バリタチ!

短編
     

29712文字(全3ページ合計)

3.(元)バリタチの矜持

 燭台切に抱かれるようになってからというもの、長谷部は二丁目に行きづらくなっていた。高確率で燭台切が邪魔に来るというのはもちろん、長谷部がネコもイけるクチだと知って、その辺の自称タチ共が長谷部に言い寄り始めたからである。

「俺ともヤってみないか」
「一回おまえを抱いてみたかったんだ」
「どっちもイケるなら今度3Pしようぜ」

 エトセトラ、エトセトラ。
 長谷部は自他共に認める面食いである。しかもいわゆる顔専なわけではなく、体格もそれなりに重視している。ガチムチとスリ筋の中間くらいなら文句はない。
 その点、燭台切光忠という男は百点満点中五百点を叩き出す、千年に一人の逸材だった。町を歩けば誰もが振り返るような甘いマスク、腰に響くバリトンボイス、芸術品のようにがっしりと鍛えられた長躯。正直言って初対面の時からめちゃくちゃ好みで、燭台切をゲイバーで見つけた時は神に感謝したほどだ。
 それに加えて燭台切はセックスも上手い。チンコの長さも太さも硬さも持久力もテクニックも、それはもう身をもって知っている。
 そんな燭台切に何度となく抱かれている長谷部にとって、今やそんじょそこらの男なぞは石ころ同然、へのへのもへじ顔の案山子が喋っているようにしか見えなくなってしまったのである。
 これは由々しき事態だ。
 ただでさえ長谷部の体は日々ネコとして作り替えられていて、前の刺激だけでは達することができず、最近は自慰の時にも後ろに手が伸びるようになってしまっているのだ。あのバリタチとして名を馳せた長谷部が、である。

 燭台切は今は何の気まぐれか長谷部の恋人を名乗っているが、いつ気が変わるかわからない。ある日燭台切が「恋人ごっこもここまでにしようか」なんて、新しいネコに鞍替えでもしたりしたら、長谷部はどうすればいいというのだ。
 いっそ性欲発散の為に燭台切が出入りしないような場末のクルージングスペースにでも行って、ケツ堀りブランコに乗って待ち子でもするかとも考えたが、それはそれでポジを引き当てそうで怖い。長谷部はそういうところは潔癖な性分だった。そもそも、燭台切光忠という贅沢品に慣らされて来た体が、今更他の有象無象の男達で満足できるとは思えない。
 詰んだ。

 深い深い溜め息をついてぐりぐりと眉間の皺を揉み解す。おそらく周りからは月末業務に精を出す一介のサラリーマンにしか見えないだろう。普段から真面目に仕事をしていて良かった。
 余計なことを考えていたらなんだかムラムラしてきた。

(何もかも燭台切のせいだ、くそ)

 内心で悪態をつき、半ばヤケになってスマートフォンを取り出してから、ポチポチとメッセージを打ち込んだ。
『今週末、暇か』
 程なくして返事が返ってくる。
『しばらく仕事が忙しくて、会えそうにないんだ。ごめんね』
 Sorryと謝罪するウサギのスタンプを添えられて、長谷部は唇をへの字に曲げた。

(っ……これじゃ、俺があいつに依存しているみたいじゃないか!)

 燭台切に会えないからなんだというのだ。性欲なら道具でも右手でも使って発散すればいい。
 そう思い直して長谷部は半ば乱暴に鞄の中へスマートフォンを放り込み、デスクの引き出しから眠気覚まし用のタブレットを取り出して口内にざらざらと流し込んだ。

(燭台切から離れる為のいい冷却期間じゃないか。そうだろう?)

 ごりごりと噛み砕いたタブレットを一気に飲み込むと、ミントの香りがやけに鼻にツンと来た。

 会社の飲み会終わりに、最近歌舞伎町近くにできたという夜パフェ専門店なるものにでも行こうという話になった。夜パフェとは元々北海道の札幌近辺の文化らしいが、最近は関東でも目にする機会が増えてきた。飲みのシメにちょうどいい、軽めのパフェなのだと聞いて、元々甘党の長谷部の期待は高まった。
 スマホで地図アプリを立ち上げていた後輩がそういえば、と口を開いた。
「そこの店、オーナーとシェフがゲイカップルらしいですよ」
 その言葉に女性陣がきゃあっと沸き立つ。

「え、そうなの!? それはちょっと見たいかも……」
「でも、そういうの興味本位で見に行くのってどうなのかな」
「いいんじゃないですか、SNSでもそう宣伝してるみたいですし」

