シーソーゲームは終わらない

短編
     

46098文字(全9ページ合計)

【8】

 そんなやり取りを交わした夜、俺は長船さんの寝室のベッドの上で正座していた。

 俺は既に入浴や諸々の準備を済ませていて、今は交代で長船さんが入浴中だ。長船さんはせっかくだから一緒に風呂に入ろうと言ってくれたのだが、説得してなんとか思いとどまってもらった。恋人との初のお泊まりデートでいきなり一緒に風呂に入るのはいくらなんでも刺激が強すぎる。風呂から上がる前に間違いなくのぼせてしまうことが想像に難くなかったのである。

 とはいえ、これから俺に待ち受けているのは風呂で裸を見せ合うなんてことが児戯に等しいくらいの、破廉恥な行いである。俺の心臓ははたして最後まで保ってくれるのだろうか。

 長船さんにアプローチを始めた頃から、ネットの情報を頼りにアナルの開発に励んできたおかげで、現在俺の尻は指三本くらいならなんとか入るようになってはいる。いるけれども、いまだにアナルへの異物感やら嘔吐感が勝ってしまって、開発中に快楽を得たことはない。
 もしかすると俺の尻は不感症なのかもしれない。万が一にも長船さんとのセックスで気持ちよくなれなかった場合、長船さんには相当気を遣わせてしまうだろう。それだけはどうしても避けたい。仮に気持ちよくなかったとしても、長船さんのためにもどうにか気持ちいい演技でもして切り抜けなければならない。長船さんはタチ役なので、とりあえず入れて擦れば多少の快感は得られるだろうし、俺としては長船さんが俺の体で満足してくれれば満足だ。その方向で挑もう。

 切腹前の武士のような心持ちでそんなことを考えていると、寝室のドアががちゃりと開いた。
「長谷部くん、お待たせ」
 そう言ってナイトガウン姿の長船さんが部屋に入ってくる。はい、と半ば裏返った声で返事をして背筋を伸ばすと、長船さんは困ったように微笑んだ。
「楽にしててよかったのに」
「無理ですよ……!」
「じゃあせめて足は崩そうか」
 俺の隣に座った長船さんは、きっちりと畳まれた俺の膝をぽんぽんと叩いた。姿勢を崩せとのことらしい。おずおずと正座していた両足を斜めに崩すと、長船さんは「うん、いい子」とにっこり笑ってみせた。
 もういい子と呼ばれるような年齢でもないが、長船さんからそう言われるとなんだかどきどきしてしまう。言い知れぬ面映ゆさにきゅっと唇を引き結ぶ。

 シーツに置いていた手に、長船さんのてのひらがそっと重ねられた。そんな感触にすら反射的にびくついてしまう。強張る俺の手をあやすように、大きな手のひらがやんわりと俺の手を撫でた。

「怖いなら今日はやめておくかい?」
「……次に泊まった時は抱いてくれるって言ったじゃないですか」
「言ったけど、君の心の準備の方が大事だよ」
「怖くないですし、準備ならできてます」
「そうは見えないけどなぁ」
「できてます! これは、その、いわゆる武者震いというか……! し、尻だって、ちゃんと開発してきたので……っ」
「へえ?」

 長船さんが器用に片眉を上げて俺の顔を覗き込んでくる。
「……ぜひ見せてほしいな。長谷部くんが一人で気持ちよくなるところ」
 至近距離で吐息混じりに囁かれ、俺の顔に一気に血が上ってくるのがわかった。
「いや、でもその、あの、まだまだ精進が足りないというか、長船さんに見せられるだけの開発状況ではないというか……!」
「……うーん。なら、余計に今日はやめておこうか?」

 しまった。墓穴を掘ってしまったらしい。このままでは念願の初セックスが再び遠のいてしまう。混乱と焦りで頭がいっぱいになった俺は、取り繕うことも忘れて長船さんの手をぎゅうと掴んだ。

