雪かきの合間に(2025バレンタインネタ)

短編
     

7246文字

 如月も半ば近くになってくると、去りゆく冬の最後の抵抗なのか、寒さがよりいっそう厳しくなってくる。
 一時間にも及ぶ本丸総出での雪かきを終えた燭台切は、白い息を吐きながら自室への長廊下をひたひたと歩いていた。
 天候管理システムの不具合だとかで、ここ数日この本丸では滅多にない大雪が続いていた。少なくとも一時間に一回は玄関から大門へと繋がる道を雪かきして確保しておかなければ、ろくに出陣や買い物にも行けないありさまだ。何しろ、三十分もあればゆうに十センチ以上の雪が積もるのである。

 燭台切も東北は仙台に縁深い刀ではあるものの、鍛刀されてこのかた雪かきなどしたことがなかったため、今までふわふわとして冷たくて綺麗なものに見えていた雪が、たったの五センチも積もっただけであれほど凶悪な代物になるのだとは思いもよらなかった。百聞は一見に如かず。なるほど、陸奥の地に住まう人々が冬に戦を控えていたのも道理だ。あれには勝てない。
 不意に、ずず、どどど、と頭上で低い音を伴った振動が起こったかと思えば、屋根に積もっていた雪がどさどさと軒先に落ちてくるのが廊下の窓から見えた。ああ、あそこは先程片付けたばかりなのに。

 今さっき風呂に入って雪かきの疲れを癒やしてきた帰りだというのに、抜けたはずの疲労感が一気に舞い戻ってきた。
 あとで審神者に報告して対処しなければなぁと肩を落としつつ自室の前へ辿り着くと、扉の前に何か見慣れないものが置かれているのに気がついた。
 屈んで拾ってみれば、それはてのひらに乗るほどの小さな黒い箱で、細い金のリボンが斜めにかけられている。
 なんだろう、と燭台切は首を傾げながら自室へと入り、座布団に腰を下ろした。そうして、灯りの下で謎の箱をじっくり観察してみる。
 一見、ただの黒い紙と金のリボンで装飾されただけの箱に見える。だが、包装紙は光の加減で梅の模様の印刷が浮き上がるようになっており、細い金のリボンには極小の模様が織り込まれていた。
 シンプルだけれど、けして安物や手を抜いて選んだような代物ではないだろう。それどころか、細やかな部分まで趣向の凝らされた品といい、その組み合わせといい、実に燭台切好みの洒落た包装だ。

 さて、一体この箱の中身は何で、贈り主は誰なのだろうか。逸る気持ちを宥めすかしつつ、するりとリボンを解き、万が一にも破らないよう慎重に箱から包装紙を剥いていく。
 中から出てきたのは、白い紙製の箱と、たった一言だけ印字された宛名も差出人の名前もないメッセージカードだった。

『いつも貴方を想っています』

 紙箱の中に礼儀正しく収まっていた一粒のチョコレートを目の当たりにして、燭台切はようやく今日がバレンタインデーだったことを思い出したのだった。

◆ ◆ ◆

「――ということがあったんだけど、長谷部くんはどう思う?」

 燭台切からそう尋ねられた相手はというと、藤色の瞳に怪訝な色をたっぷりと含ませ「知らん」と投げやりに答えてから、白い筋まで丁寧に取り除いた蜜柑の房をぽいと口の中へと放り込んだ。
 大雪の発生から数日経ったが、天候管理システムはいまだ復調する様子を見せない。審神者主導の元、雪かきは出陣や遠征部隊に出ていない居残り組でいくつかの班を組み、数時間ごとの交代で回す体制が組まれるようになり、それでようやく本丸の運営が円滑に回り始めたところだ。
 こうして実際にやってみてわかったが、雪かきとは途方も無い重労働なのだろう。なにせ冬の間は終わりが見えない。いつ終わるとも知れない作業を延々と続けなければならないのは、いかな百戦錬磨の刀剣男士であってもかなりの苦痛だ。これなら出陣や遠征、内番のほうが遥かに楽に思える。
 雪かきを終えたばかりの庭へ見る見るうちに積もる雪を見て、昏い目をした小夜左文字が「賽の河原の石積みってこんな感じなのかな…」と呟いたのもむべなるかな。