 好奇と困惑と偏見の入り交じる空気に、長谷部は今すぐ回れ右して帰りたくなった。カムアウトしてなくて良かった、と心底思った。世間一般でのゲイの扱いなんてこんなものだ。昔に比べて表だって排斥こそされない世の中にはなってきているものの、未だ見世物小屋のホワイトタイガーにでも近い扱いを受ける。こいつらにとってゲイカップルなんてものは、動物園のパンダなんかと大した違いはないのだろう。

(というか、そのゲイカップル、知り合いだったらどうしよう)

 長谷部はその可能性に思い当たり、顔を青ざめさせた。気まずすぎる。

「すまん、俺やっぱり――」

 言いかけて、長谷部は人混みの中に見慣れた後ろ姿を見つけた。
 人混みから頭二つほど高い位置にある夜色の髪、堂々とした体躯、高そうなスーツ。間違いない。

「しょく、」

 呼びかけそうになって、やめる。その燭台切は、知らない男を腕に纏わりつかせていた。華奢な、いかにもウケですと言ったような風情のジャニ系の男だった。立ち尽くす長谷部をよそに、二人はすぐに雑踏の中に見えなくなっていく。
「長谷部さん?」
 呼びかけられてはっとする。

「……悪い、ちょっと腹の調子が悪くてな。先帰ってる」
「え? あ、はい。気をつけて」
「お疲れ様でーす」

 同僚達への挨拶もそこそこに、長谷部は駅へと早足で引き返していった。

(なんだあいつ、なんだあいつ、なんだあいつ!)

 ぎり、と唇を噛みしめる。わずかに鉄錆に似た味がして、唇を切ったのだと遅れて気づいた。

(俺はあいつじゃないと満足できない体になってるって言うのに、あいつは俺以外で満足できるだと!?)

 拳を握る。爪が肌に食い込んでぴりっと痛みが走るが、今はそんなことどうでもいい。

(バリタチだったこの俺を陥落させといて、他に目移りだと? ふざけるなよ……!)

 ごお、と胸の中で黒い炎が燃えるのを感じた。めらめらと瞳に炎を燃やしながら、長谷部は決意した。

「貴様がその気だって言うなら、俺にだって考えがあるぞ!燭台切光忠ァ!」

 数日後、長谷部は燭台切の住むマンションの入り口前に立っていた。仕事帰りらしき住人達にじろじろ見られつつ、かれこれ数時間が経過した。時刻は既に二十三時で、この時間まで帰宅していないとなると、もしかしたら今夜は外泊かもしれない。

(やはり事前に連絡を入れておくべきだったか……?)

 長谷部がスマートフォンを取り出してメッセージアプリを立ち上げようとしたところで声がかかった。
「あれ、長谷部くん?」
 ばっと顔を上げると、そこには目当ての男が立っていた。

「こんな時間にどうしたの?」
「中、入れろ」

 くい、と顎でマンションの中を示すと、燭台切は一瞬戸惑いを見せたものの、すぐにコンソールに暗証番号を打ち込んでエントランスのドアを開けた。
 そのまま燭台切の腕を掴んで、長谷部は大理石の貼られたエントランスをカツカツと通り抜けていく。初めて来た時にはボタンの多さに戸惑ったエレベーターも、今では迷うことなく目的の階を押せる。

「長谷部くん?」
「黙ってろ」

 ぴしゃりと言い放ったのと同時に、ポーンと音が鳴って目的の階に到着したことをエレベーターが知らせる。長谷部はやはり無言で燭台切の腕を引っ張り、家の前までつかつかと歩いて行く。
「開けろ」
 この様子では何を言っても無駄だと悟ったのだろう、燭台切は苦笑を浮かべてカードキーを壁の機械にかざしてドアを解錠する。

「ちょ、待って、長谷部くん、靴、靴脱ぐから!」

 ばたばたと靴を脱ぎ散らかして、普段ならきっちり揃えるところを無視して廊下を歩く。無論、燭台切の腕は掴んだままだ。
 見慣れた寝室のドアを開けると、既に見慣れたセミダブルのベッドが鎮座している。長谷部は唇を引き結び、汗と香水の匂いのするたくましい体をぐいと引き寄せ、ベッドへと突き飛ばした。
「わっ……!」
 背中からシーツの上に倒れ込んだ燭台切の上に、長谷部はすかさず馬乗りになった。
「長谷部くん…………?」
 問いかける声には応えず、ネクタイの結び目に指をかけて緩める。はあ、と燻る熱と共に息を吐くと、思っていたより甘い響きになった。それを振り切るように長谷部はにやりと獰猛に笑ってみせた。