「あの、ゆっ、指なら三本は入るんです……! ただ、まだ後ろで感じられたことがなくて。俺の尻、もしかしたら不感症かもしれないんです。でも俺、長船さんとセックスしたいし、長船さんには気持ちよくなってほしいんです……! だから、もし俺が痛がっても嫌がっても、今夜は何が何でも絶対、長船さんに最後まで抱いてもらいます!」

 さっきまでの計画を速攻で投げ捨てながら捲し立て、縋りつくように隣の長船さんの顔を見上げると、長船さんは空いていた方の手で顔を覆っていた。
「長船さん?」
「ああ、いや、うん。……ごめんね?」
「はい?」

 俺の背中に長船さんの腕が回り、たくましい腕が俺を抱き寄せる。掴んでいたはずの手はいつのまにか握り返され、もう片方の手が湿り気の残る俺の髪をするりと梳いた。
 耳元に柔らかいものが触れる。濡れた音が鼓膜に届くと同時に耳朶をねっとりと舐められ、思わず「ふぇっ」と声が出た。

「……優しくしてあげるつもりだったけど、ちょっとがっついちゃうかも」

 耳をやわく食まれながら、そんなことを告げられる。俺は咄嗟に理解できず、しばらくぽかんと口を開けていたが、かけられた言葉の意味を理解すると同時、じわじわと顔に熱が集まってきた。
「ぅ、え、あの、」

 長谷部くん、と長船さんが俺の名を呼びながらゆっくりとベッドの上へと俺を押し倒す。二人分の体重を受け止めてもびくともしないやわらかで重厚なマットレスに身を沈めると、長船さんは俺に覆い被さるような体勢でそっとこちらの顎を掬って上向かせた。白い天井を背にして長船さんが笑っている。今まで見たことがないくらいの、これでもかと男の色気を滲ませた笑みに、不安によるものなのか、それとも期待によるものなのか、俺の背筋がぞくりと震えた。

「長谷部くん、」
 長船さんが再び俺の名を呼ぶ。顎を掬い上げていた右手から親指を伸ばし、俺の唇の輪郭を確かめるようにじっくりと撫ぜながら顔を近づけてくる。今すぐ逃げ出してしまいたいくらいに恥ずかしい。なのにどうしてか目を逸らすことも瞼を閉じることもできない。俺はただ魅入られたように目の前の長船さんが顔を寄せてくるのを見つめていた。
 こういう経験に乏しい俺でも、ここまでされれば長船さんが俺に興奮してくれているのがわかってしまう。心臓がBPM130くらいのテンポで脈を打っている。
「おさふね、さん……」
 どうにか喉から絞り出した声は情けなくも掠れ、震えていた。僅かに肩を強ばらせる俺に、くすりと笑う気配がする。
「大丈夫。心配いらないよ、長谷部くん」
 長船さんの吐息が肌に触れて、触れたところから体温が上がっていく。唇が触れるか触れないかくらいの距離まで近づいてから、長船さんは吐息混じりの声でこう囁いた。

「――――天国を見せてあげようね」

 

「……ぅ、あ、ぁ、んぅ……ッ」
 宣言通り、長船さんは丹念に俺の体を拓き、俺自身知りもしなかった性感の扉を根気強く開いていった。
 初めは触れられてもくすぐったいばかりだった乳首は、舌と指で散々転がされるうちに、じんじんとむず痒さに似た快感を感じるようになり。
 舌を絡めて歯を立てられるような深いキスをされながら全身の肌を撫で回されれば、いつのまにか鼻にかかった甘い声が漏れるようになった。

 手の指だけでなく足の指、そして足の付け根やへそに、脇の内側。自分でだってろくに触れたことがないような場所を、長船さんはひとつひとつ感度を確かめるように時間をかけて愛撫していった。
 性器とアナル以外、長船さんが触れてない場所がなくなった頃には、俺の下半身は先走りどころか精液でどろどろになっていて、ほとんど腰から下の感覚がなかった。

