い出す。

 調子に乗って胸や脇腹にも跡をつけ、黒々とした下生えの生い茂る股間に辿り着いた。酔っているためか意識がないためか、そこはくたりと垂れ下がっていたが、それでもかなりの存在感を出している。有り体に言えば、でかい。
 これが普段自分の中に入っているのかと思うとぞっとするな、と思いながら、長谷部はくてっとなっている燭台切の陰茎をしげしげと見下ろす。いかな凶悪なデカマラといえど、この状態では恐ろしくもなんともない。むしろある種のいとおしささえ沸いてきて、自分は根っからのゲイなのだと思い知る。
 右手で重量感のある陰嚢の感触をたぷたぷと楽しみながら、そっと雄芯に顔を近づける。根元から先端までつうっと舌でなぞり、はむ、と唇で咥える。指で輪を作って根元を擦りながら、そのままちゅくちゅくと先端を吸っていると、口と手の中でむくむくと巨根が育っていく。楽しい。
 今まで燭台切にはしたことがなかったが、フェラチオにはそれなりに自信があった。今まで数多の男をバキュームフェラでノックアウトさせて来たのだ。自分の気持ちのいいところを思い出しながら指先と唇と舌で奉仕をしていると、口の中に徐々に生臭い苦味が広がっていく。カウパーだ。

「……は、もうこんなにして。はしたない奴だなァ?」

 聞こえていないことをいいことに、長谷部はにやりと笑ってすっかり立ち上がっている陰茎をぴんと指で弾いた。滴の溢れる鈴口を人差し指でぴたぴたとタップすると、白い糸が引く。
 はぁ、と熱い溜め息が聞こえたので視線を動かすと、燭台切は眉を寄せたセクシーな寝顔で荒く胸を上下させていた。長い睫毛、すっと伸びた鼻梁、ぽってりとした形のいい唇。どこをとっても完璧な、うつくしい男だ。
 こいつを、今から自分が抱くのだ。
 そう思うと下腹と背中のあたりがぞくぞくしてたまらない。逸る気持ちを抑えてローションを手に広げる。たぷんとした陰嚢を持ち上げて、つるりとした会陰を通り抜け、さらにその奥へと手を伸ばす。誰も触れたことのない、未開の地。
 きゅっと窄まった穴の縁に指をかけたところで、頭上から声が振ってきた。
「……何してるのかな、長谷部くん?」
 ぎぎぎ、と顔を動かすと、完全に目を覚ましたらしい燭台切の不機嫌そうな視線とぶつかった。
 しかし、未だ主導権はこちらにある。なんと言ったって相手は拘束されているのだ。恐れることなど何もない。
「見てわかるだろ。今からおまえをオンナにしてやるんだ。おとなしく俺に掘られるんだな」
 そう言って再び穴に手を伸ばしたところで。

「ふうん」

 バキッ、と何かが壊れる音がした。

「…………え?」
 気づけばぐるんと長谷部の視界は反転していた。いっそ恐ろしいほどの美貌越しに見慣れた部屋の天井が視界に入って、ああ押し倒されたんだと遅ればせながら気づいた。腕力では敵わないことは今までの経験上明白だった。
「でも僕、やられっぱなしって性に合わないんだよねぇ」
 プラスチックの拘束を力任せに引きちぎった燭台切は、にっこりと笑って長谷部の股間を膝で押し上げた。
「はは、硬くなってる。君はもうオンナノコなんだよってあんなに教えてあげたのに、悪い子だな」
 そうして燭台切はシーツに散らばる大人のおもちゃの数々に気づいたようで、ゆっくりと目を細めた。
「これで僕のこと苛めようとしてたんだ?」
 頬にぴたぴたと押し当てられたのは玉が連なった形状のアナルバイブで、長谷部は顔を青ざめさせて首を横に振った。

「ち、ちが」
「違わないだろう? そうか、長谷部くんにはあんまりオモチャ使ったことなかったもんね。いい機会だから今日は色々使ってみようか」

 ねろりと赤い舌がアナルバイブをひと舐めして、ああ終わった、と長谷部は思った。

「っひ、あ、あぁあっ、あっあっあっ、」
 つぷんつぷんと一粒ずつ丁寧に長谷部の尻にアナルバイブが埋め込まれていく。
「は、ぁ、やら、やめ、」
「やめない。ほら、四つ目まで入ったじゃないか。いい子いい子。あと一つ、頑張ろうね」
「や、やら、無理、むりぃ……!」
 鳴き喘ぐ長谷部の両腕には予備の手錠がはめられており、長谷部が暴れるたびに頭上でガチャガチャギシギシと軋んだが、一向に外れる様子はない。燭台切はこれをどうやって壊したんだろうか。馬鹿力め。
 ずぷんっと最後の一粒を押し込まれて、長谷部はぜいはあと荒く息を吐いた。
「ふっ……あ、う、も、いいだろ……っ」
「冗談。ここからが楽しいところだろ」
 長谷部だってタチだったのだから知っている。これを使われたネコがどんな風に喘ぐのか、今まで散々攻める側として見てきたのだ。
 抵抗も虚しく燭台切の手がアナルバイブの持ち手に伸び、カチンとスイッチの入る音がした。
 瞬間。

