長谷部は赤い錠剤をゴミ箱へと捨て、ゴミ袋の口を縛った。今日はゴミの日の筈だったから、このまままとめておけばきっとそのまま捨てられることだろう。
自分の身の丈に合わないものをようやく手放すことができて、長谷部はふーっと長い息を吐いた。思ったよりもずっと、この毒薬は長谷部の重荷になっていたらしかった。
右手で前髪をかきあげ、力なく笑う。
「…………は、」
忘れよう、と思った。
かつての恋人のことも、その恋人への感情も、全部全部心の奥底に閉じ込めて、忘れたことにしよう。だって自分にはもう他の道はないのだ。光忠におとなしく愛されてさえいれば、もうこれ以上誰も傷つかなくて済む。
長谷部はすっと立ち上がってキッチンへと向かう。
目覚めのコーヒーを淹れよう。光忠が好きだという、濃いめのブラックを。それからたまには長谷部が朝食を作ってみせるのもいいかもしれない。きっと光忠は喜ぶだろう。
ポットでお湯を沸かし、常備してあるコーヒー豆をミルで挽く。挽いた豆とフィルターをドリッパーにセットしてお湯を注ぎ入れる。湯気に乗って香ばしい香りが部屋いっぱいに広がった。
諦念も憎しみも悲しみも何もかも、苦い苦いコーヒーで流し込んでしまおう。
零れた涙がシンクの中にぽとんと一粒落ちたのを、見なかったことにして。
長谷部は己の番の為に手を動かし続けた。
【ゲームブック風小説】いつだって愛してる
短編
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