 その頃には沸騰した脳味噌が耳から流れ出るんじゃないかと思うくらい、思考も羞恥心もどろどろに溶けていて、長船さんがようやく俺のペニスに手を伸ばした時も、力のない喘ぎを漏らすことしかできなかった。
「……んぅ……」
「はは、いっぱい出したね」
 溢れた体液でぬるつく俺の性器を、大きな手のひらがちゅこちゅこと上下に擦る。射精したばかりでくたりと萎びかけていた性器は、それだけですぐに再び硬くなっていく。
「……もう復活してる。若いなぁ」
 長船さんはふふ、と笑いながら先端に口づけたかと思うと、そのままぱくりと俺の息子を咥え、口の中に収めた。
「っひ、ァ!」

 生まれて初めて感じる他人の口内の感触は、熱くてぬめぬめしていて、ただただわけがわからなくなるくらいに気持ちがよかった。口に含まれたまま竿全体を扱かれ、雁首のところを唇で締めつけられるとたまらない。裏筋をぞりぞりと舌でなぞられ、時折尿道口を尖らせた舌先で突かれると、もう何もわからなくなってしまう。俺が誰で、ここはどこなのか。このまま自我のすべてが蕩けていきそうな甘美すぎる快感に、俺はびくびくと体を跳ねさせて喘ぐことしかできない。

「や、ぁ……こわい、おさふねしゃ、やら、とける、とけちゃう……!」
「…………かぁわいい」
「ァ、あっっっ」

 じゅ、と亀頭全体を強く吸われて、俺は小さく悲鳴を上げながら長船さんの口に何度目かわからない精液を吐き出した。
「……そろそろ大丈夫かな」
 長船さんの呟きの意味を理解する間もなく、つぷりと俺の後口に何かが侵入してくる。指だと認識して反射的に腹に力を入れるよりも早く、長船さんは再び性器への愛撫を再開した。

「んっ」
「そうそう。そのまま力抜いててね」
 濡れた音と共に腹の中を異物が動く、あの独特の感覚はあるものの、それよりも長船さんが与えてくる性器への快感のほうが勝り、一人で開発していた時よりも不快感はなかった。
 腹の内側を探るような動きをしつつ、長い指が隘路の奥を目指して進んでいく。性器全体を咥内で締めつけられるのと同時、内部の感触を確かめるようにぐるりと中を混ぜられれば、鼻にかかった声が唇から勝手に漏れた。

「ぁ、は……ンッ」
「どう? 気持ち悪くない?」
「わ、かんにゃ……あ、ぁ、」

 なけなしの理性をかき集めて返事をした瞬間、ナカの腹側をぐっと押される。感じたことのない種類の衝撃に、俺の意識は再びどろりと融けた。

「ッッッ……!」
「ああ、ここだね」

 長船さんの指がたしかめるように何度もその場所をぐうっと押す。そのたびに、俺の意思とは無関係に全身がびくびくと震えた。
「ア、ぁ、や、なに、」
「前立腺。長谷部くんが気持ちよくなれる場所だよ」
 全身を愛撫されていた時の快感とは明らかに種類の違う感覚だった。これまで誰一人として触れたことのない場所、そこへの刺激はすぐには快楽と結びつかないものの、本能的にこれがアナルでの性感なのだと察せられた。
 あうあうと首を左右に振って初めての感覚に翻弄される俺に、長船さんが宥めるように声をかけてくる。

「長谷部くん、これが『気持ちいい』だよ。わかる? 声に出して言ってごらん」
「あ……き、きもち、いぃ……」
「そうだよ。ちゃんと言えてえらいね」

 いい子、という言葉とともに、内部の圧迫感が増した。指を増やされたのだ。
 快感に目覚めたばかりの前立腺を、二本の指が挟んで擦ると、尾てい骨から背中までびりびりと電流が走るような感覚がする。