 そうして今、燭台切と長谷部の班は貴重な休憩時間中だった。休憩中の多くのものは自室で休んでいたが、現在二人は広間に急遽設置されたこたつに入りながら、向かい合せでみかんを剥きつつ湯気の立つ緑茶をちびちびと飲んでいる。
「それで、そんな無駄話を聞かせるためだけに俺は呼び出されたのか?」
 腕組みをしてこちらを睨めつける長谷部を、燭台切はまあまあと宥めた。
 あと三十分もすればまた雪かきに駆り出されるのだから、呼び出しまで自室で休憩していたいとごねる長谷部をここまで連れてきたのは燭台切だった。
「このチョコの贈り主が誰か、君にも一緒に考えてほしいんだ」
 そう言って燭台切が取り出したのは白い紙箱と、丁寧に畳んだ包装紙とリボン。それから同封されたメッセージカード。あの日部屋の前に置かれていた品々だ。
 それらをこたつの天板に並べ置き、箱を開けて中のチョコまで見せると、途端に長谷部が顔を顰めた。

「それ、まがりなりにも食品なんだろうが。まだ食べてなかったのか」
「あまり本丸の仲間を疑いたくはないけれど、何か害になるものが入っている可能性もなくはないからね」

 燭台切の言葉を聞き、「なるほど、道理だ」と長谷部が同意した。
「つまり、送り主が本丸内の誰かだと目星がついているんだな?」
「あの日本丸外から僕宛ての小包がなかったことは確認済だし、主も何も知らない様子だった。第一、今うちの本丸の玄関に繋がる道は常に誰かが雪かきをしているから、門から入ってきた誰かの仕業なら目撃者がいるはずだ。でも、残念ながら訪問客を見たという証言はなった」
「客ではない――たとえば、外部からの侵入者の類という可能性は?」
「その可能性は限りなく低いかな。もし仮に本丸の結界を突破して外部から侵入できたとしても、誰もいない区域を通ろうとすればすぐ遭難しちゃうだろうからね」

 それに、燭台切の部屋の前の廊下は乾いていた。仮に何者かが外部から侵入し、吹雪の庭を踏破して本丸内まで辿り着けたとしても、体に付着した雪が溶け落ちた痕跡まで完全に抹消していったとは考えにくい。
 大体、主たる審神者相手ならともかく、そこまでのリスクを犯して燭台切個人にチョコを置いていく理由も特に思いつかない。

「誰にも目撃されず、遭難もせず、痕跡一つ残さず外部から侵入できたとして、チョコの包みひとつだけを僕一人に置いてまた痕跡を消して去っていくなんてことはあまりにも非合理的だよ。あの日は二月十四日だったし、普通に考えたら本丸内の誰かからのバレンタインチョコだと思う」

 燭台切の考察を聞いて、長谷部が頷いた。
「あの日は業者の出入りもなかったはずだ。そう考えるのが妥当だろうな」
 剥き終わったみかんの皮と筋をゴミ箱へと捨て、長谷部は籠に盛られたみかんの山からまた新しいみかんを手に取って剥き始めた。

「元より本丸の守りは万全だが、雪のせいでこの本丸はさらに侵入困難な要塞と化しているわけか。……雪かきには辟易していたところだが、そう考えると悪いことばかりでもないかもな」
「うーん、そういう見方もあるけど、その前にほら、こういうシチュエーション、君は好みだろう?」
「と言うと?」
「吹雪や土砂崩れで外界から隔絶された村や屋敷、絶海の孤島。そこで起きる内部の人間による事件……って言えばわかるかい?」

