恥ずかしがり屋もたまになら

短編
     

6053文字

「長谷部くんって、恥じらいが足りないよね」

 突然恋仲の刀からそんなことを言われて長谷部はことりと首を傾げた。
 いつものように二人で晩酌をして、いつものように熱烈な交合をしようとして布団に倒れこんだところだった。
「何か問題があるのか?」
 黒いスラックスの上からやわやわと股間を揉みしだき、ふうっと息を耳に吹きかけると、「そこだよ」と光忠は溜め息をついた。

「積極的な君も勿論とってもかわいいけど、たまには君が恥じらっているところも見てみたいんだ。男の浪漫ってやつ?」
「そんなことを言われたって、いきなり恥じらえと言われても困るな」

 張り詰めた生地の下にある逸物の形を指でなぞりながら、「で、やるのか? やらないのか?」と問いかけると、「やる」と短く返ってきた。
「じゃあいいじゃないか」
「うーん……ねえ、ちょっと提案なんだけどさ」
 光忠は内緒話をするように声をひそめ、長谷部の耳元にそっと囁いた。


「長谷部くんは催眠術って知ってる?」

◆ ◆ ◆ ◆

「ゆっくり息を吸って……吐いて……そう、上手。僕と一緒に長谷部くんの内面の階段を一歩ずつ降りていくよ。いーち、にい、さん……ほら、段々僕の声しか聞こえなくなってくる……しい、ごお、ろく……長谷部くんの心の一番深いところまで降りていく……しち、はち、きゅう……僕の声は君の内面の声だ。この声にはけっして逆らえない……じゅう」

 「催眠術入門」と書かれた本を片手に、光忠が長谷部にかけた催眠は三つだった。

「君は今からとっても恥ずかしがり屋になります」
「君は恥ずかしいことが大好きで、気持ちよくなります」
「君は僕の命令には逆らえなくなります」

 何を馬鹿な、と最初は心の中で笑っていた長谷部だったが、光忠が「長谷部くん、命令。両手を上に上げて」と言った瞬間、意識していなかったのに両手がぴょこんと上に上がった時はぎょっとした。

「み、光忠!?」
「ああ、良かった。効いてるみたいだね。じゃあ、僕に投げキッスして?」

 ちゅぱ、と体が勝手に投げキッスをする。恥ずかしさでかあっと顔が赤くなる。

「ねえ、今恥ずかしい?」
「……当たり前だろ」
「さっきまで僕の股間を揉みしだいてたのに?」
「それは……」

 たしかにその通りで、長谷部も自分自身の違和感に眉をひそめた。おかしい。普段だったらノリノリで投げキッスをしてウィンクまで決めてみせる自信があるのに、今はなんだかとても恥ずかしくて、いたたまれなくて、もじもじしてしまう。穴があったら、とはこういう心地を言うのだろうか。頭から布団を被ってしまいたい。

 これが催眠術の力だというなら、この後自分は一体どうなってしまうのだろう――。

 困惑する長谷部の様子に満足したように頷き、光忠はにっこりと口を開いた。
「長谷部くん、僕の前で服を脱いでいって。なるべく色っぽく」
 意志に反して長谷部の体はスルリとカソックから袖を抜き、紫色の布地が畳に落ちる。

「光忠、やだ、やめてくれ……っ!」

 それでも長谷部の体は止まらない見せつけるように背中を向け、カマーバンドのボタンを一つ一つ外していく。
 嫌々と首を振るものの、パサリと音がしてカマーバンドも床に落ちた。シャツの裾をズボンから抜き、再び前を向いて焦らすようにゆっくりと下からシャツのボタンを外す。
「ああ、可愛いお臍だね」
「ひっ……!」

 恥ずかしい。恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。消え入りたい気持ちで頭が一杯になる。

 肌なんて何度も見られている筈なのに、催眠の効果か、蜜色の瞳でじっくりと舐め回すように肌を見られる事がこんなにも恥ずかしい。とうとう一番上のボタンまで開けると、長谷部の手がシャツの合わせにかかった。
「……っうぅ、」
 長谷部の手がぶるぶると抵抗するように震える。
「どうしたの? 早く脱いでごらん」
「っ、みつただぁ、」
 助けを求めるように光忠を見れば、金の隻眼は楽しそうに細められていた。
「長谷部くん、命令だよ。今すぐシャツを脱ぐんだ」
「……っ!」