「あああぁあぁあああっ!」

 ぐりんぐりんと中でいくつもの玉が震え回転し内壁を刺激する。ちょうど前立腺に当たる部分をぐりぐりと押されて声が抑えられない。慣れた体は乱暴で機械的な刺激からもたやすく快感を拾い上げてびりびりと長谷部の脳を刺激した。
「ひ、ぁ、や、やら、止め、あっあ!!」
 ちか、と視界が白く瞬き、「あ、出る」と思った瞬間、カチンと乾いた音と共に刺激がぴたりと止んだ。
「…………は、ぁ、なんで……」
 呆然と燭台切を見上げると、当の燭台切は涼しい顔で「だって、すぐにイっちゃったらつまらないだろう?」とこてんと首を傾げた。
「時間はまだまだあるんだし、もっと楽しもうよ。ほら、こっちもあるよ」
 燭台切が次に取り出したのはいわゆるオナホールだった。予定では長谷部が燭台切を掘っている間、オナホールで前を散々に苛める予定だったのだが、今この状況で誰のどこに使われるかなんてわかりきっている。

「非貫通型かぁ。これじゃ、僕のは全部入らなかったんじゃないかな。まあ、長谷部くんにはちょうどいいのかもね?」

 試してみようか。場にそぐわない明るい声でそう言うと、燭台切はぶちゅぶちゅとオナホールの中にローションを仕込み、すっかり立ち上がって鈴口からとぷとぷと先走りを零す長谷部の先端にちゅくちゅくと擦りつけた。

「長谷部くんもたまにはこっち使いたいよね。ごめんね? 気遣ってあげられなくて」
「や、やめ、いい、いいからっ」
「今日はアナルバイブで掘られながらオナホでイってみようか。きっと気持ちいいよ」

 長谷部の制止の声などまるで聞こえない様子で、燭台切はべろりと唇を舐めて長谷部のペニスにオナホールを一気に被せた。
「っっっっ!」
 冷たくぬるつく無機質なシリコンに陰茎全体を包まれると同時、カチンとアナルバイブのスイッチの音がした。
「やぁああああっっっ」
 ごしごしとやや乱暴にオナホールを上下される前の刺激と、ぐりぐりと前立腺を責める後ろの刺激。二つの刺激でばちばちと電流にも似た快感が腰から背中を通って脳髄までを痺れさせる。

「あ、や、やら、も、やぁ、ゆるしっ、ゆるしてぇ!」
「やだなぁ、長谷部くん。こういう時は『気持ちいい』って言うんだよ。イく時はちゃんとイくって言ってね」
「いい、きもちぃ、からっ! い、いくっいっちゃ、ひああああっっ」

 今度はオナホールの動きがぴたりと止まり、ウィンウィンとモーター音を立てるアナルバイブの持ち手をぐいと動かされる。
「あっや、ぁああああっ」
 前の刺激はなくなったのに、後ろの刺激だけで長谷部は達しそうになっていた。涙で歪んだ視界にうつくしい男が無慈悲な笑みを浮かべるのが映る。

「ほら、ちゃんと答えて? えっちな長谷部くんはどこでイくのかな?」
「け、けつっ……ふああああ!」
「違うだろう? 長谷部くんはもう雌なんだから、ここはおまんこだよ。ほら、言って?」
「っ、お、おまんこっ……! おまんこきもちぃ……! イく、も、出るっっ……!」

 今度はアナルバイブの動きが止まった。
「なんでぇ…………」
 ぐすぐすと鼻を鳴らす長谷部の涙をそっと拭いながら、燭台切は長谷部の目尻に唇を落とした。

「長谷部くんに選ばせてあげるね。前と後ろ、どっちでイきたい?」

 ふざけるな馬鹿死ね、と普段なら確実に蹴り飛ばしていた。けれど散々に苛められて快感でふやけた頭は、ろくに思考が働かない。

「好きな方を答えてね。ちゃあんと答えられたら、うんと気持ちよくしてあげる」
「…………お、れ、」
「うん」

 ああ、尻の奥がじんじんする。標準サイズのアナルバイブでは、長谷部がいつも責められている場所までは到底届かない。快楽でぐずぐずに蕩けた体はもっともっととその先の頂点を求めて燻っている。こんなんじゃ足りないと長谷部の体が叫んでいる。
 気づけば長谷部はゆるりと燭台切の腰に脚を絡めていた。
「も、おく、欲しっ……しょくだいきりの、おっきいの、くれ……」
 よくできました、と耳元で囁かれた気が、した。
「っっっっっ!」
 ずるるるっとアナルバイブを引き抜かれ、オナホールをぶちゅっと外される。不要になったオモチャはベッドの下に落とし、長谷部の片脚を抱え上げて燭台切が獰猛に笑う。
「約束したからね。……うんと気持ちよくしてあげる」
 その言葉と共に、ずんっと一気に奥まで貫かれ、長谷部は声にならない悲鳴を上げて白濁を飛ばしていた。