 悪戯っぽく瞳を輝かせて問うてくる燭台切の言葉を聞いて、長谷部はようやく合点が言ったとばかりに唇を吊り上げた。
「クローズドサークルか、なるほどな。だからわざわざ俺を呼んだわけか」
 燭台切は首肯の代わりににっこりと笑みを返した。
 長谷部はこの本丸内でも一、二を争う読書家で、なかでもとりわけ推理小説の類を好んで読んでいることは周知の事実である。
 そこでいったん燭台切は湯呑の緑茶を口に含んだ。こうして話している間に適温になっていた緑茶は、するりと喉を過ぎ去っていく。濡れた唇で燭台切が微笑む。

「そう。いかにも君が好きそうな話題だなと思ってさ」
「まあ嫌いではない。が、先にひとつ訂正させてもらうと、推理小説を読むからと言って、読者全員が稀代の名探偵サマみたいな抜群の推理力を持っているわけではないから、あまり期待するなよ。もし仮にそんな幻想を抱いているのなら、今すぐ屑籠にでも放り込め。いいな?」

 承知したよ、と燭台切が頷くのを確認してから、長谷部はまず箱の横に置かれた包装紙を手を伸ばした。
「箱についた指紋は調べたのか?」
「勿論。だけど、残念ながら箱以外の包装紙やリボン、メッセージカードに至るまで、どこからも指紋は検出されなかった」
「随分とまあ用心深いことだ」
「おそらく、チョコの梱包時に送り主くんは手袋をしていたってことだろうね」
「相手が念動力か全自動梱包機でも持っていない限りそうなるな」

 長谷部の手の中で、みかんの房の白い筋がぷちぷちと丁寧に取り覗かれていく。
「なら、チョコやラッピング用品の購入ルートから調べるのはどうだ? 本丸内の奴が贈り主だというなら、万屋あたりで聞き込んでみればわかりそうなものだが」
「一応お店の方には直接問い合わせてはみたけど、顧客の購入履歴は個人情報になるからって教えてもらえなかったよ」
「それはそうだろうな」
「一応、本丸側に残っていた全員の通販履歴は調べさせてもらってね、そっちの方にもチョコやラッピング用品の類は見当たらなくて――」
「おい、それも個人情報だろうが。まさかそっちまで調査済なのか?」
「気になったからね。あ、一応事前に主の許可は取ってから調べてるよ」
「…………なら、まあ、いいか。しかしそうなると購入ルートから調べるセンは潰れてるのか」
「うん。だけどね、万屋に問い合わせてみたら面白いことがわかったんだ」

 そこで燭台切は折り畳まれていた包装紙を天板の上に広げ、とん、と指で示す。
「このラッピング用品もチョコも、万屋では取り扱ってない商品らしいんだ」
「…………つまり?」
「全部一から自分で作ったか、特殊なルートでどこかから手に入れたか、そのどちらかになる」
「どちらにせよ、随分手の込んだ真似をするやつということだな」

 一通り剥き終わったみかんをもぐもぐと咀嚼しながら、長谷部は急須に入った緑茶を自分の湯呑へと注いだ。
「別に梱包なんてそのへんの店で買った品で構わないだろうにな。あえて珍しい品を使ったばかりに、こうしてお前に目をつけられたわけだ。……気の毒に」
 そう言って長谷部はずず、と緑茶を啜る。空になった急須を渡され、燭台切は電気ポットのお湯を急須へと足した。歌仙あたりには怒られそうだが、出がらしも悪くないと燭台切は思っている。一番茶より味や香りは薄くなっているものの、すっきりとしていて飲みやすい。
「そうそう。あとね、このラッピング、一見シンプルに見えて、よく見ると細かな装飾が入っているんだ。すごくお洒落でかっこいいよ。このチョコの贈り主は随分と僕の好みに詳しいみたいだね。そう思わない?」
 先程からどこか上機嫌な燭台切に、長谷部は呆れたような視線を向けて頬杖をついた。