「ぅ、あ……!」
「ほら、長谷部くん、言って。気持ちいいって」
「っ、……き、きもち、いい……ンッ、きもちいい……あ、おさふねさん、これ、きもちぃ…!」

 わけのわからないまま望まれた言葉を言われたとおりに繰り返すと、長船さんは「いい子」と褒めてくれた。

「とっても上手だよ、長谷部くん。かわいい。だいすき」

 褒められるのが嬉しくて、何より心地よくて。指で刺激されるたびに呂律の回らない舌で何度も気持ちいいと喘いでいるうちに、本当に気持ちよくなってくる気がするから不思議だ。
 ぐちゅぐちゅと水音を立てられながら、三本の指でスムーズにナカを広げられるようになる頃には、俺の顔は涙やら涎やらでぐちゃぐちゃに汚れていた。だけど、ああ、そんなことどうだっていいくらい、気持ちいい――。

 度重なる絶頂から忘我の境地に浸っていると、不意にシーツを握りしめていた手を捕まれ、ひょいと長船さんの背中に回された。
「捕まるなら、こっちにしてね」
 そう言って俺に覆いかぶさってきた長船さんは、ぐずぐずに解れて蕩けた入口に、なにかをゆるく押しつけてきた。熱くて、濡れていて、程よく弾力のある硬いモノ。長船さんのペニスだ、と理解した瞬間、蒸発しかけていた理性がすこしだけ戻ってくる。

「…………入れてもいいかい?」

 この期に及んでまで俺の意思を問う真似をするなんてずるい。どうせやめるつもりなんてないくせに。
 でも、そんなずるささえかわいいと思ってしまうので、そこは指摘しないであげることにした。
 俺は長船さんの首に腕を回して、ぎゅっと抱きしめる。

「……返品不可だって、言いましたけど」
「つまり?」

 どうしても俺にはっきり言わせたいらしい。本当にずるい人だ。ずるくて卑怯で臆病で――それでいてとてもかわいい、俺のすきなひと。

 ゆっくりと顔を近づけてから、俺は長船さんの形のいい鼻にがぶりと噛みついた。
「痛!?」
 鼻を抑えて目を白黒させる長船さんを見て、すこしだけ溜飲を下げる。それでようやく満足した俺は、今度はその下の唇にちゅっと触れるだけのキスをした。

「……入れてください。俺の初めて、長船さんに全部もらってほしいです」

 言い終わると同時、長船さんが深く口づけてくる。上顎を舐められて力が抜けた瞬間、指とは比べ物にならない質量のものが体内に入ってくる。
「ッ……ン、んんんっ! ふ、ぅ、………っっっ!」
 悲鳴も呻き声も全部唇越しに飲み込まれてしまう。俺が余計な力を入れようとするたびに、開発されたばかりのあちこちの性感帯をあやすように刺激されて自然と力が抜ける。そうしてようやく体内に穿たれた杭の動きが収まる頃には、俺も長船さんも肩で息をするありさまだった。
 汗で濡れた前髪を払いながら、長船さんが心配そうに俺の顔を覗きこんでくる。

「大丈夫? 痛くない?」
「……大丈夫です。全部入りました……?」
「…………ええと、八割くらいかな」

 思わず顔を引きつらせる。既に腹の中では長船さんが隙間なくみっちりと収まっている感覚がするのに、これでまだ全部ではないらしい。

「いや、でも僕の大きいし、最初から全部入れるのはちょっと無理だと思う。そのへんはおいおいね」

 なんとなく悔しいような、末恐ろしいような、そんな気分になる。恐る恐る下腹に手を当ててみた。

「長船さんの、ここまで入ってるのに、まだ奥まで来るんですか……すごいな」

 もう少し本腰を入れてアナル拡張に努めたほうがいいのだろうか、と腹を撫でながら考え始めたあたりで、雄膣に隙間なく収まっていた長船さんの陰茎がさらに膨らんだ、気がした。

「え」
「…………長谷部くん、それはずるい」
 なにがずるいのかと問いかける間もなく、腰を引かれてずるずると腹の中のペニスが抜かれていく。
「え、え、やだ、」
 何か引かれるようなことを言ってしまったのかと半泣きになりかけたが、次の瞬間には抜かれたペニスが再び奥までずんと突き入れられていた。