「ぁ――――ッッッ!」
「気絶しないで、ね!」

 そのままガツガツと腰を使われ、アナルバイブの比ではない快楽がひっきりなしに長谷部の脳に叩き込まれる。
「あ、ぁ、が、ッ、は、ああっ、ひ、あ、あああっ!」
 涙と涎と精液をまき散らしながら長谷部の体が跳ねる。視界がばちばちと明滅して、熱くて、どろどろに溶けていきそうで、でも肌の感覚だけが鋭敏だ。
 燭台切が長谷部の乳首に噛みついた。痛いはずなのに馬鹿になった長谷部の脳は勝手に快感に変換して、長谷部は体をくねらせる。
 あつい、きもちいい、いたい、あつい、きもちいい、きもちいい。
 触れられるどこもかしこも気持ちがよくて、長谷部は顔に触れた燭台切の手のひらに頬を寄せてひんひんと鳴いた。

「っは、えっちな体。こんなんんじゃ、もう、誰のことも抱けないね」

 唇を重ねられる。熱くぬめる舌に必死になって応える。上からも下からもひっきりなしに水音が響く。人間の体の大半は水分でできているのだということをふと思い出した。
 燭台切が両手でがしりと長谷部の腰を掴み、ラストスパートと言わんばかりにどちゅどちゅと抽挿を始めた。

「っぎ、あ、あ、あ! ふああっ、あ、あっッッ」
「ぁ、は、長谷部、くんっ……僕のだ、僕のだよ、君は、僕のものだ……っ!」

 がり、と音がするくらいきつく首筋を噛まれ、最奥を穿たれ、そこで長谷部の意識はブラックアウトした。

 目を覚ましたら、薄暗い部屋の中で蛍光塗料の塗られた時計の針が五時を指していた。
 体中が痛くて、声を出そうとしたら咳が出た。けほこほと空咳を繰り返していると、長谷部を抱きしめていた腕にぐんと力が入り抱き寄せられる。
「起きたの?」
 寝起きの、少し掠れたバリトンが鼓膜を震わせる。

「もう少し寝てなよ。起きたらご飯作ってあげるから」
「……シャワー、浴びたいんだ。離せ」
「じゃあ僕も一緒に入る」
「馬鹿か」

 そう言って軽く燭台切の体を押しのけてから、ふとあることを思い出し、長谷部は飛び起きた。
「どうしたの?」
 ベッドヘッドにセットしておいた、スマートフォン。確認すると容量不足で途中で動画は切れていたが、長谷部が燭台切にひっくり返されてアンアン喘がされているところまでばっちり映っていた。

「わあ、よく撮れてるね。あとで僕にも頂戴」
「……また脅迫材料が増えて嬉しそうだな」

 地を這うような声で長谷部が睨みつけると、燭台切はきょとんと金色の瞳を丸くした。

「脅迫? 誰が? 誰を?」
「お・ま・え・が! 俺をに! 決まってるだろうが!」
「あ、もしかして僕がハメ撮りを世間に流出させるとか思ってる?」
「当たり前だろうが」

 この強姦魔、と言いかけて自分も強姦未遂をやらかしていたことに思い当たり、ぐ、と言葉を詰まらせる。

「あれは純粋に僕の観賞用だよ。君のかわいい姿を知っているのは僕だけでいいもの。誰にも見せたりなんかするもんか」
「はあ?」
「あ、興味あるなら今度見ながらシてみる?」
「しない!!」

 なんだか馬鹿らしくなって長谷部は燭台切に背を向けてタオルケットを頭から被った。
「もうやだ、なんで俺なんかに付き纏うんだ、おまえ」
 ほとんど泣き声に近い声で弱音を吐くと、タオルケットごと背後から抱きしめられる。

「そりゃあもう、君は僕のお気に入りだから」

(――大変な奴に、目をつけられてしまった)

 強くうつくしく、目的の為には手段を選ばない非道な男。
 長谷部は首筋に残る噛み跡にそっと手をやった。じくじくと熱を持つそこは、おそらくはしばらく消えずに残ることだろう。どうしてくれる。

『君は、僕のものだ……っ!』

 最中に耳に吹き込まれた言葉を思い出し、かあと顔が熱くなったのは、きっと気の迷いだと思いながら。

 長谷部は訪れた睡魔にそっと身を任せるのだった。

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