「覚悟しろ、燭台切。――天国を見せてやる」
「え」

 燭台切の焦った声を飲み込むようにキスを仕掛ける。慣れた手つきで燭台切の高級そうなシャツのボタンをぷちぷちと外し、ベルトのバックルに手をかける。
「っ、ん、はせ、」
 うるさい、と言わんばかりに舌を絡めて軽く歯を立てる。びくりと軽く縮こまった舌を引きずり出してじゅうじゅうと吸うと、観念したのか少し大人しくなった。その隙にさっさと下半身から下着とスラックスを取り除く。長谷部だって今まで何人もの男を食ってきたのだ、このくらいの芸当はお手の物だ。
 唇を離すと透明な糸がつうっと互いを結んで、ぷちんと切れる。長谷部は手の甲で乱暴に口元を拭い、自分も着ていたものをとっとと脱いでいく。ワイシャツもインナーシャツも脱ぎ去って、カチャカチャとベルトを外し、もどかしげに下着とスラックスを同時に脱いでベッドの下に落とす。面倒だから靴下とソックスガーターはそのままだ。
 自分の上でストリップを繰り広げる長谷部を、燭台切は驚いたようにじっと見つめている。

「よく見てろよ」

 長谷部はシーツの上に手をついて少し体を下げると、燭台切の股間にそっと唇を近づけた。

「待っ、シャワー浴びてくるからっ……!」

 いつになく焦った様子の燭台切の様子が面白い。だが待たない。せっかくこちらが有利な状況を崩してたまるものか。
 まだ萎えている陰茎の根元をはむ、と唇で挟む。ちろちろと舌を動かしながら全体をゆっくり手で擦りあげると、むくむくと巨根が育っていく。浮き出た血管に沿うように舌でつうっと舐め上げ、張り出た先端をぱくりと咥えると、燭台切が息を飲むのがわかった。抱かれた後に無理矢理舐めさせられることはあったけれど、燭台切が起きている時に口で奉仕するのは、思えば初めてだった。

 雁首を唇でやわやわと刺激しながら、とんとんと舌で鈴口をノックする。右手で竿を、左手で玉を刺激するのも忘れない。力加減も弱いところも、同じ男なのだからある程度予測はつく。しかも長谷部は百戦錬磨のバリタチだった男だ。単純なテクニックだけなら燭台切にも負けない自信はある。さらに今まで燭台切と寝てきた経験だって、あるのだ。

 ぐり、と舌で先端を軽く潰すと、頭上で「っ……!」と息を詰めた音がした。そのタイミングを見計らって、一気に根元まで口の中に迎え入れると、口の中でびくんと巨大なペニスが跳ねた。
「あっ、ん、はせ、くんっ……」
 掠れた声が長谷部の名前を呼ぶ。それに応えずにじゅぽじゅぽと音を立てて喉の奥まで使ったイラマチオを施す。嘔吐きそうになるのをやり過ごしながら、喉の奥で先端を締めつけると、燭台切は長谷部の後頭部にそっと手を添えた。
「あっ、イイ……! 長谷部くん、そこっ……」
 そこで長谷部はぴたりと動きを止めた。
「まだイくなよ、お楽しみはこれからだ」
 口調だけは自信たっぷりに、けれど本当は自信なんて全然ない。今だって恥ずかしさで死にそうだ。けれど、それでもやらねばならない時が男にはあるのだ。
「はせべくん?」
 長谷部は無言で尻に手を伸ばし、そこにあるシリコン製のリングを引っ張った。
「っく、あ」
 ぶちゅり、と耳を塞ぎたくなるような音を立てて尻から取り出したのは、黒いアナルプラグだった。事前にローションをたっぷり入れておいた尻穴がひくひくと震えるのがわかる。ローションまみれのアナルプラグをシーツの上に放り投げると、燭台切が困惑した瞳で長谷部を見上げた。

「……え?」
「俺以外抱けない体にしてやる。覚悟しろ、」

 よ、と言い切る前にぐりんと視界が反転した。あ、これはまた駄目なパターン。長谷部が慌てて体勢を整える前に、シーツの上に縫い止められてぎゅうと抱きしめられた。
「………………なにそれ」
 低く掠れた声が鼓膜を震わせ、ねっとりと長谷部の耳朶を舐める。

「なんでそんなかわいいこと、言うの」
「はあ!? っ……お、まえが! 浮気なんてするからだろうがっ!」
「浮気? 何それ」
「っ……シラを切るなよ! この間見たんだ!! おまえが新宿でジャニ系の男を連れて歩いてるの!」
「あー……」

