自分の横で寝ているこの男は誰だろう。とてもうつくしい顔立ちを、している。
「……なあ、おい、」
肩を揺すろうと手を触れた瞬間、男がばっと起き上がった。
「長谷部くん!?」
こちらの肩を掴み、見知らぬ男は心配そうな顔で覗き込んできた。
「大丈夫? 気分が悪いとか、体が痛いとかない?」
「あ、いや、だいじょうぶ、だ。多分……」
むしろどこかすっきりとした気分ですらある。
「良かった……」
ぎゅう、と体を抱きしめられて男の香りに包まれると、知らず体から力が抜けてしまう。
「長谷部くん、どうしてあんなこと、」
「長谷部って俺のことか?」
疑問を口にすると、男は驚いたように身を離してじっとこちらを見つめてくる。
「……わからないんだ。自分が誰か、ここがどこか、どうしてここにいるのか」
眼帯で隠されていない方の目が丸く見開かれる。綺麗だな、とぼんやりと思った。レモン味のキャンディみたいな色だ。
男は何かを考えこむように口元に手をやった。黒い革手袋に包まれた長い指が唇をなぞる仕草がやけにセクシーに見えて、思わず視線を泳がせた。
「……君は長谷部くん、長谷部国重くんだよ。君は……そう、ちょっとした事故で頭を打ってここに運ばれたんだ」
「そうなのか」
どうやら自分の名前は長谷部で合っているらしい。
「あ、ええと、おまえは俺のなんだ? 同僚とか、友達とか……あと名前は?」
「僕は長船光忠。君の運命の番だよ」
「運命の番……」
幸いアルファとオメガの特殊な繋がりのことは記憶に残っていた。運命の番、この男が、自分の。不思議な感じがする。
光忠は長谷部の手をゆっくりと両手で握り、ほうと息を吐いた。
「とにかく、君が無事で良かった。記憶のことはゆっくり思い出していけばいいよ。なんなら僕のことはもう一度最初から好きになってほしい」
「光忠……」
番のことを忘れた薄情者になんて優しいんだろう。じいんと感動していると、そっと体を抱き寄せられた。
「長谷部くん、大好きだよ。愛してる」
その言葉に胸がぎゅうと締めつけられ、目頭が熱くなる。愛の言葉に泣きそうな気持ちになるのも、光忠の香水混じりの体臭にこんなにも安心するのも、おそらく光忠が運命の番だからだ。
「光忠、」
きっと自分はこの男を好きになれるだろう。
甘い予感に胸を震わせながら、長谷部は広い背中にゆっくり両腕を回した。
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