「……本丸内にお前のストーカーがいるかもしれないっていうのに、呑気なやつだな」
「ストーカーだなんてとんでもない。僕の好みを一生懸命考えながらこれらの品を用意して、だけど自分は名乗らずに想いだけを伝えてくるだなんて、奥ゆかしくてかわいいじゃないか」
「趣味が悪い。俺だったらそんな怪しげなものすぐに捨てている」
「まあその話はいったん置いておくとして。このチョコの方も見てほしいんだ」

 燭台切が箱を開いて示したのは、薄紙製のカップの中にちょこんと収まった一粒のトリュフチョコレートだった。
「普通のチョコレートに見えるが?」
「うん。こうして見る限り普通のチョコレートだ。念の為石切丸さんにも確認してもらったけど、呪詛の類はかかってないってさ」
 表面にココアパウダーのまぶされた小ぶりのトリュフチョコレートへ、金色と藤色の視線がそれぞれ注がれる。
「手作りなのか既製品なのか、こうやって見ただけでは判別がつかんな。前者なら毒や薬の類が仕込まれてる可能性もあるが」
「たしかにその可能性もゼロじゃないね。でも、僕が注目したのはそこじゃないんだ」
 黒革の手袋を纏った人差し指が一本、燭台切の顔の前でまっすぐに立てられた。

「この箱には一粒しかチョコレートが入ってないんだよ」

 長谷部は怪訝な顔をして首をわずかに傾げた。それがどうした、と言いたげな視線へ、燭台切が口を開く。
「バレンタインのチョコレート、しかもこういったトリュフチョコなら最低でも三個か四個入りのものが一般的なんだよね。でも、これに入っているのは一個だけ」
「…つまり?」
「つまりね、既製品にしろ、手作りにしろ、贈り主くんはわざわざ一個入りの物を選ぶか作るかして僕に贈ってきているみたいなんだ」
「あれだけ梱包に力を入れておいて、贈ってきたチョコが一個だけとはなんともケチくさい話だが、お前としては助かるんじゃないか? たしか、お前、」
 長谷部の言いかけたことを察し、燭台切はすぐに台詞を引き継いだ。
「うん。僕、甘いものは嫌いじゃないけど、一口で飽きちゃうんだよね。特にチョコレートみたいな重めのスイーツは。その点も含めて、贈り主くんは僕の好みを知り尽くしてくれてる。でもね、」
 そこでいったん言葉を切り、燭台切は組んだ両手を天板の上に乗せてゆったりと笑んでみせた。

「――でもね。僕、その話をしたことがあるの、長谷部くんだけなんたよ」

「…………」
 押し黙る長谷部に対して、燭台切は「そういえば、」と言葉を重ねた。
「君は先週、帰省する主の護衛として何日か現世に遠征してたよね。チョコの出処まではわからなかったけど、このラッピング用品、現世の大きなお店でなら取り扱いがあるみたいなんだ。最近この本丸で主以外に唯一、これらを購入するチャンスがあったのが君というわけ」
 金色の視線の先で、長谷部は湯呑を掴んだままぴくりとも表情を変えなかった。ただ、探るような目つきで燭台切をじっと見返している。対する燭台切は上機嫌そうな笑みを浮かべていた。

「君以外に教えたことのない僕の好みを知っていて、かつ、現世でのみ流通しているラッピング用品を購入する機会があった君は、チョコの贈り主としての必要条件を充分に満たしている。――何か言いたいことはあるかな?」

 不敵に微笑む燭台切の視線を受け、暫し口を噤んでいた長谷部だったが、ふ、と不意に唇を歪ませた。

「……どうしても俺をそのチョコの贈り主に仕立て上げたいらしいな。探偵気取りだかなんだか知らんが、その情報でそこまで妄想できるなら、いっそ作家にでもなったらどうだ」

 掴んだままだった湯呑をことりと脇に置き、藤色の瞳に挑むような光を宿して長谷部が反論を始める。
「残念ながらおまえの推理もどきには穴がある」
 そこで長谷部はちらりと壁時計に視線を遣った。