 燭台切は長谷部から体を離し、右手で顔を覆った。

「なるほど。読めてきた」
「何がだ! ふざけるなよ、人をあれだけ散々に抱き散らかしておいて、飽きたら次か! 俺も舐められたものだな!」

 言っているうちに涙が出てくる。なんでこんな男に捕まってしまったんだろう。鼻の奥がツンとする。ぐすっと鼻を鳴らすと、長い指がそっと長谷部の頬に触れた。

「泣かないで」
「泣いてない」
「…………長谷部くん、僕のこと、好きなの?」

 ぎゅうっと唇を引き結んで顔を上げる。いつになく真剣な表情で燭台切が長谷部を見つめていた。

(くそ、やっぱり、顔がいい)

 強くてうつくしくて、そして散々長谷部を振り回して弄んできたずるい男。それでも、こんなみっともない真似をしてでも手放したくないと意地でも思うんだから、もう駄目だ。

「……非常に、非っっっっっっっっっ常に癪だが、認めてやる。俺はおまえのことが、その、」
「僕は好きだよ」

 瞬間、頭の中から怒りも悲しみも全部吹き飛んだ。ぽかんと口を開ける長谷部を抱きしめて、燭台切はもう一度言い聞かせるように長谷部にゆっくりと告げる。

「君のことが、好きだ」
「なっ、え、は? だって、おまえ今までそんなこと一度も」
「言ったよ。君はトンでたから忘れちゃったのかもしれないけど、初めに抱いた時に「好きだよ。付き合って」って」
「わかるかぁ!!!」

 怒りに任せて厚い胸板を突き飛ばすと、燭台切がベッドから床の上にどすんと落ちた。

「じゃあ何か! おまえは俺のことが好きなくせに他の男と寝たのか!」
「いたた……ちょっと訂正させて欲しいんだけど、あの日の彼のことだったら誤解だよ。たしかに彼とは一度寝たことがあるけど、君と付き合う前だし、あの日はたまたま再会して絡まれただけ。バーでちょっとお酒飲んだ後にお店の前できっちり別れたから、疑うならバーのマスターに聞いてみるといい」
「……だって、おまえ、それじゃ、」

 本当に、俺のこと、好きみたいじゃないか。小さなつぶやきがぽつりと部屋に響く。
「本当に君のことが好きなんだよ」
 よいしょ、とベッドに再び乗り上げて、燭台切は長谷部の体をそっと押し倒した。

「好き。好きだよ。君が疑うなら何万回言ったって構わない。ねえ、わかってよ。僕には君だけなんだ」

 顔が熱い。思わず顔を横に向けて視線を逸らす。一人で勝手に嫉妬して憤慨して家まで押しかけてこんなことをするなんて、馬鹿みたいだ。
 長谷部が歯を食いしばっていると、するりと後ろに手を伸ばされ、くちゅくちゅと入り口を弄られる。
「っ、んん」
 既に蕩けている尻穴への刺激に、甘い声を抑えられない。
「ふふ、とろとろ。こんなえっちなもの着けて、僕のこと待ってたんだ?」
 燭台切はそう言いながら、反対側の手でシーツの上に転がっていたアナルプラグをぐりぐりと長谷部の乳首に押し当てた。
「乳首ぷっくりさせて、おちんちん勃たせて、お尻の穴とろとろにして。そんなに僕に抱かれたかったんだ?」 
 えっち、と耳元で囁かれて、思わず声が出た。

「……え、が」
「うん?」
「おまえが! そうしたんだろうが!」

 怒り任せに目の前の高い鼻をぎゅむっと摘まんだが、燭台切はそれでも嬉しそうにふふふと笑っている。
「そうだね。僕が君を変えたんだ。僕だけの長谷部くんに」
 目を細めて笑うその様子が本当に幸せそうだったので、なんだか何もかも馬鹿らしくなって長谷部はシーツの上にごろんと力なく転がった。顔が熱い。

「…………浮気は絶対に許さないからな」
「君以外の人間なんて石ころにしか見えないから安心していいよ」
「…………セックスしたあとの食事はおまえが作れよ」
「オーケー。和食でも洋食でも中華でも、なんでもリクエストしてくれ」
「…………一度でも俺を満足させられなかったら俺が上になるからな」
「了解。それでおしまい?」
「…………」

 蜜色の瞳が長谷部を、長谷部だけをじっと見つめている。どうして今まで気づかなかったんだろうか。自分を見つめるその瞳が、とろけそうな程甘い色をしていることに。そして、そのことに高揚感と優越感と、小さなときめきを覚えるのだから、もう、認めるしかない。