 バッと長谷部のシャツが脱げる。勢いでボタンがいくつか畳の上にころころと転がっていった。普段ならそのボタンを拾いに行って文句を言うくらいはできた筈なのに、今の長谷部は光忠の手のひらの上だ。余裕なんてひとかけらも残ってはいない。象牙色の肌は羞恥で桃色に染まっており、淡い色の胸の飾りはぴんと立ち上がっていた。

「あれ、長谷部くん。どうして触ってもないのに乳首立ってるのかな? 見られて感じちゃった?」
「……それはっ……!」
「命令。僕の質問には正直に答えて」
「っ!! ……見られて、恥ずかしくて、でも気持ちよくて…」

 もうやだ。むり。顔を真っ赤にして涙目になる長谷部をけれど光忠が許す筈もなかった。
「長谷部くんのかわいい乳首がよく見えるねぇ」
「やっ……見るなぁ……!」
 思わず隠そうと長谷部が動くよりも先に、光忠が口を開く。
「命令。隠しちゃ駄目。君の恥ずかしい所、もっと僕によく見せて?」
「……ぅうう」

 胸にやろうとしていた長谷部の手がだらんと下に落ち、胸を張るような姿勢を勝手に取ってしまう。

「桃色で綺麗な乳首だね。長谷部くんはとってもえっちで、乳首だけでイけちゃう変態さんだもんね? 僕がちゅうちゅう吸って、もう片方をぐりぐりって指で押してあげると、すぐに精液ぴゅっぴゅって出しちゃうんだから」
「ぅぅ、ばか、言うなぁっ……」

「どうして? すごく可愛いよ。ふふ、今すぐ君のその乳首苛めてあげたいなぁ。君はどうされたい?」

 噛み締めようとした唇は、先程の命令のせいで勝手に言葉を紡いでいく。

「…………み」
「うん?」
「光忠に、ちゅうちゅう吸われたいっ……舐められて、歯を立てられて、指と爪でぐりぐりされたい……っ!」

 今だって恥ずかしくて恥ずかしくてたまらないのに、口に出してしまったせいで次第に乳首が疼く。それを見られているのかと思うとさらに恥ずかしい。悪循環だ。

「指でシュッシュッて扱いてあげるのは? 乳輪をひたすら舐めて、最後に思い切り歯を立てて上げるのは嫌?」
「あ、それ、それも、されたいっ……」
「素直でえっちないい子だね、長谷部くん。ほら、乳首もさっきより立ってきてる」
「やだ、見ないで、見るな、みつただぁ……!」

 首を振った拍子に涙が頬を伝う。それでも光忠は許してくれる素振りは見せなかった。

「ほら、長谷部くん。まだ下が残ってるよ」
「光忠、も、むり、」
 仕方ないなぁ、と光忠が溜息を吐く。許してくれるのかと長谷部は期待に満ちた瞳で恋人を見つめたが、返ってきたのは無情な言葉だった。

「命令。下も脱いで」

「なっ…!」

 動揺する長谷部の意志とは裏腹に、長谷部の手はすぐに命令に従った。既にゆるく立ち上がっている股間をなまめかしく撫で回し、つうっと布地越しに裏筋をなぞるように動かすと、ジジ、とゆっくりとジッパーを摘んで下に降ろしていく。
「や、いやだ、」
 ジジ、とジッパーを下げ終わると、両手が慣れた所作でスラックスの縁にかかる。
「や、光忠、やめてくれ…!」
 上半身だけでこのありさまなのに、下半身まで見られたらどうなってしまうのか。考えたくない。それでも手はするするとスラックスを下ろしていく。
 片足ずつ脚を抜き去ると、長谷部は息も絶え絶えだった。手が次に下着にかかった所で、光忠から声がかけられる。