「次の雪かきまでそう時間も残ってないし、手短に言わせてもらう。お前の推理だが、俺が誰かに全面的に協力し、庇っているかもしれないという視点が抜けている」
「勿論それも考えたさ。でも、それなら長谷部くんが『自分が贈り主だ』と嘘をつけばすべて丸く収まる話だ。ここまでの状況証拠で一番怪しいのは君なんだから、君本人からの自白があったなら、他の人へ疑いの目を向け続けることは難しくなる。なのにそれをしない理由がわからない」

 それを聞いて長谷部はハ、と鼻で笑う。

「名探偵サマはお忘れかもしれんが、現実のニンゲンというのは小説の登場人物のように常に論理的な言動ができるわけじゃない。咄嗟の思いつきや想定外のことも起こりうるし、嘘や誤魔化し、ミスだって当然ありうる。お前が知らない情報や事情だってあるはずだろう」

 それを聞いた燭台切は何かを言いかけたが、長谷部がそれを片手で制してきたので。喉まで出かかった言葉を渋々と飲み込んだ。

「そもそも、わざわざ名前を伏せてチョコを贈ってきた相手の正体を突き止めたところで何になる? 相手はおそらく本丸内の奴で、そいつには名前を伏せるだけの事情なり理由なりがあるわけだ。それを無理に暴いて満足するのは、探偵気取りの伊達男だけだろうが」

 吐き捨てるような言葉だった。わずかに俯いた拍子に、煤色の前髪が長谷部の顔に淡く影を落とす。
「……暴かなくてもいい真実だって、あるだろう」
 苦々しげに唇を噛むその表情を見て、燭台切はやり過ぎたかな、と内心すこしだけ反省した。これ以上追及したところで、恐らく長谷部は口を割らないだろう。

 気まずい沈黙を吹き飛ばすように深く息を吐き、「あのね、」とおもむろに口を開く。
「実のところ、贈り主が本当は誰かなんて僕はどうだっていいんだ」
 燭台切は探偵ではない。隠された真実を白日の下に晒す義務も趣味も持ち合わせてはいない。なのに、どうしてこのことにここまでこだわるかと言えば。

「でも僕は、このチョコの贈り主が君だったらいいなって思ってる。君のことが好きだから」

 本当はたったそれだけの、至極シンプルな話なのだ。

「なので、このチョコは君からのものだと思って食べることにします」
「…………………は?」
「贈り主は名乗り出てこないし、真実がわからない以上、どう受け取ってどう解釈するかは僕の自由だからね。いやあ、好きな子から本命チョコを貰えるなんてすごく嬉しいよ」
「は? え?」
「長谷部くん、ホワイトデーのお返しは何がいいか考えておいてね。僕が渡せるものならなんでも用意するから」
「いや、待て。ちょっと待て。待ってくれ。俺はそんなこと一言も――」

 なら、と燭台切は目を細めて笑った。

「こう言えばいいじゃないか。『おまえのことなんか好きじゃない。嫌いだ』って」

 長谷部の唇が何かを言おうとしてわななき、しかし何も言わないまま閉じられ、きゅうと真一文字に引き結ばれる。奇しくもついさっきとは逆の立場になってしまった。悔しそうに歯噛みする長谷部の様子に、燭台切は満足げな笑みを浮かべる。
 長谷部は燭台切のことを『嫌いだ』と口にできない。『俺はチョコの贈り主ではない』とも否定してもこない。わざわざ手間のかかる推理ごっこをせずとも、それらが示す事実なんてひとつだけだろう。

 ――そんな長谷部の不器用な素直さを、燭台切は心底いとおしいと思う。

 眉間に皺を寄せ唇を噛み締める長谷部を横目に、小ぶりのトリュフチョコをひょいとつまんで、口の中に放り込んだ。長いこと室温に置かれていたチョコレートは、口の中で何度か転がしただけで舌へ絡みつくようにとろりと蕩けていく。
 苦くて甘い勝利の味を噛み締めながら、燭台切は長谷部へと問いかけた。

「さて、何か言いたいことはあるかい、長谷部くん?」

 ――そろそろ雪かきが始まるから、手短に頼むよ。

 

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