「…………俺をこんな体にしたんだ。一生かけて責任取れよ」

 がばり、とたくましい腕に抱きしめられる。

「うんっ……! 一生、ううん、死んでも離すもんか。君は僕のだし、僕は君のだよ」
「……馬ァ鹿」

 鼻筋を首元に擦りつけられて少しくすぐったい。ぐしゃぐしゃと夜色の髪をかき混ぜると、ますます腕の力は強くなる。自分の気持ちひとつ自覚し始めただけで、サイコな男が、まるで大型犬か何かのように思えるのだから、いやはや、恋というのは恐ろしい。
 背中に腕を回して抱きしめ返すと、ごり、と腰に硬いものが押しつけられた。

「ね、天国見せてくれるんだろう?」

 どこか試すような問いに、長谷部は挑戦的な笑みで返してみせた。

「――――当然だ。ケツで抱いてやるから、覚悟しろよ」

「っあ! あ、や、あ、ぁ、んん――ッ!」
「は、ぁ……ん、いいよ、長谷部くんっ……」

 騎乗位で一回、対面座位で二回イッた。もう既にくたくただが、それでも燭台切はあくまでも今日は最後まで長谷部に自分から腰を振らせるつもりらしく、長谷部の動きが止まるとゆらゆらと緩く腰を動かして「ほら、僕はまだだよ。頑張って」と促してくる。
 睨みつけて、ついでにぎゅうと尻を意識して締めつけると、余裕ぶっていた燭台切が息を詰める。

「っ……」
「ん、早くイけ、遅漏め」
「それは長谷部くんの頑張り次第かなぁ」

 ぺちぺちと汗で濡れた太股を叩かれて、長谷部は止めていた動きを再開した。
 上下だけでなく、ひねりや締めつけも加えて。過去に抱いてきたウケにされて気持ちよかったテクを思い出しながら腰を動かす。中を締めつけると燭台切が気持ちよさそうに息を吐いて愉快だが、その分自分のイイトコロにもごりごりと屹立が当たってたまらない。

「ア、あ、っひ、ぁ、ん、や、あ、」
「っ、ね、長谷部くん、」

 燭台切が律動の合間に軽く口づけてくる。

「『光忠、好き』って言って」
「は?」
「言ってよ。そしたらうんと気持ちよくしてあげる」

 そう言って燭台切は長谷部の乳首をそっと舌で押し潰しながら腰を揺らした。
「あんんっ!」
「ね、はへへふん」
 子犬が甘えるように乳首を吸われて、名前を呼ばれて。長谷部はとうとう観念した。

「あっ、ぅ、ん、みつ、ただぁ……!」
「うん」
「す、きだっ……!」

 きゅん、と思わず尻穴を締めつけながらそう言うと、がしりと腰を捕まれた。

「っひ!」
「……ありがとう。僕も好きだよ」

 その言葉と同時に、ずんっと奥を突かれた。なるべくイかない為に突かないようにしていた最奥をずぷんとこじ開けられて、長谷部は声もなく四回目の薄い精液をまき散らした。

「――――ッッッ」
「は、ここ、苛めると中締まってきもちぃ、ね」

 イッたばかりの先端を親指でぐりぐりと刺激されて焦った。

「あ、やめ、」
「一緒に気持ちよくなろうね」

 長谷部の制止などどこ吹く風で、燭台切は下から腰を使って長谷部の最奥をがつがつと穿ち始めた。勿論、長谷部のペニスを刺激する手も休めずに、だ。長谷部の視界がまるで雷にでも打たれているかのようにばちばちと点滅する。

「あっ、や、やら! んっ、だめ、出るっ、ひっ! あ、ああああっっ、あ――――!」
「っく、ん……!」

 長谷部がぷしゃっと透明な体液をまき散らすのとほぼ同じくして、燭台切が低い唸り声を上げてひときわ強く腰を叩きつけた。長谷部の腹の奥にじわりとあたたかいものが広がる感触があった。
 は、は、と互いに短く荒い息を吐き出しながら、どちらからともなく唇を重ねる。

「ん、……もう一回、いいかな」

 殊勝な口ぶりのくせに、その瞳はギラギラと獣のように光っている。ああ、好きだ。そう思う。このうつくしい男が、自分に欲情して執着してどろどろの独占欲を見せつける、その様がたまらなく好きだ。
 長谷部は燭台切の眼帯の上からそっと唇を押し当て、了承の返事の代わりに脚を燭台切の腰にゆっくりと回した。

 惚れたが負け、という言葉がある。この場合、どちらが勝ちでどちらが負けなのか。わかる日が来るのはもう少し先、いや、もしかしたらずっとわからないかもしれない。それでもいいと長谷部は思った。悪くない日々には違いないだろう。

 長谷部と光忠の攻防は、まだまだ始まったばかりである。

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