「ああ、待って待って。命令、気をつけの姿勢になって」
「っ……!!」

 直立不動になった長谷部を、光忠は舐め回すようにじっくりと見つめた。その視線が股間に集中したのを感じで、長谷部は消えてしまいたくなった。

「長谷部くん、どうしてそこ、そんなに濡れてるの?」

 長谷部の下着は光忠が選んだグレーのボクサーで、そこはもうすっかり立ち上がって前に大きな染みを作っていた。
「だ、だって催眠がっ…!」
 光忠は薄く笑みを浮かべてゆっくりと頭を横に振った。

「最初に言っただろう。君が本当に嫌がる催眠をかけることはできない。つまり、」
 形のいい唇が耳元にゆっくりと近づいて言葉を吹き込む。
「…………長谷部くんは元々恥ずかしいのが大好きで気持ちよくなりたいって思ってる変態さんなんだよ」

 そう言われて顔に血が集まる。
「そんなことっ……! だって、さっき、お前が変な事言うから、」
「恥ずかしいの、好きだよね? ちゃんと答えて、長谷部くん。命令だよ」
「…………き」
 勝手に動こうとする唇に抗おうと試みるものの、光忠はそれを許さない。
「命令。もっと大きな声で」
「っく、ん、……見られるの、好き……っ! 恥ずかしいのも、全部、気持ちいい…!!」

 途中から半ばヤケクソで叫ぶと、光忠は満足げに頷いた。
「よくできました」
 ほっと息をつく長谷部を見て、恐ろしいほど整った華やかな美貌に苦笑が浮かぶ。
「長谷部くん、まだだよ」
「……?」
「下着脱いで。そして僕に君のおしりの穴をよく見せて?」
「っ、ん、」
 顔はぼろぼろと羞恥で涙を零しながらも、体は下着に手をかけ下ろしていく。ぶるんと立ち上がったモノが下着の縁から顔を出し、次第にその全貌を明らかにしていく。ふるふると揺れながら先端から涙を零すそこに、金色の視線がじっと注がれているのが耐え難い。

 ようやく全てを下ろし終わって足を抜き、ソックスガーターに手をかけた所で再び制止の声がかけられる。
「待って。そこはそのままで」
「……スキモノめ」
「見られて感じちゃってる長谷部くんには言われたくないなぁ」
「っ……!」

 何も否定できずに俯いていると、「ほら次は?」と催促をされる。靴下だけをつけた長谷部がのろのろと四つん這いになるのを、蜜色の視線がねっとりと舐めるように見ているのがわかる。恥ずかしさと快感に尻の奥がきゅんと疼くのを感じた。
 頭と肩を布団につけて支え、腰を高く上げる。震える長谷部の指がやわらかな臀部にゆっくりと沈みこみ、左右にゆるゆると開いていく。隠されていた秘部がすうすうと空気に触れる感触にぶるりと震えると、すっかり立ち上げって蜜を零している屹立もつられて揺れた。
「長谷部くんのえっちなところが丸見えだね」
「うっ……言う、なぁ……!」
 ふう、と尻に息を吹きかけられて「あっ」と思わず悲鳴じみた声が出た。

「ふふ。恥ずかしがってる長谷部くん、かーわいい」
「ばかぁ……」
 思わず涙声で文句を言う。恥ずかしくて逃げ出したくてたまらないのに、気持ちよくて、もっと気持ちよくなりたくて。それなのに光忠は焦らすように長谷部の尻の輪郭を指でなぞるばかりだった。

「ああ、最初はあんなに慎ましやかだった長谷部くんのアナル、すっかり縦割れのメス穴おまんこちゃんになっちゃったねぇ。はやくおちんちん挿れてってくぱくぱしてる」

 つう、と会陰に指を滑らせられて、玉の裏側をくすぐるように撫でられる。
 いつもの長谷部だったら、そんないやらしい言葉をかけられたら喜んで淫語で返すのに、今は羞恥と快楽で頭の中がぐらぐらと煮えたぎって何も考えられない。
 恥ずかしい。気持ちいい。やだ、逃げたい、やだ、もっと。
 ぐす、と長谷部が鼻を鳴らす。すんすんと鼻をすすりながら、恋人の名前を呼ぶ。
「みつただぁ……」
「……大丈夫? もうやめよっか?」
 気遣わしげな手のひらが背中を撫でさする。その仕草にいやらしい気持ちは込められてないだろうに、高まった体は貪欲に快感を得ようとする。
「お、おれ、や、なのにっ……やなのに、きもちよくて、でもはずかしくてっ……」
「……うん」