「ッッッッッ!!」
「っ、ん……さすがに、まだちょっときついか」

 そうして粘膜同士を馴染ませるようにゆるゆると腰を動かされると、取り戻したはずの俺の理性はコーヒーに入れた角砂糖のようにばらばらと溶けていってしまう。

「ア、あ、やら、なに……っひ、あ、んんっ」

 散々指で刺激された前立腺を擦られるたびに未知の感覚が全身にびりびりと響き渡る。
 その感覚をどう呼べばいいか、俺はもう知っていた。

「おさふねさん、アッ、や、きもちぃ、んっ、だめ、これ、きもちいい、あっ、ッ」
「うん、僕も……っ、はあ、すごく、気持ちいい……!」

 荒い息を吐きながら長船さんが腰を振るたび、肌と肌がぶつかる湿った音が部屋の中に響く。どちらからともなく唇を重ねて、お互いの呼吸を奪い合うようにキスをする。二人分の体液でぬめる肌と粘膜とを重ね合わせ擦り合わせ、上からも下からもいやらしい水音をさせていると、まるで一匹の巨大な軟体動物にでもなったような気分だった。

 この胸を占める泣きそうなほどのいとおしさと幸福感をすこしでも長船さんに伝えられたらいい。そう思って、キスの合間、切れ切れの息の中で「気持ちいい」と「だいすき」を譫言のように繰り返す。長船さんもそのたびに同じ言葉を返してくれる。気づけば俺はぽろぽろと涙を零しながら長船さんの腰に両脚を巻きつけていた。

「すきです、長船さん、んっ、すき、ぁ、やぁ、ア、それ、はげし、ぃ……!」

 長谷部くん、と掠れた声で何度も名前を呼ばれ、奥を突かれる。抜き差しのスピードが上がってきて、長船さんの限界が近いのを悟る。ごりごりと亀頭で前立腺を抉るように擦られて、俺はほとんど悲鳴に近い声を上げてのけぞる。曝け出した喉に、長船さんが噛みついてくる。すっかりばかになった頭では、急所を噛まれる恐怖よりも興奮のほうが勝っていた。

「んんんっ」
「ぼくも、だいすき」

 出すよ、という声とともに一際強く奥を穿たれる。それと同時に長船さんが俺の性器を刺激して、俺の陰茎はあっけないくらい簡単に精液を吐き出した。長船さんも低い呻き声を上げながら俺の肩に顔を埋め、やがて挿入していた性器をずるりと引き抜いた。
 そうしてお互いの息が整ってきた頃になって、俺たち二人はおずおずと顔を見合わせた。まだ涙で視界のぼやける俺だったが、長船さんが悪戯っぽく笑っているのは雰囲気で察せられた。

「なんですか?」
「本当に不感症じゃなくてよかったなぁと」
「……………………ばか」

 俺は寝返りを打って枕に顔を埋めた。今ならわかる。あれは完全に失言というか墓穴だった。もしCtrl+Zで発言をなかったことにできるならそうしたい。

 尻であんなに気持ちよくなれるなんて知らなかったし、すきなひととのセックスがあんなに心満たされるなんてことも知らなかった。きっとこれからも、長船さんから沢山のことを教わるのだと思う。それを考えると、なんだか恥ずかしくてむず痒い気持ちになる。

「結構無理させちゃったから、今夜はもうおやすみ。後始末は僕がやっておくから」
 長船さんの大きなてのひらが俺の頭を撫でるうちに、とろとろと瞼が落ちてくる。どうやら自分で思っていたよりも体力を消耗していたらしい。睡魔がすぐそこまで迫っていた。

「…………おさふねさん、」

 夢の中へ沈みそうになる意識をどうにか引き止めながら、俺は口を開く。

「これからも、よろしくおねがいします」

 どうにかそれだけ言って重い瞼を閉じると、額に唇の触れる感触がした。

「……うん。こちらこそ、よろしくお願いします」

 はにかむような声色で告げられたその言葉を聞いて、俺は安心して眠りの世界へと落ちていった。

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