 ぎゅっとシーツを握る手に、手袋をつけた手がゆっくりと重なった。その温度がいとおしいのは、今も前も変わらない。その感触を頼りに、長谷部は心に浮かんだことをどうにか口にする。
「やめないで、もっと、して」
 ごくり、と唾を飲む音がした。
「長谷部くん、舐めてあげるから、もう少しそのままで。できるね?」


「あっ、やっ……く、んっ」
 ぐずぐずに蕩かされた穴に光忠が押し入ってくる。腰から背筋を駆け上る電流のような快楽をやり過ごそうと唇を噛みしめていると、うなじをぺろりと舐められた。
「長谷部くん、声出さないの?」
「っ、や、はずかしっ……」
「そんなのも恥ずかしいんだ」
 くすくすと笑いながら光忠が駄目押しのようにずんっと腰を沈めてきたので、長谷部は枕に噛みついて声を押し殺した。

「っっっっっ……!!」
「命令だよ。声、出して。いつもみたいにやらしいこと、いっぱい言って」

 耳から吹き込まれた言葉の意味を理解して唇が勝手に開くのを、長谷部は止められなかった。

「あ、みちゅたらの、おっきいの、きもちぃ……! もっと、ごちゅごちゅって、してぇ……!」
「っ、ああもう、長谷部くんかわいい……!」

 ずるりと入り口近くまで抜かれて、再び奥深くへと突き入れる。何度も何度も。そんな単純な動きにどうしようもなく翻弄される。互いの粘膜が擦れるのが、肌と肌がぶつかるのが、こんなにも気持ちいい。いつのまにか恥ずかしさなんてどこかに吹っ飛んでしまっていた。あん、らめ、いく。みちゅたらのおちんちん、きもちいぃ。そんなことを口走りながら後ろを振り向くとやや乱暴に唇を塞がれる。ぐちゅぐちゅと舌を絡ませ合うと、頭の奥がじんと痺れるようだった。

「ん、ぁ、みつただ……♡しゅき♡しゅきぃ♡」
「ちゅ、ん、はせべく、僕もすき……♡」
 すき、だいすき、あいしてる。そんなことを息も絶え絶えに伝えると光忠の動きはますます速くなっていった。ばちばちと視界が白く明滅する。
「や、ぁ、みちゅ、らめ、も、いく、いくぅ……♡」
「ん、僕も、イきそ……っ」

 獣のような荒い息を吐きながらうなじにがぶりと噛みつかれる。「ぁう」と声をあげて隘路をきゅんきゅんと締めつけると、腹の奥に熱い飛沫が散ったのを感じた。


「それにしても、今夜の長谷部くんはかわいかったなぁ」
 上機嫌で甲斐甲斐しく長谷部の世話をしている光忠に反して、長谷部は不機嫌そうに唇を曲げていた。催眠術はとっくに解けていて、肌を拭き清めて寝間着を着せられてとされるがままになっていても、もう恥ずかしくはない。けれど。

「どうしたの? 君、気持ちいいこと好きだろう」
「好きだが」
「じゃあどうしたっていうのさ」
「………………かわいくない俺は、だめか」

 次の瞬間、長谷部は光忠の腕の中にいた。ぎゅうぎゅうと抱きしめられて息もできない。思わず二の腕をタップすると少しだけ力を緩められる。

「僕のかわいい長谷部くんは君だけだよ」
「……うん」
「さっきの長谷部くんもかわいかったけど。いつものえっちで素直な長谷部くんが、一番すき」

 俺も、と囁くと、弾けるような笑顔が返ってくる。ちゅ、と額に唇が降りてきて、流れるように頬ずりをされる。
「急に催眠術なんて言い出してごめんね。もう二度としないって誓うよ」
「いや、それは」
 続く長谷部の言葉に、光忠は左目を満月のように丸くしてから、ふは、と噴き出した。


「…………たまになら、いいんじゃないか?」

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!
     
タイトルとURLをコピーしました